シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

怪異の裏にあるもの ― 加阿羅 (カーラ) 編 ―

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怪異の裏にあるもの ― 加阿羅 (カーラ) 編 ― 作者:望月霞

 バサバサ……パサ。 ―― ぼんっ!!
 
 
 ふぅー、ようやく着いたよー。 まったくもう、面倒くさいなぁ。 何でおれが討伐しないといけないかなー。 仕方がないかぁ、ジジの命だし。

 今おれがいるところは、海が近くて山も近いところ。 つまり、“崖” にいるんだよー。 そうだな~、人間の呼び名で言うと、北区と式玉子ヶ谷山地の間かな? だいたいそんな場所なんだ。 と言っても、ここはそこじゃないんだけどね~。

 なら、ここはどこかってことになるよねー。 でも、それは秘密なんだなぁ。 そうだなぁ、人
間が住んでいないところ、と表現しておくよ。

 それに。 お客さんがもう少しできそうだから、ね。

 とりあえず、それまではジジの入れてくれたカニのお吸い物でも飲もうかな。 これ、薄味
だけどおいしいんだよね~! まぁ、他のも入ってるけどね~。

 ってことで、おれはお客人が来るまでのんびりすることにした。
 

 …… ――― ザワザワ ――― ……。 ジャリジャリ。


 ありゃ、もう第一弾がきたのかなぁ? カンベンしてよ~、お茶ぐらい飲ませて欲しいなぁ。 はぁっ。

 さて、と。 軽くひと口飲んだ後は戦闘モード。 さすがにのんびりしていられないからね。

 おれは腰に帯びている愛刀を抜き放つ。 ちなみに使うモノは、人の間で言う“刀” 。 お
れは普通に “太刀” って呼んでるけど。 この辺はまあ、日本刀通ならわかるだろうね。 簡単に言うと、長さの違いなんだよ。

 んま、そんなことはどうでもいいや。 問題、でもないんだけど、目の前に迫っているお客
人の世話をしなきゃなんないし。

 何となく察しはつくかな。 お客人は変わった風体の持ち主。 ちょっと前に会った、ジジの知り合いらしい人とはまた違う。 彼らの姿はボロ衣なのだ。

 <ウアアァア。 ヨコセ、チカラトニクヲヨコセ>

 「力はともかく、肉は持ってないよ。 おれ、妖怪だもん」

 <ウアアアァアアッ! ヨコセヨコセヨコセ!!>

 だめだこりゃ。 こっちの話なんて聞いちゃくれない。

 「あのねぇ。 怨念を持っても仕方がないでしょ? 惨めなだけだって」

 <グガァァアアァアアッッ!!!>

 ありゃりゃ。 怒らせちゃったかなぁ。 本当のことを言っただけなのに。 ……様子を見る限りだと、これは始末に悪い。 よほどの人間嫌いのようだ。

 おれは1対複数戦を余儀なくされる。 相手は雑魚とはいえ、やっぱり面倒くさい。

 初めは規則的に右に左にとやってきた。 それをおれは逆側に動き太刀を斜め反対側へと振り下ろす。 第一波は、あっけなく倒れた。

 「それぞれ得意分野が違うんだ。 いい加減天にでも土にでも返ってくんない?」

 <ググ……>

 と、おれは殺気を込めて言い放つ。 というのも、敵は厄介な特性を持っているからなんだよ。 奴等には、おれが得意とする戦法 ―― 太刀での物理攻撃があまり効かない。 だからなるべく関わりたくないというのが本音でもある。

 「ここで引き返すならよし。 そうしないのな」

 「―― なら? 一体何だというのかな、坊や」

 と、ボロ衣お化け、ならず “怨み坊衣 (ぼうき) ” の間から割って出てきた、ひとりの妖怪
階級の輩。 ちなみに、怨み坊衣はひとつ下の、怨霊類だ。

 「ほほう? 怨霊風情といえど、この数を相手にしているのだからどの様な奴かと思うた

  が……。 よもやこんな餓鬼 (がき) とはな」

 「おれはこの姿が気に入っているんだ。 あんたの様な、背中に蜘蛛の足を生やす悪趣味はないからね」

 「ふん。 糞餓鬼にこのセンスはわかるまい。 だが、実力はそれなりにあるようだ。 ここ

  はひとつ、霊子のもくずとなってもらおう」

 冗談じゃないって。 何が悲しくてあんたの言う通りにしなくちゃあいけないのさ。 しかも、見た目はよぼよぼの糞爺のクセしていっちょ前に横文字を使ってるし。

 「そうそう。 人は見かけによらずっていう、人間の言葉があるの知ってる?」

 「おお、知っておるわい」

 「そうかい。 なら、それはお互い様ってことだなっ!!」


  ゴウンッッ!!!


 と、周囲にある土を煙と変える。 別に脅しでも何でもなく、実力だ。 面倒くさいことが何よりも嫌いなおれは、一気にカタをつけようと力を解放したんだよ。

 「冥土の土産に教えてあげる。 おれの名は加阿羅、大妖怪 ・ 加具那 (カグナ) の第一意思さ」

 「な、何じゃと!?」

 「話は終わり。 早いところ終わらせて、お茶を飲みたいんだ」

 と、おれは己が力のひとつ、風の力を太刀へとまとわらせる。 風と共に舞った土埃が視
界を遮るが、何の問題もない。 この技の有効範囲は、台風みたいなものだから。

 「霊子により風 (ふう) を生み、風は力を呼びさまさん ―― 風輪大蛇 (ふうりんだいじゃ) !!」

 とおれは、振りかぶった太刀に付いている風を大蛇の姿へと変え、敵陣へと襲わせる。
一時的に生み出された生き物は、獲物を見つけるや否や食らい尽くしていった。

 しかし、相手は妖怪クラス。 そんな簡単に消えてはくれず、反撃が待っていた。 これに
は予期はできていたので動きは早かったが、いわく付きだったのは予想外だった。

 「ぐっ……。 ど、毒粒 (どくりゅう) !?」

 「ふぉふぉふぉ。 侮ったな、餓鬼! お前さんのような風を主体とする妖怪で助かったわい」

 くっそー。 面倒くさいことは嫌いなのに~っ!!

 「これで動けまい、この毒粒はかなりの」

 「うるせぇな! とっとと消えちまえ!!」


  バブッ、シュルルルルル!


 と、ぷっちん切れしたおれは、毒粒をはるかにしのぐ呪具 ―― 獏亡糸 (ばくもうし) を放
つ。 これは、この世界に住む生き物に絶大な効果を発揮する毒を含んでいる糸だ。 先ほど奴がまいた毒粒をさらに加工して効能を強め、鉄粉を混ぜて造りだされた武器のひとつ、と言えばわかりやすいかもしれない。 おれはそれを、太刀の装飾品と一緒に持っているんだよ。

 「ギジジ……! キ、キサマッ!!」

 「おれを怒らせるからさ。 弟や妹だって、本気では角を立たせないようにしてるのに」

 「ウグググ、タ、タスケ ――」

 「今更命乞いか? 悪いけど、一定以上怪異の原因を人間界に持ち込ませるわけにはいかないんでね」

 と、敵の体に巻きついた獏亡糸を、問答無用に引っ張った。 その瞬間、奴の体はお世辞にも綺麗とはいえない無残な姿へと変貌する。 ―― 後は、輩の “本体” ごと片づければ終了だ。

 分体があっけない幕切れをさらした後、 “本体” は総力戦を強要する。 そう、背中から蜘蛛の足が生えていた姿の爺さんは、囮だったんだよ。 おれがそちらに力を使い果たすと踏んだんだろうね。

 本体 ―― 正確にはその意思を持たされた “怨み坊衣” が一斉に空から襲いかかる。
だが、予想以上の数だった。 初め見たときは氷山の一角だったんだろう。

 仕方がなく、懐から火 (か) の霊子で作った爆薬を取り出す。 そして、おれが持つ風の
力とを合わせ、自分を中心に爆火炎を巻き起こした。 怨み坊衣は、文字通りボロ衣。 こ
れにはひとたまりもないはずだ。


  ドウンッ!! ゴゴゴゴゴ……


 爆炎と共に凄まじい音も鳴り響く。 とりあえず、他に悪意を持つ気配か感じられなかった
ので、そのまま煙が収まるのを待つことにした。

 しかし、その間鈍い痛みが体を走った。 何だろうと思って、四肢を動かしてみたんだけ
ど、左腕がまったく動かない。 不思議に思ったおれは、右手を反対側の腕にそえてみた。
だが、見事に空を切る。

 「あ~っ、左腕まで吹っ飛んじゃったのかぁ~」

 ……最悪のひと言だよ~。 一応、被害の程を確かめるため、右手を肩まで移動させた。 でも、最初に触ったのは案の定腕の付け根。 おそらく獏亡糸を引っこ抜いたとき、奴は一部をおれの左手につけたんだなー! こうなるんだったら、もっとこらしめておくんだったよぉっ。

 <―― 羅、加阿羅! 何かあった?>

 と、伽糸粋 (カシス) の声がした。 たぶん、さっきの爆音が気になって連絡したんだろ
う。 ちなみにこれ、霊子術のひとつ、蓮卦 (れんか) の声 (せい) だよ。

 「あ~、火 (か) の爆薬を使ったんだよ~」

 <その割には音大きすぎるじゃない。 風も一緒に使ったんでしょ?>

 「まぁね~。 それが主な原因じゃないけど、左腕なくなっちゃったよ~」

 <はぁっ!? あんた何やってんのよっ!!>

 「あはは~。 これは加濡洲 (カヌス) に任せるって。 ところで、そっちはどう?」

 <こっちも終わったわよ>

 「そう。 怪我は?」

 <大したことないわ。 後回しでも大丈夫だし、これぐらいならあたしでも治せるし>

 「わかった。 なら、艮 (うしとら) で」

 <うん、後でね>

 という、フツーの会話が終わった。 そして、入れ違いに今度は加濡洲からの伝達が。

 <おい、加阿羅! 何ださっきの音は!?>

 「爆炎だけど~?」

 <だけど~? じゃねぇだろーがっ!! だったら何で霊気が落ちてんだよ!?>

 あ~ぁ、また説明するのかぁ~。 面倒くさ~い!

 「かくかくしかじか」

 <そんなんでわかるかぁぁっ!!>

 「短気だなー。 ところでさぁ、今からそっちに行かせてよ~っ」

 <ああっ? 勝手に来ればいーだろ>

 「冷たいこと言わないでさぁ~。 腕治してよ~!」

 <……お前、それが霊気落ちの原因かよ>

 「うんっ♪」

 <だぁ~っ、もう! わーったよ!! 治してやっから、とっととこい>

 「んじゃ、よろしく~」

 <……はっ? 早く飛んでこいって。 待っててやっから>

 「それが腕一本ないんだよねぇ。 痛くて変化の術が使いませ~ん」

 <アホかてめぇっ!!>

 「だ~か~ら~! 何とかしてよ~。 術、得意でしょ~?」

 と、手玉に取ると面白い弟をからかう。 う~ん、やっぱりこれはやめられないなぁ。

 そういう風に思っていると、呆れてものが言えなくなったらしい彼は、ようやく、

 <貸しだからな。 ドンパチが終わったら何かよこせ>

 と伝え、1回蓮卦の声の術をきった。 それから数分後、おれの体は徐々に気の流れにと
けていき、やがて視界から戦場が見えなくなっていく。 次に気が付いたときには、目の前に
加濡洲がいた。

 「……思ったよかひでぇな。 少し時間かかっかもしれねぇ」

 「大丈夫だって。 伽糸粋のほうは既に終わってるってさ」

 「ならいいんだけどよ。 んじゃ、早くしねーとな」

 と、多少ブツブツと文句をたれていたが、次のことを考えるとそうも言っていられない。 何が起こってもいいように、万全をきさなければいけないからね。

 ということで、先の偵察は伽糸粋に任せ、おれはひとまず治療を受けるのだった。

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