芥辺境藩国@wiki

吉備津抑留(ぇ

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takanashi

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 俺は吉備津 五十一(きびつ いそかず)。
 I=Dをはじめ、各種兵器のパーツを拾い集めては、一体組み上げて売る商売をしている。
 ジャンク屋…なんて言えば聞こえは悪いが、女の子のパッチワークみたいなものさ。
 今こうやって、砂漠を渡ってる俺の乗り物だって、その作品の一つだな。
 大型のAPC(装甲兵員輸送車)とアメショー系の機体をドッキングさせて、腕の代わりに大型のクレーンを引っ付けてある。
 俺の仕事場の半分は、戦場跡だからな。ぶっ壊れた機体とか引っ張って帰るのに、これが都合いいわけだ。引っ張って帰らなくても、その場で引き立てて、即席の組み上げ用の足場にも出来るしな。
 一々作業場と戦場跡を何度も行ったり来たりして、何体もスクラップ運ぶのも手間だし、場合によっちゃ戦場跡で一体組み上げて、それだけ持って帰ることもあるわけだ。
 頭に、センサーが優秀で宝探しにうってつけの「コトラ」とか言うアメショーの親戚のを付けてるから、「コトラタンク」なんて無粋な呼ばれ方をすることもあるが、そんな名前俺は付けた覚えはねぇ。
 その…ま、何だ。そのうち、良い名前付けてやろうと思って、保留にしてるんだよ。

 戦場探して国から国へ、流れに流れてここまでやってきた。
 芥辺境藩国……まぁ、辺境っちゃ辺境だな。元々西国砂漠の出だから、この砂の海の風景も見慣れたもんだが、砂漠地帯そのものが辺境だってくらいの常識は持ち合わせてるつもりだ。
 自分の国に「辺境」なんて付けるここの藩王は、余程のリアリストか、でなきゃ自虐な皮肉屋に違いない。

 そんな辺境の国の辺境に、今俺はいる。
 情報では、これからここが戦場になるらしい。交易所もあるから間違いなく無人じゃないわけだが、民間人がゴロゴロ居る市街地の真ん中が戦場になるよりは、人口の少ない辺境の交易所が戦場になった方が100倍マシだろう。兵站施設に流用できる点も、悪くない……と、戦争は素人だがそう思う。
 敵は、話の通じないワカランチンらしい。そんなのが勝ったら商売どころじゃねぇから、実利の面でこの芥辺境藩国は応援するが、無被害圧勝も面白くない。
 まぁ、俺の都合で言わして貰えば、適度に数体ほど壊されて欲しいところかな。
 この国の国民が聞いたら、さぞ嫌な顔をするだろうが、コレが俺の商売だ。精々、パイロットは無事で機体だけ壊れることを俺も祈ってるさ。壊れた機体のつなぎ合わせでも、前のパイロットが死んだ機体ってのは、やっぱり験が悪いしな。

 そんなことを思いながら、遠くから陣地構築を見ている。
 I=Dのセンサー・ディスプレイ画像越しにも、流石に1人1人まで確認できる距離じゃねぇが、まるで蟻が巣を作るのを観察できる砂入りガラスケース覗いてるみたいに、微妙に風景が変化して行ってるのが分かる。他人事ながら、よく頑張る連中だ。
 もしも開業資金でも貯まって、いっぱしのショップでも開けるようになったら、ああいう連中雇うに限る……なんて考えてたら、突然砂煙が上がった。

 交易所施設付近だ。
 緊張しすぎた新兵でも、手榴弾暴発させたか?
 そう思ったが、何か様子が違うようだ。
 砂漠の保護色のような黄色の機体で、イマイチ見づらかったが、コトラが一体、壮絶な勢いで吹き飛ぶのが見えた。
 更に数秒の間を置いて、ここまで何かがつんざくような音が聞こえてきた。装甲そのものが、ビリビリと震える。

 あれは、銃砲系の発砲音とは違うようだが、何か高速飛行体が空気を引き裂く音だ。ミサイルか何かかも知れない。
 芥辺境藩国の陣地が、蜂の巣をつついたように騒がしくなるのが遠目にも見えた。
 状況はよく分からないが、遂に戦闘開始か。
 そう思ったのもつかの間、どうやら戦闘とも様子が違うようだ。
 あのコトラの吹き飛び方から見て、弾薬類の暴発じゃないだろう。
 少々待ってみても、いっこうに戦闘の起こる様子はないし、何より陣地の連中が、倒れたコトラの方を全く気にかけている様子がない。
 俺は、愛車を走らせた。


 陣地に近づくと、だんだん状況が飲み込めてきた。
 まず、幸いなことに戦闘らしきモノはあったにはあったが、もう終わってるらしい。コレは俺の独断と偏見に基づく判断だが、恐らく間違いなさそうだ。
 で、倒されたコトラに乗っていたパイロット、コレが結構重要人物らしい。
 藩王って事も無さそうだが、あの国の連中の慌て様は尋常じゃない。主立った者は、そいつの集中治療を見守ってるようだな。
 誰だか知らんが、おかげでこっちも仕事がしやすい。
 殆どの連中が、全くこっちを気にした様子もないので、俺はサッサと仕事に取りかかった。
 クレーンアームからフックを垂らし、適当に両肩を固定して、引き上げる。そのまま胴を180°旋回して、車体の背部に座らせるようにしてワイヤーで再固定した。
 ワイヤーで固定する必要もあり、機体の外に出て、コトラの損傷具合を確かめてみたが、こりゃなかなかの上物だ。
 コックピット付近の損傷は酷い、ぶっちゃけ全損も良いところだが、他の部分は殆ど無傷と言っていい。吹き飛んだときに、多少の歪みもあるかも知れないが、修正可能なレベルだろう。
 ホクホクしながら機体に戻ろうとしたところを、1人に見咎められた。
「その機体をどうする気だ?」
 丁寧に、銃口までこっちに向けてくれた。
「修理するに決まってるだろ。こういうのは、早い方が良いんじゃねぇのか?」
 その一言で、納得したようだ。まぁ、何処で誰のためにするとも言ってねぇけどな。



 キャンプに戻った俺は、早速愛車を整備櫓(やぐら)代わりに、パッチッワークを始めた。
 予め、良い感じに日陰になる岩場に、暫く滞在できる分だけの食料と工作資材も置いておいたわけだ。戦争が何日越しになるかも分からなかったからな。
 コトラの胴体部分を破壊したのは、質の悪い冗談だと思いたかったが、一本の矢だった。I=Dサイズの矢、攻城弓が撃つ鉄の杭なんかじゃなくて、マヂで矢だ。人間が狩りとかで使う奴。
 よくわからねぇけど、どうやら敵は人間サイズだったらしいな。
 こういうの相手にするなら……。
 弓矢だけでI=Dをここまで壊せれる様な連中相手に、人道もへったくれもねぇだろう。
 アメショーベースなら、どの藩国でも製造は難しくないだろうし、上手いこと売り込めば、ライセンス料だけでもウハウハ間違いねぇ。
 俺は、少し鬼畜なコンセプトを描きながら、コトラの四肢を大破した胴体から外していった。

 4日後。元々、纏まった資材を持ってきていたことや、本当は別物に使おうと思っていた、自作のI=Dの胴体部分やその他パーツも流用したこともあって、以外と早く形になった。
 未だ、全体的な完成度は70%って所だが、プログラミング含めた調整は、ある程度動かしながら調整していくしかない。
 幾つか足りないパーツもあるし、そう言う意味でもそろそろ何処かの街に行きたい。
 ヒゲの手入れも出来てないし、そもそも砂漠の真ん中じゃ水は貴重で、ロクに風呂にも入れねぇ。マシンオイルと垢で全身真っ黒だ。
 鼻はスッカリバカになってるが、多分誰かに会ったら、臭いに顔を顰めるだろうな。
 色んな事を考えながら、俺は眠りについた。砂漠の夜は死の世界だが、愛車の中のベッドは快適だ。



 寝ている間に夢を見た。
 夢の中で寝てるんだが、何だか起きなきゃいけないような気がする。
 そのくせ、目が開けられねぇんだ。無茶苦茶眠い時に、痛いように目が開かないことがあるが、それが夢の中で起こってるような感じだな。
 第三者の視点で、寝てる自分を見てるんだ。何処かで女が笑ってるような声が聞こえる。何か、からかってるような、そんな雰囲気だな。
 起きたいのに起きれない。何か、こういうのを「金縛り」って言うのかも知れねぇ。
 一々霊現象なんざ信じてねぇ俺は、「ここ4日で疲れてるんだな」とか思うことにした。
 そのうちまた、夢の中の俺は眠くなって、寝た。
 夢の中で夢は見なかった。

 やっと目が醒めた時、俺はベッドの中に居なかった。
 何か、金属製のドア以外に何もない殺風景な部屋の中で、芋虫のようにグルグル巻きにされて転がされていたんだな。
 コレが、いわゆる拘束衣って奴かな。白い生地にがんじがらめにされた俺は、まるでミイラになった気分だった。
 どうしてこうなっているのか、正直イマイチ思いつかねぇ。
 暫く考えた俺は、コレも夢なんだと結論づけた。その証拠に、鼻がバカになってても僅かに臭ってた、自分の体臭がしないのだ。
 金縛りの次は拘束衣。次は亀甲縛りの夢でも見るんじゃないだろうかとか、嫌なことを考えながら、また目を閉じた俺。
 そこに、何処かからか声が掛けられた。
『お、やっと目を覚ましたか。…って、また寝るな!!』

 妙に近いところから怒鳴りつけられて、再び目を開ける。
 人の気配はしないから、監視カメラとスピーカーでも付いてるんだろうが…。状況は相変わらず掴めない。
 未だ、頭が寝ぼけてるのを差し引いても…だな。
「月並みで悪いが、ここは何処だ?アンタは誰さ?」
『ここは、いわゆる牢獄だよ。』
 誰かには答えないその声は、疲れているのか怒ってるのかよく分からない声で、返事をした。
 牢獄…。ちょっと周囲を見回してみると、これまた月並みだが、天井四つ角の一つに、TVカメラとおぼしきレンズの付いた箱があり、こっちを向いていた。
 声が聞こえた方の壁には、小さな穴が開いた部分がある。
 なるほどな…、アレで見てコレで語りかけてるって訳だ。
『起きたのなら丁度良い。尋問がある。来て貰おう』
「尋問?来て貰おうって、この格好で転がって行けって?」
 軽くモゾモゾ動きながら、反抗的な態度を取る俺。我ながら、寝起きが悪いと思う。
 だが実際、立って器用に跳ねていける自信がない。それ以前に、あの扉を開けられる自信もねぇけど。
『ソレには及ばないさ。』
 男の、少し優越感を感じる返事の後、扉が開いた。

 入ってきたのは、二人の男だった。
 何か見覚えある格好だな……芥藩国の陣地で駆け回ってた連中かよ。
 何となく、事態は飲み込めた。
 砂漠ってのは、風で直ぐにキャタピラ跡とか消えるから、中々便利だったんだがな。問題なく撒いたと思ったんだが、何処でミスったか見つけられたらしい。
 コトラ返せか言われそうなだと思ってると、そいつ等に担ぎ上げられた。
 そのまま、暫く建物の中を荷物同然に運ばれた後、一室に連れ込まれ、奥の机にある椅子に座らされた。

 その部屋は…確かにスポットライトの付いた、尋問用の机っぽい風情のある机があったが、普通の尋問室と違い、大きな部屋だった。
 真っ暗な部屋の中、スポットライトの点いた机だけが、自身の放つ光で浮かび上がっているわけだが、あまり明るいライトとは言えないまでも、その光の届く範囲、四方周囲と天井の壁が光で照らし出されないのが、そう結論づけた理由だ。
 唯一照らされた床も、お世辞にも綺麗とは言えない。シミがあちこちに見える。マシンオイル臭もする。金属臭もする。
 おおよそのことは分かったが、嫌味な演出してくれるもんだ。

 少し遅れて扉が開いた…様だ。扉は俺から見て背中になってるが、音と僅かに明るくなった部屋の雰囲気から判断できる。
 足音は1人分。
 コツコツと音を立てて、遅くもなく早くもない歩調で俺の脇を通り過ぎると、俺と向かい合わせになるように、机に着いた。
 暗い部屋に、黒を基調とした服の若い男。
 そいつが名乗った。
「芥辺境藩国摂政、那限逢真だ。」

 逢真と名乗ったその男の声は、果たしてスピーカーからの声と一緒だった。
 良くも悪くも、女がキャーキャー言いそうな面構えをしている。まぁ、顔だけで摂政が務まるようなボンクラ国じゃないんだろうから、それなりにやり手なんだろうが……。
「摂政ってのは、わざわざ一小物の尋問するくらい暇なのか?」
 思わず本音で聞いてしまった。
「喧しいっ!!」
 あ、マヂギレした。やべぇ。
 恐らく本気で怒鳴ってきた、この黒尽くめの摂政閣下。
 しかし、俺の疑問も至極真っ当だと思う。国ってのは、色んな仕事する奴がいるもんで、間違っても摂政の仕事に「尋問」なんて無いだろう。
 そんなの一々やってたら、本来の国政に手が回るはずがない。政治のことは素人だが、その位は分かるつもりだ。
 しかし、その疑問は直ぐに答えを得た。
「混乱中の我が国の陣地から、よりによってI=Dを収奪しやがって。お前もI=Dをいじる身なら、どれだけ貴重なモノか分かるだろう。」
 忌々しそうな口調と顔つきで話は続く。
「コトラは、我が国が独自に再設計した国の誇りだ。ソレをお前…」
 カチンと音がして、部屋の一角に照明が点く。
「……あんな風にしやがって。」
 果たして、摂政閣下に指差され照らされたそこには、四肢を取り外されて芋虫のようになった、胸部を大破させたコトラがあった。頭部のセンサー類も取り外され、さながら頭蓋骨を晒したようになっている。もちろん犯人は俺だが。
 そして、次々と照明が点いていき、部屋全体が明るくなる。
 遮光されていたようだが、I=Dを整備するための施設…おそらくは整備工場か何かだろう。
 ご丁寧に、俺の愛車と外見上は完成していた、件の新造I=D、「黄泉津平坂」もある。
 そして、その足下には…。

「あ~、すごーい!重装甲ですよ重装甲!逢真さん、これウチで貰っちゃいましょうよ!!」
 能天気にはしゃぐ女が……、
「バカっ、気易く触るんじゃねぇ!!」
 思わず、我を忘れて立ち上がろうとした俺は、拘束衣で芋虫状態だったことを思い出す間もなく、顔面から床に突っ伏した。すげぇ痛ぇ…。
「うわ…痛そぅ…。」
 女が口元に手を当てて、顔を顰める。
「お前は、何がしたいんだ…?」
 摂政閣下が、あきれ顔で上から見下ろす。
 俺をこの部屋に連れてきた男二人は、困ったような顔で顔を見合わせている。
 俺が慌てた理由を知れば、この男もこんな顔で呑気に構えてられないだろう。あの女、よりによって、装甲を手でバシバシと叩きやがったのだ。『爆薬を詰め込んだ装甲』をだ。万一誤爆すれば、なまじ閉鎖空間だけに、この部屋ごと吹き飛びかねない、そんな危険な代物なのだ。
「あの女を止めてくれ。あの機体の装甲は、リアクティブアーマーだ。それも、テストもしていない未調整のだ。万一爆発したら、丸ごと吹っ飛ぶぞ。」
 床に突っ伏したままで、それでも俺は大マジで言った。
「なんちゅう物騒なモノ作ってるんだ、お前は!!下がれボタン!!」
「きゃー!」
 摂政閣下が喚き、ボタンと呼ばれた女が全力で離れる。
「ゲ…ゲドーさん。僕、一回アレで転けそうになった…。」
「ああ……、あの運んでるときだよな。俺、あの時足下にいたんだぜ…。二度とアンジュに会えなくなるところだったのか……。」
 部屋の端まで後ずさった男共の狼狽えようも、まぁ、当然と言えば当然かも知れない。

 リアクティブアーマーというのは、中に火薬を詰め込んだタイルや箱みたいな、使い捨ての装甲のことだ。
 装甲の爆発は、外側に向かって力が働くようになっている。ミサイルや弾丸が命中したときに、その爆発の力で弾き散らす効果があるのだ。
 もちろん、砲弾やミサイルの爆発力を弾くわけだから、それなりに爆発する。付近に人が居たときは無事では済まない。
 普通は、弾丸も火薬が着火するくらいに十分に熱く、ミサイルに至っては爆発するので問題ないが、弓矢のようなモノを撃ってくるのが相手と言うこともあり、火薬の種類はかんしゃく玉とかに使う、衝撃爆発タイプのモノを使ってる。
 手で叩いたくらいで爆発するようじゃ、歩くことすら出来ないわけだが、テストすらしていない現状、大丈夫な保証は何処にもない。
 転けそうになったと言うが、歩行関係の調整もしていないんだから、当然だろう。しかしまぁ、運がいいのか腕がいいのか。手で叩いてどうかはともかく、転倒の衝撃で無事かどうかは流石に分からない。とりあえず、歩いた位じゃ爆発しない事だけは分かったが。

「さて、話を戻すぞ。」
 この状況から一番最初に立ち直ったのは、流石と言うべきなのか、黒衣の摂政閣下だった。
「とにかくお前は、国家の貴重な財産であるI=Dを火事場泥棒のように、不法に持ち去ったのだ。その罰を受けて貰わねばならない。」
 思いだしたように二人の男に引き上げられて、再び椅子に座らされた俺に、摂政閣下は雰囲気のある口調で静かに言った。
「納得いかねぇ。」
 即座に切り返す俺。
「何がだ?」
 身を乗り出して、おそらくは威圧の意味も込めて聞いてくる摂政閣下。んなこたぁ知ったこっちゃねぇ。
「そもそも、大破全損したI=Dの価値は0だぜ。大破したI=Dは、修理して再使用することも、別のI=Dのパーツに使うのも、潰して資源に戻すのもNGってのが、この世の理だろ?」
 我ながら屁理屈だが、確かにそう言う決まりはある。俺は知ってる!!
 俺は、偉そうに胸を張って力説してやった。手足が自由なら、腕組みして語ったところだ。
「喧しい。それがNGなら、お前のやったことだってNGだろうが!あのコトラタンクだって、間違いなく『ソレ』だろ?」
「人の愛車に、勝手に変な名前付けんな!第一、俺は国に仕えてねーもん。」
「減らず口を…。百歩譲ってそうだとしても、お前にやるとは言っとらんわ!」
「ンじゃどうするんだ?あのままあそこで、自然に還るまで野ざらしにでもしとくのか?交易所の道のど真ん中に、慰霊碑でも作る気かよ?俺が持って帰った方が、よっぽど有効利用できるぜ!」
 もう、ガキの口喧嘩だ。言ってて自分でもソレは分かる。頭で考えるより先に口から言葉が出て止まらねぇ。屁理屈でも何でも、コトラを持っていったことを不問にさせるつもりなんだが…。
「瀧川さんは死んでないもん!!」
 コトラのパイロットは瀧川というらしい。ボタンと呼ばれた女が全力否定する。
 やべ、女まで怒らせた。誰か俺を止めてくれ。第一…
「第一、あの矢が弾き散らせるか、未だ試してもねぇのに、こんな所に拉致られて消されてたまるかっ!……っ!?」
 マズった。思わず、思ったことがそのまま口に出た。おかげで、少し冷静になったが、ある意味後の祭りだ。
「誰が拉致か、人聞き悪……、ほぅ?」
 案の定というか…摂政閣下も冷静さを取り戻し、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「あの機体は、そう言うコンセプトなのか?」
「……完成すればな。」
 小馬鹿にしたような、柔和な口調で問いただす摂政閣下。顔を顰めつつ、ぶっきらぼうに返す俺。
 ああ言う敵と戦った後だ。この国も対策は考えるだろう。
 そこに、未完成とはいえ対抗策を講じた機体があるわけだ。試してみて、効果が有ればめっけもの、無くても元々スクラップだったモンだ。データ取りくらいにはなるだろう。
『あーっはっはは。やっぱダメだったよコイツ。』
 砲撃か何かに耐えきれず、スクラップと化した黄泉津平坂を眺めて馬鹿笑いする、宰相閣下が容易に想像できた。
 コイツ…俺の作品を…ぶっころ……。
 いやいや、想像と現実をごっちゃにし始めたら、いよいよ俺も終わりだ。相当テンパってるな。
 ともかく、一番嫌なのは「罰」とやらだが、せっかくここまで組んだ機体を取り上げられるのだって、その次に嫌だ。
「ンじゃ、完成させろ。必要なモノは揃えてやる。」

「だから、完成すればって………、はっ?」
 投げやりに返そうとして、俺は耳を疑った。我ながら、間抜け面をしていたに違いない。
「完成させてみろと言ってるんだ。使えるようなら、ウチの藩国で採用してやる。何なら、ウチでそのまま兵器開発してみるか?」
 何かよく分からない間に、スカウト話になってやがるし。
「余程バカな要求じゃなければ、部品調達はしてやる。こそ泥まがいに調達するより、余程マシだろう。」
 さっきまで、ガキの喧嘩のような言い合いしてた相手に、この変わり身の早さは何なんだろう。
 しかし、本気で言ってるのかの確証はないが、何より俺には困った性分がある。コレさえなければ、とっくに何処かの藩国に仕官していた。
「お言葉は有り難いんですがね…。」
「何だ、それともここで未だ不毛な問答でもしたいのか?」
「いや、俺一時期、そう言う場所で働いてたことがあるんですよ。が…どうもね…。」
 自覚があるのに直せない嫌なクセってのは、誰しもあると思う。俺の場合は、まさに開発に関わる部分にソレがあるのだ。
「こんなのを作れとかって指示が出ると、悪いクセ出して、何でか付加機能ばっかり付いた機体になっちまいましてね。結局、役に立たないか、コストに見合わない機体ばっかになっちまうんですよ。最初から自分で思った通りに作ったら、そう言うのもないんで、こういう商売やってるんですよ。」
 この言い訳が、周りの連中にどう映ったかは知らないが、コレは自分自身、心底嫌な部分だ。
 要は、張り切りすぎか目立ちたがりなんだろうな。俺はこんなモノも付けられるんだぜ~みたいなのが、抑えられないんだろう。
 結局、自分でも当然だとは思うが、採用されるはずもない試作機ばっかり作ってる自分が嫌になって、出奔したわけだ。
 ここでまた同じコト繰り返すのも、芸が無さ過ぎるんでね、正直気が進まない。
「そう言うのは気にするな。まぁ、重装甲型とか、白兵戦用とか、そう言う方向性くらいの指定はあるが、後は各自で好きにやって貰っている。あそこのボタンも、そんな感じで設計してくれている。」
 改めて紹介…と言うわけでもないんだろうが、さっき黄泉津平坂の脚をバンバン叩いてた女、ボタンは、摂政閣下から紹介されて照れくさそうに笑った。


 結局俺は、この藩国に留まることになった。
 本当に留まるかどうか、正直決めかねていた部分はあったのだが…状況が目まぐるしくて、とりあえずってつもりで付き合ってたら、そのままズルズルと来ている感じなのだ。
 黄泉津平坂は、結局使えなかった。俺は知らなかったのだが、アラダという連中はバリアーのようなモノを展開できるらしく、対歩兵戦闘寄りなあの機体では、生還率はともかく攻撃力が著しく不足するらしい。
 まぁ、そう言うこともある。倉庫に置いておいても、状況次第では日の目を見ることもあるだろう。
 暫くは、ここで過ごしてみることにする。むしろ、文字通り猫の手も借りたい、そんな立て続けの戦闘の日々。今更抜けれる雰囲気でもないしな。
 若い連中が多いが、ソレはソレで悪い雰囲気じゃない。
 からかい甲斐ある奴が多いのも良いコトだ。
 後は、そろそろ嫁さん候補でも見つかったら言うこと無いが、ソレはおいおいって所だな。
 とりあえず、今は新しい機体を設計するのが俺の仕事だ。あ~、散髪行きてーなぁ…。
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