シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

歩く非常識 ~余談編~

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 広く静かな会議室では、青年が男達に説明を行っている。
 説明の対象は、画面に表示される写真の女。
 その最中に、説明を聞く一人が話に割り込んで口を開いた。
「王穿君、具体的に言って、南暮香とはどのような人物なのだ?」
 その質問に、青年は申し訳なさそうに頭を掻く。
「…非常に説明しにくいところですね。非常にシンプルで、同時に難解極まりない存在とでも言いましょうか。」
「まったくわからんな。」 
「そうでしょうね。そこで、私がテレビ番組のインタビュアーを装って直接霧生ヶ谷へ赴き、彼女について、当人およびその知人などに訊ねてきた映像があります。これを観て判断していただければ。」
 傍聴者へと戻った男達は、ディスプレイへと目を向ける。


 映されたそこは、もはや触っただけで屋台骨から崩れてしまいそうなほどにボロボロなアパート。
 その前で、先ほどの写真の女、そう南暮香がカメラ目線で特に理由なく叫んでいる。
『「町内で話題の女性」のコーナーで、私について聞きたい!?』
『ふっ、テレビ局もようやく映すべき被写体を理解できたようね!』
『構わないわ、今からみっちり、半年ほどぶっ続けで私の魅力の全てを…』
『って何よ、手短に、できれば一言で!?』
『そんなけち臭い了見じゃあんたのテレビ局なんてすぐ潰れるわ!』
『まぁいいわ、これもフリーライターとしても天才的な腕を持つ才色兼備な私の見せ場ってものね!』
『そうね…立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花!』
『これはいいわね、シンプルにしてまさに私そのもの!』


 唐突に場面が変わり、そこはどこかの事務所らしい。
 なぜか弾痕の目立つ小さな応接間。
 ソファーに腰掛ける白人の男は、本当に苦虫を噛み潰したとしてもこれほどではないといった苦々しい顔で切り出す。
『あの女か…思い出したくもねぇ。』
『ああ、あの女について聞きたいだと?』
『話題の女性って点についちゃ否定はしねぇが、そりゃ多分意味が違うぞ?』
『っとだな、なに、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花?』
『…そんなわけねぇだろ、お前何を吹き込まれてきた!』
『あいつは…そうだな、立てば爆薬座れば破裂、歩く姿は危険物。そう、こんな感じだ。』
『俺の知る中でも数少ない、できれば半径百メートル以内に近寄りたくない女の一人だな。』


 次。どこかのカフェの、入り口から遠く少し薄暗いテーブル席。
 神秘的な、という形容詞がしっくりくる妖艶な女は、いかにも面白そうだという表情で口元を押さえている。
『暮香さんについて…ですか。それはそれは。』
『どこのどなたが推薦したのかは知りませんが、ふふ、とても面白い企画ですね。』
『もし公に放送される機会があれば、私も見せていただきたいところです。』
『ええ、公に放送されれば、で結構ですので。』
『自称、立てば芍薬歩けば牡丹…ふふ、私の知らない内に冗談は様変わりしていたようですね。』
『彼女を指すなら、立てばビブリス座ればウツボカズラ、歩く姿はハエトリソウ、ですかね。』
『これでも、かなり遠慮して言ってるんですよ?』


 高校の校門らしい。霧生ヶ谷市立南高校とのプレートが見える。
 背後でしつこくピースしたりポーズをとったりする同じ学校らしい男子学生らを、カメラ目線そのままに裏拳や回し蹴りで叩き伏せつつ、十人中十人が認める美少女は顔を何とも微妙にしかめる。
『南暮香について?いいけど、私直接会ったことないわよ?』
『夏祭りの時、射的のコルク玉ぶつけられてから、復しゅ…もとい、抗議の為にちょっと調べてみたくらい。』
『確かに話題には違いないけど、特集はやめといた方がいいと思うわよ。』
『ほとんど存在が都市伝説化しちゃってるもの、ある後輩なんて妖怪の一種だって言ってたし。』
『立てば芍薬歩けば…って、そんな訳があるわけないでしょ!』
『あれがユリやボタンで通るなら、前衛的少女の私はさしずめおしとやかね。』
『ムリヤリ言うなら、立てば困惑座れば当惑、歩く姿ははた迷惑。そんな感じ。』
『でもなんでだろ、この上なく迷惑なのに、嫌ってる人はどこにも見かけないのよね。』


 そして、今度は人気はないがバス停らしい。
 先ほどの映像で人質として誘拐されていた少女が、口元に手を当ててうーん、と唸っている。
『暮香さんについてですか?』
『…余計なお世話かもしれませんが、やめておいた方が放送局のためですよぅ?』
『もし変な事でも放送しようものなら、絶対そのテレビ局無事じゃ済みませんからね?』
『物理的にも経済的にも崩壊しかねませんよぅ。』
『え、立てば芍薬…それはないですないです。』
『強いて言えば、立てば暴走座らず独走、歩く姿は見たことない。そんな人ですねぇ。』
『あ、私のセリフは映さないでくださいね? 私、まだ死にたくないですぅ。』


「…以上です。」
 そして画面は、元の写真に戻った。
「王穿君…」
「…どうにも、私にはろくでもない女だとしか思えないのだが…」
「そうですね。」

 

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