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藩国国民紹介SS・1 那限逢真さんの場合

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takanashi

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国民の紹介SSの例として、一作できたのであげてみました。
那限逢真さんの紹介SSになります。
もし性格が違う、あるいは気に入らない、という場合は削除してください。削除キーは5121です。

【藩国国民紹介SS・那限逢真さんの場合】
作:小鳥遊(ワカ)

 その日も、俺は書類を抱えて王城を歩き回っていたッス。
 吏族っていうと、国を運営するためにいろんな難しい計算とかチェックとかをする仕事なんスけど、俺はまだまだ新米なので、難しい仕事は双海さんや外道さんにお任せして、こういう雑用をさせてもらってるッス。
 ちょっとだけ情けないッスけど、正直に言うとまだ難しい仕事はちょっと怖いし、こういう仕事も必要だと思うッスから、結構楽しいッス。

 今回の仕事は、今抱えてる書類の束を摂政の那限逢真様に届けに行くことッス。
 逢真さんは藩王の荒川真介様と一緒にこの国の大黒柱として支えてくれている、凄い方ッス。
 政務の方でもこの国を導く一方、戦闘の方でも物凄い実力を誇る方で、先輩の歩露さんの話だと、「ファンタジー」と呼ばれるくらいの腕前なんだそうッス。
 俺は実際に戦闘をしている姿をあんまり見たことがないけど、歩露先輩が書いた記録を見て、物凄く感動したことがあるッス。(http://www.geocities.jp/nakagiri_ouma/unnamed/03_library03_03.html

 名実共にこの国を治めている二人のうちの一人なので、摂政様に書類をお届けするのは、それはそれで緊張するお仕事ッス。

 そんなことを考えている内に、摂政様の執務室に着いたので、トントン、とノックを二つ。
 毎回、こういう時が一番緊張するッス。

「どうぞ」
「失礼しますッス」

 開けて中に入った瞬間、俺は固まったッス。
 ノブをガチャリと回して中に入ると、摂政様はちょうど、着替えを終えた状態だったッス。その格好は凄く動きやすそうな、これから外に出ようとするときの格好だったッス。
 書類を届けたのは間が悪かったかな、と言うのも気になったッスけど、そんなことよりも、俺は摂政様の隣にいた女性に物凄く驚いたッス。
 多分、20代前半くらいだと思うッス。
 腰の辺りに縄をまいたとても奇麗な人が、摂政様の肩にしなだれかかるようにしていたッス。
 その光景デートに行く直前にしか見えなくて、物凄く焦った俺の気持ちは察してほしいッス。

「す、すすすす、すみませんッス! お出かけするところだったッスか?!」
「? いや、まあちょっと約束があって出かけるつもりだったけど……どうした?」

 約束、出かける……。やっぱりデートなんスね……うう、間が悪いッス。

「す、すみませんッス、そんな時に……えと、これ、目を通して押印してほしい書類だそうッス。
 3日後までにお願いしたいということなので、急ぎの仕事ではないそうッスから、ここに置いておくッスね」

 緊張のせいで早口にそう言ってのけると、俺は摂政様の執務机に書類の束を置いて、慌てて外の出ようとしたッス。
 そんな俺を引き止めたのは、不思議そうな顔をした、当の摂政様本人だったッス。

「分かった、ありがとう。けどどうしたんだ、そんなに慌てて?」

 そ、それを俺に聞くッスか!?
 ふと見れば、摂政様にしなだれかかっている女性は面白そうにこちらを見ていたッス。
 いっそのこと「邪魔者は消えろ!」的な視線で見られたならすぐに立ち去ることができたのに、これじゃあなんだか出づらい雰囲気になっちゃったッス……。

「えと、いえ、その、あの……」

 とはいえ、なんと言っていいか分からないッス。
 もう頭がグルグルして、何も考えられないッス……

「……そ、その……で、デートの邪魔してすみませんでしたッス……!」
「デート? 誰と誰が?」

 そう言って早くお邪魔虫はこの場から出ようと思ったッスけど、摂政様は本当にますます困惑顔になってそんなことを尋ねてこられたッス。
 誰と誰が、って言われても……

「え? ……そ、それは、摂政様と、そこの、その……女性の、方と……」

 そう言うと、ようやく摂政様はそれが傍らの女性のことを言っているのだと気づいたような顔をして、不思議なことに、凄く驚いた顔をしたッス。
 それで、なんだか慌てた様子で、その女性とひそひそ話を始めたッス。
 ひそひそ話だったのでよく聞こえなかったッスけど、「小鳥遊君はお前が見えるのか?」だとか、「ううん、私が見せてるだけ」とか言ってるのだけはちょろっと聞こえたッス。

「……ええと、こいつはそういう関係じゃない。約束と言うのも、未来の吏族候補の子と約束があってね、会いに行くだけだ。そういうのじゃないよ」

 そうして、しばらくひそひそ話を続けていた摂政様は、振り返ると神妙な面持ちになってそう仰られたッス。

「そ、そうなんスか?」
「ああ」
「あら、そんなこといって。逢真ったら酷い」

 力強く頷かれる藩王様だったッスけど、傍らの女性はそのつもりじゃなかったみたいで、クスクスと笑われながら、体の全体を押し付けるようにして甘えるような声を出されたッス。

「す、すみません、失礼しましたッス――!!」

 それはもう、俺には恋人同士の仕草にしか見えなくて、ついでに俺にはちょっと刺激が強すぎたッス。
 これ以上見ていると、なんだか更に凄いことになってしまいそうだったから、失礼なのも忘れて慌てて摂政様の執務室を飛び出したッス。
 飛び出る寸前、摂政様が、「あ、小鳥遊君――!?」と珍しく驚いた声を上げられていたことが、なんだか印象的だったッス。

◇  ◆  ◇

「つ、疲れたッス……」

 その後自分がどこをどう走ったのかも覚えていないッスけど、いつの間にか俺は城門の前辺りまで来ていたらしいッス。
 かなり息も荒れて疲れ果てていたッスので、その辺りにあった石に腰掛けて、しばらく休む子にしたッス。
 そうしてしばらく休んでいると、呼吸と一緒に気分もようやく落ち着いてきて、さっきのことを振り返る余裕も出て来たッス。
 摂政様に恋人。考えてみれば全く持って不思議でもなんでもないッス。
 戦闘も政務もこなせ、いついかなるときでも沈着さを保っている摂政様は、女性にとても人気があるッス。
 そんな摂政様だから、ああいう恋人がいるのは、むしろ当然のことかもしれないッス。

「それにしても、美人だったッスね……」
「誰が?」
「うあひょっあえ!?

 さっきの光景を思い出しているところに、目の前に突然女性の顔がぬっと現れて、俺は物凄く変な声を上げちゃったッス。
 驚いて腰掛けていた石からずり落ちると、呆れたような顔をして、王猫コジロー2世様のお子様、サヨコ様が立っていらっしゃったッス。

「さ、サヨコ様……驚かさないでほしいッス……」
「何よ、私の顔を見て勝手に驚いたアンタの方が失礼じゃない。それに様づけするのやめてって言ってるじゃない」
「そ、そんなことも言われても……」

 サヨコ様は、石から滑り落ちて大地を両手についている困った俺の顔を見下ろすと、呆れたようにフンと鼻を鳴らされたッス。

「まあ良いわ。それより、オーマはどこ?」
「摂政様ッスか?」
「それ以外にオーマがどこにいるって言うのよ?」

 心底馬鹿にしたような目でこちらを見下ろされると、さすがに悲しいッス……。
 でも、それを言うとまた何か言われそうなので、正直に答えることにしたッス。

「せ、摂政様ならさっき執務室に書類をお届けしたところッス……」
「じゃあ、執務室ね」
「あ、いえ、でも多分もう今はいないと思うッス」
「どうしてよ?」

 サヨコ様は今にも駆け出しそうな姿勢で顔だけを振り向かせて、酷く不機嫌そうに尋ねられたッス。
 理由を話すのはなんとなく憚られたッスけど、サヨコ様のその目がなんだか怖くて、俺はおずおずと事情を話すことにしたッス。

「えと、摂政様は、女の方とどこかに出かけられる様子だったッス」

 その瞬間、周りの空気が凍りつくような感じがしたッス。
 全身の毛が逆立って、何もしていないのに体がぶるぶる震えだしたッス。

「……なんですって? それって、デートってこと?」
「え? ……ええ、いや、あの、摂政様はデートじゃないって仰られてたっすけど」
「男と女が一緒に出かけたらデートに決まってるじゃない! ……どこ?」
「へ?」
「どこに行ったの、って聞いてるの」
「さ、サヨコ様……目が怖いッス……」
「あたしは、どこに、行ったの、って、聞いてるんだけど?」

 さ、サヨコ様、目が、目が血走ってるッス……。

「あの、そこまでは……あ、でも、『未来の吏族候補の子に会いに行く』って行ってたッス」
「この役立たず! それじゃ全然分からないじゃない!」
「フギャッ!!?」

 サヨコ様はいきなり爪をひらめかせたかと思うと、俺の顔を思いっきり引っかいたッス。
 それきり痛みにもがく俺は無視されて、今度はハッとしたようにあごに手を当てて考え事を始められたッス。

「……待って、未来の吏族候補の子? たしかそれって、前(http://www.geocities.jp/nakagiri_ouma/unnamed/03_library05_00.html)に博物館で……!!」

 そう呟くと、サヨコ様はもう俺に用はないといった感じですっくと立ち上がると、全速力で博物館の方に駆け出していったッス。
 後には、顔に真っ赤な引っかき傷を残した俺だけが残されて、

「いったい、何だったんスか……」

 途方にくれた俺は、そう呟くことしかできなかったッス。
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