シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の12)

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kiryugaya

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タイトル「緊縛!? 森の王者!」 

地下八階と九階の階段の上り下りに辟易しながらも、「キリコのたて」一行は九階の地図を(僕が)地道に埋めていた。
そんなある日。
執政院ラーダに久しぶりに顔を出す。
すると興奮した様子で執政院の眼鏡が現れ、キリコの手を握った。
雷撃。
鼻と口から黒煙を噴きながら、不用意な眼鏡は背中の後ろから長を押し出し、眼鏡を拭い始めた。
長は九階にたどり着いたことをまず讃え、それから地下十階に鎮座し、数多の冒険者を葬りさった獣の王について語り始めた。
「地下10階に存在するその魔物、我々は、古の神の名をかりてケルヌンノスと呼んでいる。
その昔…、腕の立つ何名かの冒険者は地下10階の奥まで言ったと聞いているが……。
ケルヌンノスが地下10階に鎮座するようになって以来……二人の例外を除きこの街の冒険者で第三階層に到達した者はいない」
二人の例外。メンバーの誰の脳裏にもよぎる。
ブシドーのレンとカースメーカーのツスクル。
世界樹の最下層にたどり着くには彼女らを凌駕する力を獲得せねばならないのだ。
「そいつをぶっ倒せばいいんでしょ?」
キリコが事も無げに言う。
アクマロも頷く。
アンジェーはあさっての方角を向いているが、エッジウィップを引っ張ったり束ねたりを繰り返している。
ヒナコが「そいつってどれくらい強いのかなぁ。わくわく」
嗚呼、僕が締めてかからないと、この人たちはダメや……。

そして十階。
マッパーの僕に言わせれば、
げふんげほん
パラディンの僕に言わせれば、
この階はやたらと部屋数が多い。
密林の中で部屋数と表現するのもどうかと思うが、木々が密集して中にぽっかりと林床がむき出しになっている部分がある。そこがいわゆる部屋状になっていて、そういった部屋が並列して幾つも連なっているのである。マッパー泣かせである。
もう一つ、この階のF.O.Eはデカイ。
災いの巨神という全身真っ赤なゾウを見て、こいつがボスだ! と思ったものだ。事実、何回か踏み潰されて瀕死者が続出した。油断大敵。
密林の最奥だけあり、高温多湿。しかも蟲や粘菌、虎や蠍がひしめいている。体力の消耗が激しく、幾度もアリアドネの糸で脱出し、休息を交えながらおよそ三日ほど。
密林の奥深く、多くの獣を退け、進んだ先に二人組の人影があった。
レンとツスクル。
「やはり君たちだったか。よくここまで到達したな」
レンが後輩の成長を喜ぶかのようにかすかに頬を緩めた。
ツスクルは相変わらず、ウサギの継ぎ接ぎ人形を抱き締めながらレンの背中から僕らを伺っているが警戒心を感じない。
「つくつくつくすくツスクルちゃ~ん」
キリコがツスクルのほっぺたをむにむにしているのを見、レンが呆れた表情を浮かべた。或はこの緊張感の無さに脱力したのかもしれない。実に申し訳ない。
「執政院が誰か冒険者を送るといっていたが……
「キリコのたてが選ばれたわけか。まあ、よかろう」
レンは首をふるとバックパックから一つの飲み薬を取り出し、キリコに代わってツスクルに詫びている僕に差し出す。
「樹海の奥で手に入れた植物を加工し作った薬だ。戦いの際に重宝するだろう」
レンはその飲み薬を渡すと樹海の奥へと視線を向けた。
「密林の王ケルヌンノス。
ヤツの住みかはすぐ近くだ。注意して進むんだぞ」
「合点承知の輔!」
キリコのおどけたバトルクライにパーティーの誰もが頷く。
この眼前の二人すらいずれは超えるべき壁なのだから……。

異形。
異形だ。これまで出合った怪物はどこか進化の過程で僕らの次元と交差していた。
あれは違う。
緑の木々に囲まれたその中心に、これまで、僕らが出会った事のない異形の怪物が直立している。
その圧倒的な威圧感……、
その魔物は僕らに視線を向けると一歩ずつ歩み寄ってくる。

「直立した……ライオン?」
ヒナコが呟く。
「いやいや、あれは黒山羊。魔術シンボルの黒山羊」
これはキリコ。
「千匹の仔を孕みし森の黒山羊か。シュブ=ニグラスの亜種かもしれぬと我輩は思う」
アクマロが濃い知識を持ち出す。
「……」
アンジェーはなにも口にしない。彼女はすでに戦闘状態に意識を切り替えている。エッジウィップがしなう。
「それじゃ行きましょう!」
僕が口火を切って飛び出した。
刹那。
エッジウィップがまさに咆哮を上げんとするケルヌンノスの頭部に荊のように絡みつき束縛した。
ゴシック調のボンテージスーツが艶やかに黒の旋風となり舞曲を踊る。
艶やかさに目を奪われていたヒナコが我に返り、サジタリウスの矢を天空に放つ。
アクマロが医療防御を発動させ、僕も防御陣形を構えた。
キリコが雷撃の術式に入り、
その間にもケルヌンノスの狂猛な両腕をアンジェーが緊縛していた。
僕も負けじと渾身の力を込めたシールドスマイトをぶつけ、
アクマロが樹海で独り極めたヘヴィストライクを、自重と遠心力を加えた超加速でボーンフレイルを叩きつけた。
雷撃の術式。
天空から飛来するサジタリウスの矢。
もはや樹海の巨木にも似た両足すら束縛されたケルヌンノスは、己の巨魁をただぶつけてくるだけにしか過ぎない。
ケルヌンノスの一撃で前衛の僕は言うに及ばず、後衛のヒナコすら傷を負っている。だが致命傷ではない。アンジェーの仕事のおかげだ。その技に惚れ惚れする。
彼女は芸術家なのだ。
そして、
黒く美しき旋風は歩みを止め、密林の王、獣の王者に一礼した。
「ごきげんよう」
凄愴ではない、普段無口の彼女、アンジェーがこの時ばかりは朗らかに嫣然と華のように微笑む。
「エクスタシー!」
巨魁が崩れ落ちる音。ヒナコが歓声を上げている。アクマロも己の一撃を確かめている。キリコが当たり前なのだって表情で、戦利品である森王の角を切り出そうと躍起になっている。
アンジェーは振り返らず、
「さぁ、道は開きました。行きましょうマスター」
キリコにかしずくと、アンジェーは再び口を閉ざした。
アンジェーの言うとおり、第三階層、地下十一階に下りる洞が眼前に見える。
僕らは頷くと再び歩き始めた。

(続く)

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