シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の7)

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タイトル:「アクマロの憂鬱」

我輩は悪魔である。名前はあるものの、真名を知られた悪魔に待つ運命は死よりも汚辱なる運命のみ。ではあるが、現在は故あり、アクマロの名に甘んじている。
我輩はいにしえのアッカドで崇め奉られておられる風と熱風の魔王、パズスさまの一騎士を勤めていた。誇り高き軍団にして、我が命の燃え盛るを存分に発揮し燃焼させられる場を与えてくださる慈悲深きお方、それが我が主だ。
いや、だったか。
今、我輩が仕えているのはキリコという女だ。
いやいやいや、思考までが冒されている。
あの娘とはなんら契約など結んでおらぬ。ただ我輩が善意で力を貸し与えてやっているにすぎぬ。

我輩たちは第三階層を西に進路をとりつつ慎重に歩みを進め、世界樹地図にしるしを刻みながら確実に力をつけながら迷宮を闊歩していた。

と、
前方にそびえる扉の前に二人連れの冒険者の姿が見える。
一人は漆黒のローブをまとった少女、
もう一人は一本の刀を手にした鋭い目つきの長髪の女性である。これまで見たこともない様相だ。
「何者だ!?」と刀を手にした女が激しい声で問いかける。
藍色の前髪から見え隠れする額にはくっきりと傷跡が浮かぶ。我輩はこの女を古豪の使い手とみた。寄り添うように立つ少女からは常人には判別出来ぬであろう瘴気を嗅ぎ取った。はるか昔、そういう輩とは幾度も槍を鉾を、鉄塊を、そしてこの拳を交えてきたものだ。

我輩らが冒険者だと告げると二人組は頷き、少し警戒の色を解いてみせた。いや、その指向性の殺気が我らからは外れただけだ。なおも我輩にはぴりぴりと感じ取れる。
「エトリアからの冒険者か。ならば執政院の連絡を受けていないか?」
刀を手にした女性は、何も知らない我輩らの様子に呆れたように首を振った。
「私達は執政院ラーダの指示によりこの地を見張っている。
私がブシドーのレン、こっちがカースメーカーのツスクルだ」
刀を手にしたレンと名乗る女はその背後で警戒した様子でこちらを伺う少女の名も告げる。
「とにかく、一度街まで戻るんだな。執政院ラーダを訪れて、
詳しい話を聞いてくるといい」
レンと名乗る女性は冷たくそう言い放つ。
キリコは不承不承といった様子で万歳をし、
「んじゃ戻ろっか」あっさりきびすを返した。大方酒でも切れたんだろう。そんなところか。
場所を執政院に移す。
レンとツスクルに会ったのかと、執政院の男は顎に指を当て、申し訳ないが、今はあの先に行くのは諦めてもらいたい。と言った。
樹海の下の階から、危険な獣が徘徊しているようなのだ。
我々はミッションを発動し腕の立つ冒険者にオオカミ退治を
依頼しようと考えている。安全が確認できるまではあの先の調査は諦めてくれたまえ……。
キリコとアラト、それにミュウが検討している。アラトは慎重派。安全を確保してから進めべきだと。パラディンの言いそうなことだ。それに対し、キリコとミュウは楽観派。いや単に面白ければなんでもいいのかもしれん。さすがに我輩もこやつらのことが分かってきた。
言うまでもなくアラトの意見は通らなかった。我輩も彼には感じ入るところがあり、頑張って欲しいものだと思う。

そうか、君たちが引き受けてくれるか!
ありがとう。
では、詳細を話すことにしよう。
樹海の三階以降に、我々がフォレストウルフと呼ぶオオカミの
群れが多数目撃されている。
それだけならばいいのだが……そのオオカミの群れを率いる
魔物がいるようなのだ。
スノードリフトという名のボス。
それがオオカミを操り、樹海の5階で冒険者を待ち受けているらしい。
無論、ヤツらを倒す力を持つ冒険者を執政院では雇っている。
君たちが出会った二人組みがそうだ。
しかし、全ての魔物を彼女たちが倒したのでは……多くの若い冒険者が経験をつみ育つことができない。
そこで彼女達には若き冒険者たちのサポートをするように命じてある。
彼女たちの助力を得て君たち若き冒険者が、スノードリフトを倒してくれ……。

我輩の血が騒ぐ。
スノードリフト。オオカミを束ねるもの。
全てを刈る影をかるく凌ぐような強敵がいるのだ。
どくん、と我輩の中で我輩の我輩たるものが蠢く。
檻から放てと轟き喚く。
エトリアに伝わる都市伝説がある。
「メディックは人体のあらゆることに通暁することで、治すのも自在、そして破壊するのも自在」
殴りメディック。そう呼称されるもの達が冒険者の中にはいると風聞している……。
「キリコ」
「なーにー、アクマロ」
「我輩もこのいくさ、参戦したいのだ」
「参加してるじゃない。それに助かってるわよ」
「ではない。後衛など、我輩の本懐ではないのだ。前衛でアラト殿やアンジェー殿と肩を並べあって死合たいのだ」
「メディックなんだし、しょうがないでしょう」
「殴りメディックという噂を耳にしたことがある」
「でもあなたはそうではないわね」
「ギルドに補欠はあるな」
「あるけど?」
「一人追加を頼む」
「あら? どうして」
「我輩はパズスの騎士ぞ。我輩の獣性をOTFで解き放ち、もう一人の我輩を生むのだ」
「なるほど、メディックをもう一人増やして殴りメディックの可能性を探りたいってわけ」
「さもありなん」
「面白そうね」
こうしてアークマロがギルドに参入した。

第三階層から四階層へと降りる階段付近の部屋ではカースメーカーのツスクルが回復役として控えていた。
その部屋を拠点にアークマロはメディックの本分である回復を一切捨て、ATCを鍛え、ついにはヘヴィストライクを習得するに至った。
そして第四階層に降り立ちf.o.eのフォレストウルフと対峙する。スノードリフト前の腕試しといったところ。
アラトが防御陣形を張り、アンジェーがヘッドボンテージを決め、ミュウが聖なる守護の舞曲を歌い踊る。キリコが雷撃の術式を発動させ、そして……アークマロのヘヴィストライク!

結果から言えば、歴然だった。
頭一つ突き抜けてアークマロの一撃が何よりも大きかった。メディックが前衛に混じり、いや先頭に立って戦いののろしを上げるのは可能なのだ。
だがしかし、
「アークマロ」
「ふわっはっは。どうだキリコ。我輩の力は圧倒的ではないか。敵なし、敵なしぞ」
「盛り上がってるところ悪いんだけど、このギルド名言ってみてちょうだいな」
「うむ? 『キリコのたて』ではあるまいか」
「盾の仕事って?」
「主を守ることであろう」
「アラトを見なさい」
ずたぼろだ。ぼろ雑巾とはかくあるべしみたいなよれよれ。
「アンジェーを見なさい」
同じくよれよれ。擦り傷だらけだ。
「たての意味するところはあたしを守れ! って意味もあるわよ。でもそうじゃなくって防御主体のギルドってこと。
メディックは大人しく回復してなさい。それが厭なら、回復全部マスターした上で強さの極みを目指して頂戴ね」

アークマロの頭上にどこからともなくカナダライが降ってきたが誰が落としたか、いまだに謎のままである。

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