シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

その壱

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闇鍋三昧 その壱

「電池を充電してください」
 俺の赤い携帯電話の画面に、これまた赤いランプが灯り、そいつがハラペコである事を告げた。こいつを使い始めてから・・・確か10ヶ月ってところか。買ったばかりの頃は一度充電すれば三日はきっちり持ってくれていたのに、半年ほど経った頃から電池の持ちが悪くなり、年が明けてからはほとんど毎日充電器に載せて寝るようになっていた。
 俺は舌打ちを一つした。なぜって?今は昼過ぎ。昨夜充電して昼過ぎに電池切れたあ、すでに携帯電話ってレベルじゃねえ。俺はそのスリムで薄っぺらな携帯電話を目の前でひらひらさせながらつぶやく。
「お前もそろそろ年貢の納め時だな、おい」
 不意に、女の声が脳裏をかすめた。
「あの携帯がいい!薄くて、かっこいいじゃん!」
 女の名は律子。俺が半年前まで付き合ってた女だ。そして今のは律子と俺が一緒に携帯を選んでいたときに言ったセリフ。随分昔のことのような気がするが、実際は去年の四月だからまだ一年も経っちゃいない。
 律子とは結局すぐ別れちまったわけだが、律子の選んだ携帯を後生大事に使ってる俺も、人がいいんだか恨めしいんだか。
「今日はお前に引導を渡してやるからな」
 赤い薄っぺらな携帯に向かってつぶやくと、俺は車に乗り込んだ。

 あの日、律子と携帯を買いに行った店は自宅から少し遠いので、今日は近場の携帯ショップにやって来た。
 中に入ると受付のおねーさんが愛想良く「いらっしゃいませ」と言ったあと、「新機種をお求めですか?」とでも言いたそうな顔をしているので、何も言わずに新機種コーナーに進んだ。どうもああいうセールストークは苦手だ。
 今回は予備知識も無く来たので、さて、どれが最新なのか良く分からないままサンプルの携帯を手に取り、開けたり閉めたり棚に戻したり、そんなことをしばらくするうち、ふと携帯の料金に目が留まった。
「五万四千円?」
 おかしい。携帯ってこんなにしたか?確か今のやつは三万円くらいで買ったはずだ。まてよ。確か俺が使ってる携帯会社Dは、先頃新しい料金プランにしたと聞いた。その新しい料金プランとやらでは、携帯電話本体の価格が上がり、月々の使用料が下がると聞いたことがある。
「それでこの値段か・・・」
 思わず呻く俺。ご丁寧に分割払いのプランまで用意されている。おまけにそれぞれの携帯機種メーカーから発売されている最新機種は軒並みこの値段で統一している。企業努力もへったくれもありゃしない。
 ふと気になって店内を見渡して、俺はあることに気がついた。
「肝心の新料金プランが・・・無い」
 本来ならばお客の目に着くところにあるべき新料金プランの一覧表が無いのだ。もし仮に、携帯会社Dが新料金プランってやつでお客を納得させるだけの自信があるならば、この割高感たっぷりの携帯電話の値段表の上にでかいボードでも作ってぶら下げとくべきじゃないのか?それをまるでお客の目から隠すかのように、店内のどこにも表示していないのは甚だ疑問だ。
 俺はくるりと踵を返し、店を出た。
「こりゃ、下調べが必要だな・・・」と、口に出して言っては見たものの、そもそもインターネットで下調べをしないといけない時点で、いろいろ駄目なんじゃないのか、と思った。

 俺は自宅に付き、車を降りる時に助手席に放り出された赤い薄っぺらの携帯を手に取り、つぶやいた。
「生き残ってしまったお前。生き残らせてしまった俺。この時から二人の関係に微妙な変化が・・・・」
 二月の寒風が頬を撫でて通り過ぎた。
「起こるわきゃねえか」

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