シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の14)

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タイトル「カエル道場」 

もう何度目だろうか。
吹雪の息。
アラトの防御陣形を吹き飛ばし、その猛威は後列に届き、
ヴェランドが宙を舞っている。
そして地上に落ちる前に凍結し事切れている。
「アンジェー!」
キリコの激が飛ぶ。
ラバーウィップが巻きつく。
十分にたわめられた我輩のジュエルスタッフが、百年の永きに耐えた甲羅を砕き潰す。
強大な総身。それが地響きを立てながら永劫の玄王、蒼樹海に棲む百年亀は、堕ちた……。
……
「アラトくん、ネクタル用意して~」
ネクタルとは秘薬の一種で、死者を冥界から呼び戻し肉体を再生する力を持つ。それを加入したばかりのブシドー、ヴェランドに飲ませようとするのだが……。
「キリコさん、もう空です」
そう。空。彼女一人の為に全て使い切ったのだ。いやはや。
ギルド名が表すように、こちらが死ぬ前に怪物を殺る、或は味方が死なないように準備する、迷宮を探索する上でのモットーだ。
しかし、花道ながらに迎えられたヴェランドはどうしようもないひよっこだったのだ。
霧生ヶ谷市に現れた最初の出会いで、名状しがたい都市伝説の一つである「杉山さん」を持ち前のルーンで健闘撃破した彼女も、ことわりの違うこのエトリアでは羽根の揃わない、目も開かない雛鳥にすぎない。
「みんなー、一度帰るわよ」
と言いつつ、キリコは我輩に手伝わせながら永劫の玄王から甲羅をちゃっかり剥いでいる。アラトが凍結して今にも砕けそうなヴェランドを背負う。そして磁軸へ……。

「皆さん、すまない」
息を吹き返したヴェランドが殊勝に詫びている。
キリコもアラトもアンジェーも誰も彼女を責める気はない。
お嬢ちゃんのひたむきさは皆承知の上。
「気にしなくていいってば。ヤマトやミュウ姐さんみたいに非戦闘員もいてるギルドなんだから。
でも身の程は知れたでしょう?」
身の程を知る。これはお嬢ちゃんの師匠が彼女に対して送ったはなむけの言葉だそうである。
「お嬢さん、あなたがどんな修行をウルド氏の下で行ったのかは知らない。でもね。例え真剣で動かぬ、物言わぬ抵抗せぬ麦藁を一方的に何万回と斬ったところで、生身を相手に無駄な苦労と思いなさい。ウルド氏もそう考えているはずよ」
キリコは「金鹿の飼葉桶」をジョッキで飲みながらこんこんと説く。別に酔っ払いが管を巻いているわけではない。パズスさまの一騎士であった我輩にも得心がいくものだ。
「アクマロ、あんた殴りメディックとしての道を究めようとしていたわね」
うむ? 急に我輩に話を振るとは?
「いかにも」
「ヴェランドと共に十一階にこもってきてくれる? そうねぇ。期間は二人が納得するまで」
ふむ。考えおったな。技術の習得見直しを許可する代わりにお嬢ちゃんの面倒を見ろといったところか。面白い。
「だそうだが、お嬢ちゃん。我輩と死合いに行くか?」
「はいっ! アクマロ殿、頑張ります!」
こうして雛鳥と我輩自身を鍛え直す為に、二人だけで蒼の樹海、十一階層に我輩らは赴いた。

「ヴェランド、あれが見えるか」
我輩が指差す先には灰緑色で風景にすっかり保護色で溶け込んでいるカエルがいた。
森林カエル。
この辺りでは別段珍しくもない生物だ。先ごろ相手にした永劫の玄王とは比較にもならぬ、か弱い輩だ。我輩のスタッフ一振りで弾け飛んでしまう。
だが、連中は何処にでもいて、しかも性質が悪いことにひとたび相手になると際限なく仲間を呼び続ける習性を持つ。
「奴らと常に相対する環境で鍛えるとするか」
「強くなれるのなら、いかようにも」
「霧生ヶ谷での死合いは見ていた。一撃必殺の構えの心意気はよし。でもこの樹海では必殺などあてにはならんのだ。
まずは打撃をひたすら鍛える。その次は連撃。そしてお望みなら一撃で敵を葬る必殺剣を。
我輩は役に立たん回復を捨て、蘇生の技術を習得しよう」
我輩はニヤリと嗤ってみせた。
「目標は森の王ケルヌンノスを二人で撃破だ」
「ケルヌンノス……」
ヴェランドはその名を脳裏で反芻させ、そして上気した顔で
「オーディンの左目に、いや今はこの刀にかけて!」
言葉尻を樹海にたゆたわせながら、ヴェランドは抜刀し、迫り来る森林カエルの群に飛び込んでいく。

その日の我輩たちは優に三百の森林カエルを糧とした。

(続く)

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