シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

その伍

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闇鍋三昧 その伍

 これは僕が実際に体験した事です。
 確か、僕が二十歳の頃だったと思います。僕はその頃、建築関係の仕事をやっていました。建築関係と言っても、まだ入社したばかりの僕に回される仕事といえば現場での細々した作業ばかり。その日も、丁度大きな現場が片付いて、そこで使った足場をトラックに積んで会社に戻る途中でした。
 夕暮れ時ということもあり、道が凄く混んでいたので、僕は狭い脇道を抜けて先を急ぐ事にしたのですが、僕の前を走る乗用車がやけにのろのろと運転しているのです。見れば買ったばかりらしいピカピカの小型車で、ハッチバックには若葉のマークが。
「どうせ大学生か何かが親の金で買ってもらった新車だろう。こっちは中古車だってやっとなのによ」
 僕は誰に言うことも無く愚痴をこぼしていました。
 僕が乗っていたのがトラックということもあり、座席が高いので前の車の車内が割りとはっきり見えたのですが、運転しているのはどうやら男のようで、しかも、その助手席には黒いセーターを着たロングヘアの女性が乗っているようなのです。
 二人は恋人同士なのか、女性の方が時々運転手の襟首のあたりに手を伸ばしてくすぐるような、後ろ髪を触るような仕草をしているのが見えました。男の方は「よせよ」とでも言うように、それを軽く払っているのですが、少しするとまた、女性が手を伸ばしてちょっかいを出しているのです。
 正直言って、若葉のマークをつけたドライバーの助手席に座る人間が、運転の邪魔をするなんてのは言語道断だと、僕は内心苛々し始めていました。いや、正直なところを言えば、二人がとても仲が良さそうなのに嫉妬していたのかもしれません。
 さて、そんな調子でのろのろと進む乗用車に苛つきながらも、狭い車線のため追い越す事も出来ずしばらく走っていたのですが、見通しの悪い交差点に差し掛かったところで、突然黒塗りの高級車が側道から飛び出してきて、前の乗用車にぶつかったのです。
 僕は内心「ざまあみろ!」と思いました。買ったばかりの新車に彼女を乗せ、ラブラブ気分でドライブしてたら間の悪い事に事故。しかも相手は・・・
「なんだこの野郎!どこに目ぇつけてんだよ!」
 黒塗りの高級車から飛び出してきたのはスーツ姿にスキンヘッド。どっからどう見ても「ヤ」の字の方々。まあ実際、飛び出してきたのはヤクザさんの方だし、どっちが悪いって事も無いんだが・・・
 乗用車を運転していたドライバーは車を降りるとへこへこと情けなく平謝り。見ればやっぱり若い学生のようだ。
「いやはや、飛んだデートになりましたね」なんて、僕は内心ニヤニヤしていました。
 どうやら警察を呼ぶことになったらしく、二台はすぐそばの駐車場に車を入れ、僕もようやく先に進めるようになったのですが、ついでだからと乗用車の助手席に乗っている女の顔でも見てやろうとわざとのろのろと走り出しました。でもその時、助手席には誰も乗っていなかったのです。
 ヤクザさんと運転手のやり取りは一部始終を見ていたので、乗用車から誰かが降りればすぐ分かったはずです。そして、後ろを走っている時は助手席に黒いセーターを着た長い髪の女が座っているのが見えました。
 僕はとても妙な気分になりましたが、まあ、もしかしたら僕の知らないうちに車を降りたのかも。あるいは車の後ろの席にでも移っていたから見えなかったのかも。そう思いながら、まだヤクザさんに平謝りしている運転手に目をやった時です。
 その若い男性の襟首から、黒いセーターの女の腕がするりと伸び、男性の後ろ髪をちろちろと触ったのです。
 僕は車を止めず、そのまま走り出したのですが、あの時見た光景は今でも忘れる事が出来ません。
 後で知り合いに聞いた話ですが、六道区の市道148号線の沿線では、よく黒いセーターを着た女の幽霊が目撃されるということです。

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