シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

怪異の裏にあるもの ― 伽糸粋 (カシス) 編 ―

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  怪異の裏にあるもの ― 伽糸粋 (カシス) 編 ― @ 作者 : 望月 霞




 店の前から向かって南東 ―― 人間界でいう東区と南区の境にあたしは足をおろした。 しばらくは移動のため化身の姿である狐にふんしていたが、とある事情により解除せざるをえなくなる。
 理由は簡単。 地について10数分がすぎたころから、誰かがあたしの後ろをつけてきているのだ。
 まったくもう、ストーカー行為は本当にやめてほしいわ。 加阿羅 (カーラ) じゃないけど、張り倒すのも面倒なんだもん。
 とはいえ、ほかの方角に行っている兄たちに気がそれるといけないので、黙って距離を保つことにした。 案の定、あたしの力がほしいのか、奴はそのままくっついてくる。
 力を使っても第三者を巻き込むことはないと思われるぐらい離したあと、あたしの髪は軽い竜巻状になった。
 「ちょっと、いい加減にしてもらえる? うっとうしいんだけど」
 “ありゃ、もしかして初めっからばれてた?”
 「まあね。 怪しさかもし出しすぎなのよ」
 という会話の最中、奴は姿を現し始める。 ほかの人が見たら、突然何もありもしない目の前に何者かが出てきた、と表現したほうがよいかもしれない。
 ただ、あたしの場合は言葉どおり初めから見えていた。 それは、兄妹の中であたししか持っていない能力がそうさせているのだ。
 でも、その説明は後回しにさせてもらうわ。 とりあえず、邪魔者には消えていただかないといけないから、ね。
 「あたしに何の用?」
 「冷たいなぁ。 可愛い子がいたからお近づきになりたいだけだよ」
 「あらそう、それはどうも。 それじゃ、あたし急いでるからほか当たってちょうだい」
 「え、あ、ちょっとそれはつれなすぎるんじゃないっ?」
 知らないわよそんなこと。 あんたにつきあってるヒマなんてこれっぽっちもないし。
 ということで、あたしは完全無視を決めこみその場を去ろうと歩きはじめた。 しかし、相手 ―― 赤茶色の髪に黒くまん丸な瞳を持つ小柄な男 ―― は、どうも諦めが悪い性格をしているらしく、あたしの隣につく。
 「あのさー、君のそばにいるじーちゃん。 もしかしてあの加具那 (カグナ) って妖怪? あの変人ならず変妖怪で有名な」
 「そうよ。 それが何か?」
 「あの人さぁ、確かに実力はあるんだろーけど……。 ちょっとアブなくない? そんな妖怪の下にいて身の危険感じないの?」
 「少なくともあんたよりは安全よ。 ついてこないでもらえる?」
 「うーん、やっぱり女の子は口が達者なんだなぁ」
 と、その場で止まる。 しかし、あたしはもちろん歩みをやめなかった。 どうやらいなくなってくれそうな雰囲気なので、それはそれで越したことはない。
 だが、唐突に彼の気配が消えたかと思うと次に現れたのは何とあたしの目の前。 男は、一瞬にして約20mの距離を移動したことになる。
 「これから鬼門 (きもん) に向かうんだってね。 やめときなよ、変妖怪に従わないほうがいいって。 ね?」
 「しつこいわね。 そういう男は嫌われるわよ」
 「えー、だってさ。 君には確か兄貴がふたりいるんでしょ? ならそっちに任せりゃいいじゃん。 わざわざ危険なところ行かないでオレとあそぼ」

  シャリィィン!!

 「うわっ、不意打ちなんてひどいなぁ」
 「いい加減にしなさい。 誰に何を吹き込まれたのか知らないけど、邪魔するなら容赦しないわよ!」
 しびれを切らしたあたしは、奴が話している間に錫杖 (しゃくじょう) をふるい脳天を強打しようとしたのだが、想像以上に反応がよく失敗に終わる。 だが、これでたんかをきることができた。
 相手は錫杖の先を見つめながらため息をつき、両手を顔の近くに持ってきたあと首を横に振る。 頭の位置がもどった直後、彼は目を閉じ後ろへ跳躍。 およそ2mの棒が15本ぐらい並びそうなほどの長さをとった。
 男はやる気がなさそうに髪の毛をかきながら、
 「仕方ないねぇ。 んじゃ、気絶してもらうしかないかなっ」
 と言い、童顔の持ち主は何やら霊子を集め始めた。 あたしも戦闘体勢にはいり、錫杖の先端部分を、変化 (へんげ) の術の応用で薙刀の刃に変える。 こちらのほうが直接攻撃の威力があがるからだ。
 しかけてきたのは相手のほうだった。 目の前に迫りくる棍 (こん) ―― 硬い木を丸く削って作る棒 ―― は上から勢いよく振り下ろされ地面に穴を開ける。 その場からすぐに離れたあたしは、思ったより威力をもつ相手の武器を見た。 普通の棍は原材料と同じ色をしているのだが、彼のはなぜか白い。 もしかしたら、何か特殊なモノが備わっている可能性がある。
 ……まあ、ただ染色してるってだけかもしれないけど。
 「珍しい武器持ってるのね」
 「そう? ほら、棒術って武術の基本らしーじゃん?」
 「ふぅん。 そのわりにはスキだらけねぇ」
 ドスッ!! と、相手から棍をはずし、直後に心臓に近い部位を穂先で攻撃。 すると、敵はまるで蚊にさされただけのようにしか反応せず、薙刀の刃をつかむとそのまま引き抜いてしまう。
 「ふわー、想像以上に妖怪感覚! てっきり戦闘できないのかと思ってた」
 「ふざけないでもらえる? この世界のどこに殺しができない物の怪がいるってのよ」
 「いやいや、そういう意味じゃなくってさ。 ほら、君の能力って広く浅くって類でしょ? だからその分力がないって考えててさ」
 と話しながら、奴は手にしていた金属を打ち払い、脚力に任せて距離を保つ。
 おそらく、これほどの脚を所持しているところから動物が変化した怨霊か妖怪だろう。 姿を人に保ちつつも戦えるところから、それなりに力のある同類のはずだ。
 ちなみに、人型で戦うというのは容易なことではない。 言葉では簡単そうに聞こえるかもしれないが、複雑な構造をしている人間をかたどるのだから、相当量の霊子を使える力がなければできないのだ。
 まあ、たとえどの位にいようが油断は大敵。 確実に息の根を止めなければこちらが危険なのは変わりない。
 あたしはかまわず薙刀を構え、相手の動きをうかがっていた。
 「面倒だな。 でも、今の一撃を受けてわかった。 やっぱり物理攻撃は大したことないね。 問題は炎術 (えんじゅつ) のほうかなぁ」
 「だったらどうしたっていうのよ。 そんなことで勝ち誇ったつもり?」
 「……本当に気が強いなー。 力も速さも術も、上には敵わないんだろ? だったら強度もないわけだ、ね」
 話しながら、奴は懐から1枚の紙を取り出す。 すると、周囲にある霊子の流れが急激に変わり、先ほど出したそれの回りにまとわりついていく。 その直後、まるでせき止めていた水が勢いよく流れ出したかのように霊子の塊が襲いかかってきた!
 ―― かろうじて直撃を免れることはできたが、右足の側面に当たったらしくかなり痛む。
 「れ、霊弾 (れいだん) ……!」
 「さっすが! よくわかったね。 今回はかわせたけど次はどうかな?」
 あっちゃぁ、少しマズいことになったわね。 利き足に刺激が走っているのなら、踏み込みが使えないわ。 そして何よりさっきの霊弾を排除しないと。 これは使用者の霊子を極限まで高めて放つ術なんだけど、文字通り必殺技といっても差し支えないほどの威力があるから。
 敵に奥の手があるとわかった以上、うかつに攻撃しては自殺行為になる。 ならば、脅威を取りのぞくためにどのような動きをすれば効率的だろうか?
 まあ、術の特性がわかっているということは、その対処法もおのずとわかるものである。
 というわけで、あたしはまず足を確保するために輪火 (りんび) という術をとなえた。 これは、あたしが移動用に使っている乗り物みたいなものと思ってくれればいい。 もちろん、形状は人間界のものとはまったく異なっているけれど。
 それはともかくとして、再度薙刀を構えなおし様子見をする。
 「はぁ。 諦めて帰ってくれると思ったのに。 しょうがないねぇ」
 闘争心の絶えないあたしに呆れたのか、男はとうとう本性を現した。 人間のときより増えた4本の足は細くも存在感があり、胴体もそのときの姿と同様に細い。 そして、顔も同じように細面で頭にはまるで枝の形をした白く立派な角がはえている。
 そう、まんま鹿だ。 思っていたとおり、奴は動物系の物の怪だったのだ。
 <個人的にこっちのほうが戦いやすくてね。 それじゃ、いくよ!>
 それも十分変妖怪のイキにはいるだろうと考えながらも、突進してきた敵を難なくかわす。 ついでに、薙刀を水平に持っていき、先ほどのお返しをする。 スピード任せに突っ込んでくれば、多少のダメージは受けるだろう。
 それからはまるで円を描くような行動が繰り返される。 突っ込んできては得物により応戦し、霊弾を放ってはかわすといった防御をくずさず、そのまま時間だけがすぎていく。
 こういった流れに今度は向こうがしびれをきらしたらしく、霊弾と共に本体も突撃してきた。 だが、これは完全につぼにはまってしまう行為だったことは気がつかなかったらしい。 あちら側の呼吸は、案の定の結果となっていた。
 「あたしの能力をどうとかいってたけど。 肝心なところはなぁ~んにもわかってなかったのね」
 敵は、憎たらしいあたしを見上げながらも心拍数を落ち着かせようと大きな息をすったりはいたりしている。 その動きを見ても、もはや限界に近いことは明白だった。
 そう、あたしは相手の攻撃の種類を記憶しながら戦っていたのである。 戦法とは何も力任せに行うだけではない、ということだ。
 確かに、加阿羅や加濡洲 (カヌス) に比べれば各々の能力は低い。 それをお皿でいえば、前者たちが深皿であたしは浅皿だろう。 つまり、攻撃 ・ 術と両方できはするけれど、威力は弱いのだ。
 しかし、その代わりというのか、あたしにはふたりにはない特殊な力がある。 “流情(るじょう) の神秘” と呼ばれるそれは、霊子の流れを利用して情報などを得る術のひとつであり、使いかたによっては他の状況にあわせられ変換が利く。 殺意や敵意を持った何者かを察知するのはこの術がなくてもできるが、相手の動きを確実に読むとなると、普通なら先見力や勘、経験等を元にすると思われる。
 だが、あたしの場合、相手の動きや力の流れ、さらに力をこめれば相手の思考も正確に読むことができるのだ。 なかば反則に近いかもしれないが、自分の活動危機が常に迫っているこの世界。 そんな甘いことは言っていられないのが現状である。
 それはあの鹿もわかっていることだ。 徐々に少なくなった口数から、己の最期を悟りかけているのかもしれない。
 とはいえ、あたしも優しい存在ではないことは今までの言動が証明している。 鹿の放った霊弾を反流 (はんる) の鏡 ―― 流情の神秘を応用した術 ―― ではじき返し、奴はそのままの末路をたどっていった。



 戦いも終わりひと息つきながらも治療をしていると、むかって西側の流れが元に戻った感じを受けた。 あちらの方角には確か、加濡洲が行っているはずだけど……。
 余計な心配はいらないだろうが、念のために連絡をとった。 方法は、蓮卦の声 (れんかのせい) という名の術を使ってお互いの意識をつなげるもの。 これは自らの霊子を特定の人物にぶつけることで成りたつ。 現代でいう携帯電話のようなものと考えてもらえば、わかりやすいかもしれない。
 <……おう、伽糸粋か。 どうしたよ?>
 「ん? いえ、そっちの気が正常な流れになったから念のために連絡を入れただけよ」
 <そうかい。 オレのほうは万事終わったぜ>
 「ならいいんだけど……。 何かあったの? ちょっと涙声よ」
 <い、いや別に……>
 絶対何かあったわね。
 「ふうん? ―― わかった、あたしはこれから艮(うしとら)に向かうからまた後でね」
 <了解。 んじゃな>
 と、普段の性格からはあまり考えられない受け答えだった。 彼は日常、創られた過程のせいなのか子供っぽく感情的になるところがある。 それにしてはずいぶんと無機質な返答だったので、落ち込むようなことがあったのかもしれない。
 そんなことを思いながら治療を再開していると、今度は北西の方角からものすごい爆音が響き渡った。 反射的にそちらに目を向けてみると、もうもうと煙と炎をまき上げながらその辺りの空を黒く食いつくしている。そちらの方位には加阿羅がいるはずだが……。
 先程よりも強い不安が駆けめぐり、急いで蓮卦の声を使う。 初めはつながりにくかったのだが、何とか彼は気がついてくれたようだった。
 「―― 羅、加阿羅! 何かあった?」
 <あ~、火 (か) の爆薬を使ったんだよ~>
 「その割には音大きすぎるじゃない。 風も一緒に使ったんでしょ?」
 <まぁね~。 それが主な原因じゃないけど、左腕なくなっちゃったよ~>
 「はぁっ!? あんた何やってんのよっ!!」
 んもーっ、何でそんなことをのん気に語れんのよっ。
 <あはは~。 これは加濡洲に任せるって。 ところで、そっちはどう?>
 「こっちも終わったわよ」
 <そう。 怪我は?>
 「大したことないわ。 後回しでも大丈夫だし、これぐらいならあたしでも治せるし」
 <わかった。 なら、艮 (うしとら) で>
 「うん、後でね」
 ったくもう、本当にしょうがないわね。 どうしてあんなにトロくさいのかしら……。
 まあ、大怪我を負ってしまったとはいえ、精神面では大丈夫そうなので後は任せることにしよう。

 あたし自身の治療も終わり、足も元の状態に戻った。
 そうそう、あたしたちが北東以外の方角に向かったのは、そこに寄生してしまった物の怪を退治するためだ。 そして、最終目的は、奴らに力を与えていると思われる頭を倒すこと。 それがジジから受けた命令であり、あたしたちが今行っていることだ。
 このことから察するに、ほかのふたりも何かしらの妨害は受けたと思う。 単純計算から3体以上の物の怪に力を送るなど、並大抵の化け物ではない。 まず葉を切り落とし、それから根を潰す作戦を決行していたのだ。


 ふたりが場所に集まれるのは、もう少々時間がかかるだろう。 その間に、自分たちが有利になれるよう情報を集めておくのがよいと判断したあたしは、輪火をつけたまま艮の方向へと急ぐのだった。




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