シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

獅子の紅葉

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   ― 獅子の紅葉 ― @ 作者 : 望月 霞

 

 キーンコーンカーンーン、キーンコーンカーンコーン ――― ……
 今日の学業の始まりが鳴り響く。 ちなみに、今のは音的に終わりのものだ。
 本日の時間割は、現代文、英語、数Ⅱ、体育、リーディング、物理というメニュー。 変な話、バランスは取れているかも知れない。
 だが、1時間目の先生が訳あって今日はお休みなのだと聞いた。 それもあって、学級委員長である私は、HRに頼まれたプリントを取りに行っている。 職員室にさしかかると、私は障害物を叩き中へと入った。
 「失礼します」
 「おお。 藜御 (あかざみ)、すまんな。 千田先生の机の上にあると言うから、それを頼んだぞ」
 「わかりました」
 と、たまたまいたクラス担当の先生 ―― 高田先生はそのように告げ、私に指示を出す。 まあ、逆らう必要もないし、自分はこれを取りにきたのだから素直に教室へと持っていった。 一番上を見ると、漢字プリントのよう。 ざっと100問はあるだろうか。
 ……これは来週、早くて今週末には出るかも。 あの先生、テスト好きだからなぁ……

 プリントを教室へと持ってきて、黒板に “自習” と書き、教壇の上から説明をする。 その後は自由。 まあ、どこにでもあるような光景だろう。
 おっと。 失礼、私の名前は藜御 楓 (あかざみ かえで)。 この学校では学級委員長をやっているの。 ついでに言うと、通っている学校名は “都立玖河 (くが) 高等学校”。 普通科オンリーの、普通の学校なんだよ。 でも、この学校には大きな噂があるのだけれど。
 「おい、久遠 (くどう)! お前、オレたちの分のプリントやっとけよ」
 「えっ……」
 「えっ、じゃねぇよ。 いいか、ちゃ~んと満点にしとけよ!? そうしないと」
 「そうしないと何なのよ」
 「ああっ? またテメーかよ。 ウゼェんだけど」
 「何がウザいのよ。 当たり前のことをやらないで、えばらないでくれる?」
 「秀才イインチョーは黙ってろよ。 これは男同士の友情なんだ、女はすっこんでろ!」
 ザワザワ……。 と、また教室が慌しくなった。 また、というのは、以前にも同じことがあった、ということだ。
 今の学年は高校2年。 つまり、つい最近学年を上がったばかり。 新年に浮かれて出てきたのは、いわゆる “いじめ” である。 私の目の前にいる悪ガキ3人組 ―― 名前はまだ覚えていない。 というより、覚えたくない ―― は上からガンをとばしてきた。 女はすっこんでろと言う台詞にカチンときた私は、負けじとヤツラの分のプリントを叩きつけ、
 「あんたたち頭悪そうだし。 自分でやったらっ!?」
 「んだとてめぇ! 大人しくしてりゃつけ」
 「やめてって! ……あ、藜御さんは関係ないでしょ? だから乱暴なことはしないで。 ぼ、僕、プ    
  リントやるから……」
 「く、久遠君!」
 「へぇ~っ。 お前こんなのが好みなのかよ? いっちょ前に女守ってさ」
 「ひゅうひゅう! おアツイことでっ!!」
 「ひゅーひゅー!! 春先早々カップルの誕生~っ!!」
 と、教室内で馬鹿騒ぎ。 ……いい加減、堪忍袋が破裂しそうだったのだが、
 「ご、ごめんね。 藜御さん。 いやな思いさせて……」
 「それはいいんだけど! ちゃんと言い返さなきゃダメじゃない!!」
 「ご、ごめん。 僕、怖くって……」
 そう、彼は俗に言う “気弱” なタイプ。 私と違って気が小さいようなのだ。 私自身は曲がったことが大嫌いなので、こういう風に言うのだけど。
 「そう? でも、ダメなものはダメって言わなきゃ!」
 「で、でも……。 ほらあの人たち、よく他校とケンカしてるって聞くし。 何人も病院送りにしてるとも耳にしたし……」
 こりゃだめだ。 完全に押されちゃってるよ。
 「そうねぇ。 別に他の人にやらせたとしても、結果は目に見えてるし。 こいつらの点数、久遠君がもらっちゃえばいいのよ! よし、そういう風に私が先生に言っておくから。 安心してやるといいよ」
 「あっ? お前、そんなことしたらどうなるかわかってんだろうな?」
 「はっ? 知らないわよ、騒ぐしか脳がないヒトの考えなんて」
 「マジうぜぇ。 やっちまうか」
 「やれるもんなら、今すぐやってみたら? ―― できるものなら、ね」
 「あ、藜御さん! ダメだって!!」
 「……気の強い女は嫌いじゃねぇんだけど。 お前はまじもんでウザイ。 そう言うならお前の望みどおりにしてやるよ」
 と、3人の中で1番体格のよい奴が、私の服をつかんだ。 だが、そこまでである。
 「こら若松っ!! 何をしているんだっっ!!!」
 「ちっ、いつの間にいたんだよ!?」
 「今しがたきたばかりだ。 お前、女子に対して何てことをしている!!」
 「うるせぇな! こいつが好きなようにしろって言うから、望みどおりにしてやろうとしただけだっつーの」
 「何を馬鹿なことを! 藜御がそんなこと言うわけないだろうが!!」
 「だったら他の連中に聞いてみろよ? なぁ、お前ら。 この女、そう言ったよなぁっ?」
 「先生。 その人たち、ここにいるとうるさいので他のところへ移動させてもらえませんか。 自習ができませんので」
 「て、てめ ――」
 「そうだな、そうするか。 じゃあ後のことは頼んだぞ、藜御。 若松、それに駆染 (くしみ) と佐竹! お前らはこっちに来い!」
 「ちっ。 仕方がねぇ、行くか」
 「……何で俺たちが……。 メンドくせぇ」
 「イインチョー。 あんた、ただじゃ済まさねぇからな」
 と、負け犬らしく遠吠えを口にしながら連行される馬鹿3人組み。 ふぅ、ようやく静かになったよ。
 「さあ、邪魔者はいなくなったから。 みんな安心してプリントやっていいよ」
 「あ、藜御さん。 大丈夫なの?」
 「何が?」
 「何がって……。 ほら、若松君の噂、知らないの?」
 「ああ、知り合いだか何だかにヤクザがいるってやつ?」
 「そうよ! あなた、大丈夫かなって思って……。 彼、相当怒ってたし……」
 「大丈夫だって! さあ、プリントプリント!!」
 と、私は明るくクラスメートに振舞った。 みんな、心配そうに私を見ているから。 それはそうと、あの若松っていう人の実力なんか知らないけど、そんな噂で偉そうにしないでほしいよね。 あいつのほうが本当にウザいんだけど、なぁ。

 まっ、あーゆータイプは夕方頃に来るのが王道だな。 そんときに、ちゃんとケリをつけりゃあ問題ねぇし。 まったく、ガキの相手は面倒だぜ……


 ―― そんなこんなで、今は放課後。 案の定、あの人たちはやってきた。 マンガの登場シーンのようで面白すぎ。 しかも、顔までそうだ。
 「おい、藜御。 よくもさっきはコケにしてくれたな!」
 「はいはい。 お決まりのモンクはいいから。 何の用?」
 と、私は眼鏡をはずしながら現代文のお返しにと睨み返す。 すると、一瞬ビビったのか、奴ら半歩下がりながら、
 「―― ふん! 可愛がりのある女だ。 今までこういう風に突っかかってきたやつはいねぇ」
 「で?」
 「そうだなぁ。 喧嘩もいいがそれじゃあつまんねぇ、結果も見え見えだしな」
 「若松、お前何考えてんだ?」
 「まぁ待てよ。 こいつ、よく見ると中々の顔じゃね?」
 「……んー、まあ確かに」
 「おい、まさかとは思うけど」
 ―― ははぁ、そういうことか。 いわば、私という “女” で遊びたいってんだな?
 「ここじゃやらねぇよ。 藜御、お前大和大橋はわかるな」
 「ふ、ふぅん。 そこに行けばいいのね?」
 「ああ。 人気のないふもとだ。 そうだな、10時半に来い。 いいな!?」
 と、確か若松という大馬鹿は脅すように声を荒げた。 ……まぁ、シーンがシーン。 私も悪乗りをし、精一杯怖がる振りをしているのだけど。 それをよそに、引き連れのふたりは計画をやめさせようと考えているようだが、あっけなく事態は進行方向へと導かれる。 こいつは私の携帯番号を聞きだし、ちゃっかりと確認をとった。
 「よし。 ばっくれたら承知しねぇぞ!!」
 と、本当に大声を上げるしか脳のない人間のようで、そう残し若松たちは帰っていった。 もちろん、警察にばらしたらただじゃおかねぇからな! という、盗賊まがいのふっるいセリフまで。 おかしっくって涙が出そうだよ、私。
 「あーぁ。 こりゃいいネタになるな。 さて、どうしたもんかね」
 私にはバイトがある。 幸い、出勤時間までに余裕もある。 少し今後の準備でもしておこうかな。

  *  *  *

 「―― の野郎。 いつまで待たせんだ!?」
 「おい、若松。 考え直せって。 いくら何でもさぁ」
 「ああっ!? お前らそれでも男か!? あのクソ女になめられたままで虫が収まらねぇだろうがっ!!」
 「そりゃそうだけどよ。 この辺、アイツラが出やすいって聞いたぜ?」
 「そうそう、あの無敵と言われた “獅邑 (しゆう) ” っていう集団! いくらお前でもぶつかったらあぶねぇんじゃないか?」
 「な~に、心配ねぇよ。 駆染と、佐竹。 だっけ? 一応可愛い弟のためにオレが来たんだから」
 
  *  *  *

 ……と、何を話しているのか知らないが、ちゃんと着ているようだ。 しかもおまけ付で。 遠目から見るに、あの噂のヤクザさん、ってところだろ。 仕方がない、私も早く行くとしよう。
 そうそう、断っておくが、必要以上に立ち見をするためにここにいるわけじゃない。 バイトが終わって、多少早く着いたから、少し離れたところで様子を伺っていたのだ。 何故かって? そりゃあご招待いただいたのを無下にもできないからさ。
 私は超大バカ3人プラス1名のところへと赴いた。
 「おー、ようやくきやがったか」
 「言っておくが、アタシはちゃんと10分前に来てたんだぜ? 女を待たせるなんて、いい度胸してやがるよな」
 「はぁっ? お前、本当にイインチョーかよ?」
 「あっ? 目ぇ悪ぃんじゃねぇのか? それとも腐ってんのか」
 「……声、は似てるよな」
 「似てるんじゃねぇよ、本人だっつーの。 ―― まっ、言ってもこう暗いとわからねぇか。 おい、ライトアップしな!」
 ガシャン、ガシャン! と、どこからともなくこんなもの。 細けぇことは気にすんな。 これも世の中の情、って奴よ。
 ヤツラの心理描写としては、おそらくこんな感じだろ。 目の前には学級委員長と同じ顔をした女。 だが、髪はアクアシルバー、まぶたには主に赤系を主体とした鮮やかなもの。 目の色は日本人にはありえねー、紫色。
 服装はキャミに少し厚めの上着。 下にはかなり短いショートパンツに、動きやすいがちゃんとふくらはぎを包んでくれるブーツ。 いわゆる “ギャル” のようなものかもしんない。 だいぶ違うけど、格好はそれで雰囲気はヤンキーのようなものだ。
 ちなみに、学校での服装。 制服は言わずもがな。 髪は黒くて (ヅラね、これ) 、耳の上の髪を左右から持ってきて真ん中で結わいている感じ。 フレーム無しの眼鏡を着用し、いかにもお勉強していますって雰囲気だろう。 今とは太陽から冥王星までのちがいだ。 ……あ、もう冥王星って天体じゃなくなったんだっけか。
 「うっ、うっそ……」
 と、若松。 さすがの変わりように驚いたようだが、アタシの秘密はこれだけじゃ済まねぇ。 なんせ、今時点のアタシの素顔を知っているのが、偶然にも来てくれたんだからな。
 「わかったか、このバカ共! 誰に対して喧嘩売ったのか、なぁ? そこのスキンヘッドのにーさんよ?」
 「た、たたた、孝昭 (たかあき) っ!! 今すぐ逃げるぞっっ!!!」
 「はっ??」
 「馬鹿っ、知らないのか!? 弱冠17歳にして最凶最悪の喧嘩一番、獅子の紅葉とも呼ばれる藜御 楓さんじゃねーかっっ!!!」
 おいおい、にーちゃん。 年下を “さん” 付けして悲しくないのかい。 まあ、あんたのことは以前の喧嘩で顔見知りになったけどよ。 まさか、あんな弱っちぃのがウワサのヤクザだったとはなぁ。 拍子抜けだぜ。
 「ゴタクはどうでもいいんだよ。 んじゃ、ご招待の感謝として礼を受け取ってもらおうか ――」

 ……その後のことは、そちらさんに任せるとするさ。 えっ? アタシの活躍が見たいだって?? へぇ~、変わった人もいるもんだな。 まあいいか。 もしそうなら、今度学校前で待ってな。 顔さえ教えてくれりゃあ、アタシがちゃんと家に招待しようじゃないか。 何、茶菓子ぐらいはもちろん出すさ。 そんなケチじゃねぇからな。


 翌日。 ものの見事に五体が無事なアタシ ―― いや、私は、普通どおりに生活をしている。 そう、朝起きてお弁当作って登校して。 そのままだ。
 しかし、教室の馬鹿3人組は大人しくしている。 しかも、あちこちバンソウコウと包帯とを共につけて。 今はー……、う~ん、席が遠くて見えない。 裸眼の視力はあまりよくないのよ。 コンタクトのせいで目がゴロゴロしちゃって、今は外しているし。 とりあえず、机に向かっているから、勉強でもしていると思うな。 昨日散々言っておいたし、ね。
 でも、昨日のアレで私にびびったらしくてさ。 目が合う度に顔を青くしてそらしたり、慌ててお辞儀したり、“これからはちゃんと全うに生きますっ!!” なんて言いだすの。 ちょっと失礼だと思わないっ!?

 ―― まあいいか。 この学校が平和になるんだったら儲けもんかな。
 そうそう、この学校の最大の噂ってね。 今更言うのも何なんだけど。

 “この学校に ‘獅邑’ の頭がいるらしい” とのこと。 まったくつまらん噂だよ。 どーでもよい話だと思うんだけどね。

 ……まっ、あのバカどもには口止めしておいたけどな。 じゃないと、せっかくアタシがこうして普通の振る舞いしているのに水の泡だろ? アタシを含めた獅邑の連中はみんな、いい奴ばっかだし、別に警察沙汰なんか起こしちゃあいないんだぜ? ただたむろしているだけなんだよ。

 まあ、この辺はいいか。 今は勉学の時間、それは夜のことだしね。
 それじゃ。 もしかしたら、どこかで会うかもしれないな。 そのときはよろしくねっ♪

 

 

 

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 ※ これは作品は、霧生ヶ谷と直接の関係はないのですが、こちらで使っているキャラクター (藜御 楓) の原点になるものですので上げさせていただきました。

 

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