ひと時の夏 作者:望月霞
一見どこにでもあるような光景の、しかし不思議なものがあるとされる、霧生ヶ谷市。人口は約70万、市の面積は大体444平方キロメートルから494平方キロメートル。 全部で7区分されており、特産品は霧生ヶ谷うどんという、これだけを見ればごく普通な市である。
もちろん、先にも述べたとおりのものがある。 “霊子”
という、陰陽道をかたどったかのような存在があったり、それを制御するための巨大なアンテナが備え付けられていたり。 上げるとキリがないのだが、様々な不思議現象が目撃されているのが、この霧生ヶ谷市なのである。 もちろん、この場に住む人柄は、他方の地区と同じようなもの。 “少し不思議”
が頭をなでている、ちょっぴり面白いところなのだ。
そんな市の中の一区に、東区という一角がある。 交通の便はよく、隣区をつなぐ6号線と同区を南東に向かって走る5号線が健在し、さらに、関東地方への玄関口となっている、霧生ヶ谷私鉄も走っているところである。
ところで、今日はその東区にお祭りがあるのだ。 駅から東に流れている、九頭身川を越えてさらに東に行くと、小高い丘が見える。 そのふもとを、ぐるりと囲むように露店が並び、地元の人々はもちろん市外からもやってくるほどの賑わいだ。 祭りのフィナーレには、丘の上で花火が催されるのも、大きな目玉となっている。
そんな祭りの参加者の中に、少し珍しい兄妹がやってきた。 年のころは中学生ぐらいの子が3人に、小学校中学年ぐらいな子が1人。 おそらく、3つ子の兄妹に下の子がいるという構成なのだろう。
「あっちー……。 何で今日はこんなに暑いんだ!」
「そう言わないでよ~。 余計に暑く感じるでしょ~」
「あちぃモンはあちぃんだよ!!」
「洋服着てるんだから、いつもよりは涼しいわよ。 ねえ、加悧琳 (カリン)」
こくこく、と、問いかけた女の子の隣にいる男の子はうなずく。 夏風邪でも引いているのだろうか、一向に声を出そうとはしない。
「あ~、でもさぁ、あんまり着慣れてないから動きにくいね~」
「そうか? 袖がない分楽だろ」
「そうね。 あたしはかなり楽だわ。 それに、色々と着こなしできてうれしい!」
「え~? そうかなぁ。 何だかフワフワしてる感じなんだけど~」
と、相変わらずのんびり口調な加阿羅 (カーラ) 。 彼は、いつも着ている和服のほうが好みのようだ。
「軽いのがいいじゃん! なんてったって、足具しなくていいのがいいよなっ」
「普段から軽装じゃないか~。 袖だってないし~」
「バカ言え、服に仕込んであんだ。 重いっつーの」
「非力だね~! もっと鍛えなよ~」
「オレは普通程度にあるわっ!! お前が怪力すぎんだよっっ!!!」
と、心外とばかりに反撃に出る加濡洲 (カヌス) 。 こちらも、変わらず勝気な性格をしているようだ。
「ふん! オレは動きでかき回すタイプだからいいんだよっ。 ったく」
「いじけるなよ~。 瞬発力ならおれのほうが上だしね~」
「加阿羅、普通そこはフォローするところなんじゃないの?」
「え~っ、こっちのほうが面白いでしょっ♪」
「いっぺん霊界に逝ってこい!!」
しゅっ、と、加阿羅の耳元でなる拳の軌道。 しかし、彼は口にしたとおりの反応をし、“きゃー、殺される~”
という冗談まで言って先に走り出した。 かわされた加害者はというと、頭に血が上ったようで、そこから湯気を出し追いかけていく。
「まったくもー、あいつらは……。 加悧琳、気にしないでいいわよ。 それより、あたしから離れないでね。 危ないから」
こくり、と、目線の先にいるふたりを追いながらうなずく加悧琳。 ……どうやら、のどを痛めているのではなく、話せないようだ。
そんな弟の心配をしながらも、言いたいことを読み取りながら会話している伽糸粋 (カシス) は、マイペースに会場へと向かっていった。
祭りの入り口付近にあたる、山にある神社の鳥居のところに、加阿羅たちは待っていた。
彼らは、ひと足先に気分を味わっている。
そんなふたりの元に一番幼い弟が駆け寄り、長兄におねだりをした。
「んー、たこ焼き熱いから気をつけるんだよ~」
「飲みもん持ってるか?」
「一応はね。 なくなったら露店で買えばいいかなと思って」
「それもそうだな。 おい加悧琳、あっちにゲームとかあるぞ? 行ってみるか?」
と聞かれた彼は、男の子らしく顔を、ぱっ、と輝かせ、うれしそうにうなずく。
「今日はこいつを人げ ―― いや、人波に慣らせなきゃならねぇ。 先に行ってるぞ」
「わかったわ。 気をつけてね」
「お前もな。 念を入れて加阿羅と一緒に……って、食ってねーで人の話聞けよてめぇ!!」
と、焼きそばをほお張っている加阿羅に向かって、ヤジを飛ばす。 しかし、能天気な彼には効果がないらしく、気にせず箸を置いてばいばい、と手を振った。
「~~~……、いいやもう。 気を取り直して、行こうぜ加悧琳!」
と、彼は弟の手を引きながら、人の中へと紛れていく。 ……残ったふたりはというと、
「あたしたちはどうする? って、毎年恒例よね。 あんたは」
「そうそう! とりあえず、5軒先まで買ってあるよ~♪」
「本当にどうなってんのよ、あんたの胃袋はっ!!」
と叫ぶ伽糸粋。 それもそのはず、彼女の目の前には種類にして5つ、袋にして3つの食べ物の山が差し出されていたのだから。
時間にして、今は午後6時を回っている。 さすがの太陽も眠いらしく、少しずつ眠りへと落ちていく。 そんな淡い光の下で、伽糸粋は休憩をしていた。 周囲はお祭りに夢中らしく、人通りはほとんどない。
「ふぅ……。 よく食べるわねぇ」
「おいしいからね~」
「そりゃそうなんだけど……」
「家のもおいしいよ? 無理はしなくていいからね~」
「あー、ありがと……」
と、加濡洲たちと別れてから30分近くたつというのに、食べるペースがまったく変化しない加阿羅だが、その隣では今にも目が落ちそうな伽糸粋がいる。 どうやら、彼女は限界のようだ。 彼に答えた生返事が、それを証明しているように見える。
「それにしても、太らないからいいわね。 羨ましいわ」
「ん~? 妖怪だからじゃないの?」
「妖怪でも太っちょはいるじゃない」
「そーだっけ? 覚えてないなぁ」
「現在進行形でもいるし、2 ・ 300年前にはもっといたわよ。 モロモロのせいで!」
「あ~、あれは嫌だったな~。 さすがのおれもイライラしたし~」
「ジジは楽して手伝ってくんないし。 最悪だったわね、あれは ――― ……」
「? どうしたの~?」
と、加阿羅は、急に黙り込んでしまった妹に声をかける。 そんな彼女は、自分の座っている方向に顔をむけた。 そちらには兄がいるのではなく、街頭がぽつりぽつりと灯っているだけである。
「……何か感じる? 面妖な奴はいないんじゃない?」
「そういう類じゃないわ。 何だろう、あっちのほうに何かあったみたいよ」
と、伽糸粋。 彼女の特殊な能力である “遠目 (とおめ) ”
は、霊子の流れを読み取り、様々な情報をもたらしてくれる。 ふたりの兄や弟にはない、彼女だけのものだ。
「動けるなら行ってみる?」
「そうね、たまには野次馬になるのもいいかも」
「ふうん? 珍しいね~」
「ま、まあね」
と、どもる。 それに意味があるのかないのか、問いかけた加阿羅にはわかる由もなかった。
「さすがに距離があるし、人間界じゃあ流れが違うからよくわからないわ」
「ん~、まあ、大丈夫なんじゃない? 変質者がきても問題ないし~」
「そうね。 とりあえず、行ってみましょうか」
と、伽糸粋は多少軽くなった体を動かし、加阿羅と共に、騒ぎの中心へと顔を出しに行った。
騒ぎの中心らしきところにやってきたふたりは、大小の山々を見つけ、自分たちもその仲間入りを果たした。 しかし、仲間入りどころか、台風の中心へと巻き込まれてしまう。 そう、騒ぎの発端は兄弟たちが起こしていたのだ!
とはいっても、原因がはっきりしない以上このまま入り込むわけにはいかないので、まずは観察することにする。
「だから言ってんだろぉ? そのガキがぶつかってきたんだってよー」
「そうなのか?」
ぶんぶんぶん、と、勢いよく首を振る彼。 絡んできた相手がかなり怖いらしく、涙目になってしまっている。 その手は、しっかりと行動を共にしていた加濡洲の服をつかんでいた。
「違うって言ってるけど?」
「俺たちがウソついてるってのかー?」
「そんな酒臭い息で話す奴のことなんか信じられるかよ」
「おにぃさんたちは、よっれいましぇんよ~。 ねーぇ、お嬢ちゃーん」
「こいつはオレの弟、つまりは男! 大体、いい年した奴が酔っ払って他人様に迷惑かけてんじゃねぇよ、バーカ」
「んだとこのガキ!?」
がっ、と、6人のうちの1人が、加濡洲の胸ぐらをつかみあげる。 瞬時にカッとなった彼は、右腕が相手のあごへと伸びた!
「こ、このガキ……ッ!!」
酒気を帯びた、おそらく大学生ぐらいであろう彼らは、いっせいに襲いかかる。 しかし、軽快なフットワークを生かしながら連中をかわし、前線にいる2人をみぞおちと足払いの餌食へ。 いったん状況判断するとばかりに、加濡洲は立ち上がった。
―― たいしたことはない、ただの酔っ払いだ。 といっても、数が数だし、術が使えねぇとなると地道にぶちのめすしかないか ――。
大きさのハンデは動きでどうにかできようにも、問題は時間である。 戦い慣れているとはいえ、ここは “人間界”
なのだ。 自分が住んでいる世界とは、勝手が違いすぎる。
少々の戸惑いを感じているところに、感のよい数人が彼へと突進してくる。 難なく避けた彼だが、待ち受けていたひとりが、彼の両腕をつかみかかった!
「ぐっ、やべ……」
「このガキが! 少し痛い目に遭わせてやる!!」
「それは困るなぁ。 放してもらえる? 可愛い弟なんだ」
ぎゃぁぁっ、という悲鳴と共に、加濡洲の左腕が自由になっていく。 事の端を見ていた彼は、すかさず肉親の助けに入ったのだ!
「今だよ、あっちを翻弄しておいて。 こっちはいいから」
「おし、了解!」
と、彼の体が男の図体から離れると同時に、加阿羅は左手を自分のほうへともってくる。 軽く関節をはずすような感じだ。 もちろん、そうはしていないが、痛みはしばらく残だろう。
加阿羅が乱入したことによって、流れは必然になってきた。 しかし、非常識はどこまでいってもそのようである。 分担して4人目をKOしたところで、厄介なことが起こった。 そう、連中の1人が遠くのほうで怯えていた加悧琳を見つけ出し、こともあろうにナイフを突きつけているのだ!
「じっとしてな。 こいつをけがさせたくねーだろ?」
「銃刀法違反だよ? お兄さん」
「へっ。 まず自分の心配すんだな」
フッ、と、加阿羅の背後の上に、頭半分の影が忍び寄った。 加悧琳に集中していたせいで、警戒力が薄れてしまったのだ。 当然のごとく、相手のひざを腹に食らい、首のつけねには拳同士の連携技を受けてしまう。
「はははっ、正義顔のアニキにはお似合いだな。 次はてめ」
ぼばしょん! と、話し途中の男の側面に、ゴミ袋が炸裂。 しでかした張本人は、怒りに任せて怒鳴り散らす。
「うちの兄弟に何すんのよ! この変質者っ!!」
「な、何しやがる!?」
「自分の頭に聞きなさいよ! それとも、その捨てた持ち主同様、中身がないからわからないかしらっ!?」
ズカズカズカ、と大股気味に歩みより、加悧琳を危険人物から奪い返す。 それから数歩下がり、彼に声をかけながら怪我をしていないかを確認した。
しかし、これはまたとない好機とばかりに、今度は伽糸粋に襲いかかる。 やはり、相当酒を飲んでいるらしく、頭が回っていないようだった。 ナイフを持った男は、頭ではなく自分の体が宙に舞っていることに、衝撃がくるまで理解していなかったらしい。
どういうことかというと、彼女は弟を連れ突進をさけ、彼を残し男のほうへと小走りをする。 その後は胸部をつかみ見事な背負い投げを披露したのだ。
「うっ……??」
「あーぁ、かわいそうに。 そいつ、柔道習ってんのにさ」
「ちっ、あの役立たずが」
「人のこと言えるの?」
がしっ、と、加阿羅をうつ伏せにした男の足首に、彼の手があった。 実は、加阿羅は食らって気絶しているフリをして、ナイフ男の様子を伺っていたのだ。 それが必要なくなった以上、やることをやるだけである。
彼は足首をつかみ男の行動を封じると、すぐさま飛び起きて胸ぐらをつかむ。 そのまま自分のほうへと引き寄せ、相手の背中もつかむ。 次の瞬間には、男の目線は空中へと向けられていた。 加阿羅は、力任せに男を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけたのだ!
「嫌だね~! 図体だけ大きくて、その実たいした力持ってないなんてさ~」
「……まっ、普通はオレたちぐらいの年に、力任せで投げられねぇよなー」
「ううっ……」
と、本当のところは、加阿羅の筋力がありすぎるだけなのだが、いやみを散々言いつけてやったふたりは、妹と弟のもとへと集まる。 万事は、よい結果に終わった証だ。
「ち、ちきしょう。 こんなガキ共に……」
「留置場で、たっぷり後悔するのね」
「留置場? どういうことだよ」
という加濡洲に、伽糸粋は、にこっ、と笑って “携帯電話” を取り出す。 彼女は、パカッと開けると、発着履歴の欄を見せた。
「ゴミ袋投げる前に警察に連絡しておいたのよ。 後始末はその人たちにしてもらえばいいわ」
「さすがだね~。 じゃ、逃げようか~」
「だな。 とっととずらかんねぇと。 ―― おい、どうした?」
と、加濡洲はあさってのほうに向いている加悧琳に呼びかける。 すると、彼は何を思ってかその方向へと駆けだした。 その行き先には、姉に投げ飛ばされたナイフの男。 はいつくばって逃げようとする彼に、加悧琳は仕返しとばかりに両足で思いっきり踏みつけてやったのだ。
男は無残にも、ぐえっ、とヒキガエル状になる。 それには、ふたりとひとりの兄と姉はおろか、観客までもが笑いの渦を作り出した。
「喧嘩があったというのはこちらですかっ!?」
「おっ、きやがったきやがった。 撤収するぞ!」
「了解っ」
「りょうか~い」
と、警察が到着し、こちらに来たと同時に、加濡洲、伽糸粋、加阿羅の順で逃げ出した。 最後尾の長男は、途中でカエル生成者を片手で持ち上げながら去っていく。 しかし、彼らの姿を見た警察官は、待つように言いながら追いかけてきた。
人だかりが邪魔をしたというのもあったが、相手は子供だからそう遠くにはいっていないはずと、警官は中央にそびえたっている丘へと侵入する。 だが、彼らの姿はどこにも見当たらない。 その辺に隠れているのだろうと探しても、服の切れ端はおろか、髪一筋をも見つけることができないでいた。
「ごくろーサマって感じね」
「だな。 見つかりっこねぇのに」
「今頃通報者がいなくてびっくりしてるだろうね~」
「声色使ったから大丈夫よ」
「携帯は~?」
「そんなもの解約したように見せるのよ。 よくやるでしょ」
「さすが女狐! 考えてんなぁ」
「あとで覚えときなさいっ!!」
「オレのように演技すりゃいいじゃねぇか」
と、笑い声を交えながら会話する加阿羅たち。 しかし、その声は警察には届きはしなかった。 何故なら、彼らは丘の頂上に立っている一番大きな木の上部にいるし、それ以上の理由として、既にこの世には存在しないはずだからだ。 もちろん、そう思っているのは人間たちだけなのだが。
「やっぱり、和服は落ち着くなぁ~」
「加悧琳、あいつらのことは気にすんなよ。 人間も悪い奴らばっかじゃねぇんだからな」
「そうよ。 いい人だっているんだから」
「その気になれば友達だってできるよ~ ―― あれ? 大丈夫? 怖いならこっちにおいで」
と、加阿羅は、落ちまいと木に必死でしがみついている加悧琳を下ろし、自分のひざの上に乗せてあげた。 兄に押さえてもらった彼は、すっかり落ち着いたようで、会話へと加わる。 そんな仕草を、加濡洲と伽糸粋は心配そうに見つめていた。
「……心配しなくてもいいよ。 もう平気だから。 それに、おれが言いたいのは違う人だよ」
「ああ、こないだ言ってた迷子のか?」
「そうそう。 地理上結界が張りにくい、あの山にいてさ~。 びっくりしたよ~」
「でも、よく捕まんなかったわね。 その子。 よかったわ」
「ちょっと危なかったけどー。 おれが消滅させたから平気だよ~」
「ん? あんたまさか、その格好で、じゃないわよね?」
「うん。 人の気配がしたから、ちゃんと作り変えて出たよ~」
と、当時の状況を説明している加阿羅に、聞いていた加悧琳は彼の服を引っ張った。 どうやら、話がずれてるよ、と言いたいらしい。
「ああ、ごめんね~。 ただ、覚悟が必要だよ? 人はおれたちと違って歳をとる。 年齢を重ね、やがては死ぬ。 所詮は違う存在なんだから」
「思ったんだけどよ、お前から接したわけじゃないよな?」
「大樹くんがそう言ってくれたんだよ。 また会って遊ぼうねって」
「遊ぶ? どうやって?」
「さぁ。 さすがにそこまではわからないよ~」
「合わせるしかないわね。 それは」
と、伽糸粋は兄を見た。 彼は、右手にいる兄妹とはまったく正反対の方向を向いている。 ……そんな彼からは、悲しみと寂しさの、両方を感じ取れた。
加阿羅は、それを振りきりかのように加悧琳に手を沿え、いつか話すよ、と言う。
少し離れたところにいるふたりの視線にも気がついたらしい彼は、すまなそうに切り出した。
「ふふ、せっかく楽しかったのに。 ごめんね」
「いいって。 オレも楽しかったしよ! やっぱ、今日の勤労賞は加悧琳だな。 あの踏みつけはサイコーだったぜ!!」
「そうだねー! あれは大笑いさせてもらったな~」
「確かに! お、思い出したらおなかが痛くなっちゃった」
「笑いすぎだってば~、あはははは!」
と、しばらくはまた笑談に花を咲かせる。 兄たちに褒められた加悧琳は、とてもうれしそうに微笑んでいた。
「げほげほ。 ま、まあ、色々とあるけどよ」
「そうね。 これからも陰ながら、って感じかしら」
「うん。 最近は環境問題があってアレだけど。 消えて無くなるまでは見ていようよ~」
「さりげなく恐ろしいこと言うなよ、お前……」
―― 時代と共に区間や名称は変わっている。 だが、たとえどのような名をつけれらようとも、ここは彼らの故郷でもあるのだ。
だんだんと彼らの活動時間とされる時刻になった合図である、暗がりに咲いた大輪の花を、妖怪たちはいつまでも魅入っていたのだった。