シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の15)

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タイトル「女王とその奴隷たちの暮らす宮殿」 

「良く練り上げたな」
冒険者ギルド長がヴェランドの冒険者手帳にぽんぽんと印を打っていく。
曰く皆伝の印。
アクマロとヴェランドが一週間、宿にも帰らず黙々と森林ガエルを無心に斬り続けた結果だ。
純粋に武を練り上げ、一撃の打力を底上げし、更には疾さまでも身に着ける。
今のヴェランドにはそれが出来る。
攻撃が当たると死ぬ。防御を捨てたヴェランドは紙の如き装甲だ。女性ゆえのたおやかな柔らかさをあえて捨てずに、必要な練武だけを行い続けてきた。
「アラトくん、手合わせしてくれる?」
キリコがギルド裏の庭にアラトとヴェランドを連れていき、そして対峙させた。
「お嬢さん、アラトくんはパラディン。貴女の攻撃は本気でないと通用しない。殺すつもりで挑みなさい」
アラトが困惑する。そして腕組みして眺めているアクマロにいいのかと目線で訴える。
「アラト殿、構わん。お嬢ちゃんは以前のお嬢ちゃんとは違う。本気を出すことだ」
「うむ、アラト殿、本気で手合わせお願いしたい」
ヴェランドが頭を下げる。すでに柄に手が掛かっている。

キリコがパンと拍手を打つ
風が奔る。
アラトがヒーターシールドを掲げる隙にヴェランドが上段の構えで間合いを詰め、
そして、アラトの防御陣形が完成する瞬き一つの瞬間に、三連撃、すなわち、小手、胴、頭部に亀裂が生じていた。
「あーあ、死んだわね」
「うむ。死んだな」
「えー、アラトくん死んじゃったの?」×2のユニゾンででヒナコとミュウ。
「男は別に良いんだってよ。Fカップくんの勝利」
「……」ぱちんとアンジェーが鞭を引っ張る。
「負け?」
「むろん負けだ。ブーストして防御陣形を張るべきだった」
アクマロが嬉しそうに解説している。エトリアでの束の間の愛弟子は思うが侭に育ってくれた。
「本気のヴェランドは寸止めしてくれないからのう」
アラトの頭部に触れただけの刃を鞘に戻し、ヴェランドは一礼した。

地下十二階。
さして広いわけではない。
ただ、入り組んでいる。デッドエンドが随所にあり、その隅々に到るまで、蟻酸で溶かされ踏み固められた……これは巣だ。
十五を数えるF.O.Eの全ては蟻。道往く中で遭遇し、巣からの排除を挑んでくる無数の敵も蟻。
蒼樹海。この深き深海の地になぜかそぐわない。だがそれが世界樹の迷宮たる所以でもある。
踏破は楽ではない。二度、三度に渡りエトリアへ戻り休息を交えながら、それでも確実に殺人蟻の数を減らしていく。
今の前衛はメディックのアクマロ、ダークハンターのアンジェー、そしてブシドーのヴェランド。
後衛にはアルケミストのキリコとパラディンのアラト。
十二階の最奥、巧妙に偽装された隠し通路を抜け、襲い来る四体のハイキラーアントをねじ伏せる。
愛しき女王を守護する最後の砦だ。
まったくもって残念ながら、美的センスはどうやら人間とは相容れそうにもない。
「サソリかなぁ?」キリコ
「カマキラスかもしれませんよー?」アラト。
「それの合体したものかもしれないですね」ヴェランド。
「……気に入らない」アンジェー。
「お主ら、毎回飽きぬことだのう」アクマロ。

以上のようなものの複合体が、ふかふかに施された巣材の上で大儀そうに鎮座していた。
大きさだけならケルヌンノスと変わらない。
その向こうに下へと降りる洞が見える。
「押し通る!」
女王、クイーンアントが補足する頃にはヴェランドが上段の構えを既に取っている。
アラトが防御陣形を張り、アクマロが医療防御でそれを更に補強した。ブーストし加速したラバーウィップが鉄をも容易に噛み砕きそうな顎を封じる。
キリコが雷撃の術式を立ち上げ……、
突然の闖入者を大人しく迎えるはずもなく、クイーンアントの五対ある手足が女王の鉄槌となり振り下ろされた。
パーティー全員がそれを受け止める。死者は出ていない。
しかしヴェランドはすでに瀕死だった。
「お嬢ちゃん」
アクマロがヴェランドに声を掛ける。回復はしない。死線を越えねば身の程も、更にはその先の高みへも到達などできないのだから。
アクマロがジュエルスタッフに渾身の力をこめヘヴィストライクを放つ。アンジェーがアームボンテージを決める。
敵からの攻撃は、もはやあがくのみの単調な腕の振り回しに堕したも同然。そしてアラトのシールドスマイトが胴体を打突し、完全に動きを止めた。
溜めに溜めていた闘気をヴェランドが一気に解き放つ。
構えは既に終わっている。TPの底上げがないヴェランドにとって、今はこれが最上で最後の一撃だ。
三連撃。つばめがえし。
アンジェーの鞭を振り払った手負いの女王はあぎとをむき出してヴェランドに圧し掛かっていった。
刹那。
刃は首と胴と腹の接合部を切断し、
チンと元の鞘に納まった。
気負いはない。いつもの所作だ。ヴェランドは解け掛かっていたサラシを締めなおして居ずまいを整えた。

(続く)

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