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吉備津誕生日SS

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takanashi

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7月6日、七夕前日。
芥辺境藩国でも七夕の話題で盛り上がっている。
そんな中、整備士の間でもう一つ別の話題が話されていた。
それは……。

夕刻。
コトラの整備が終わった格納庫で作業をしている人物がいた。
吉備津 五十一だ。
元々、ジャンク屋の家業をしていたらしく、機械いじりが好きなようだ。
今している作業も趣味でやっているようだった。

そして、別の場所では。
数名の整備士と常世が話をしている。

常世「私に話しとは何でしょうか?」
整備士A「実は、今日は吉備津さんの誕生日なんですよ」
整備士B「それで、常世さんにお願いがありまして」
常世「そうなんですか。吉備津さんが誕生日だったとは……」
常世「何か、プレゼントした方がいいでしょうか」
整備士A「はい、それで整備士の間で、誕生日会を行おうと思うんですが、
     準備がまだ整ってないんですよ」
整備士B「ですので、常世さんに吉備津さんを少しの間
     格納庫から連れ出して欲しいんですよ」
常世「なるほど……。わかりました。やってみます。
   どれぐらいで準備は整いますか?」
整備士B「一時間あれば、出来ます」
常世「なるほど。一時間ですか……」
整備士A「はい、お願いします」
整備士B「お願いします」
常世「わかりました。お引き受けします」

その言葉を聞いて、整備士は準備へと向かう。
常世は。

常世「引き離す手段は……」

と吉備津を格納庫から連れ出す算段を考え始め、とりあえず街へと歩き始める。

常世(不自然にならないように、連れ出すんですから、
   理由がいりますね。となると……)

街中で考えをしていると、誰かにぶつかる。

常世「おっと。ごめんなさい」
サヨコ「いえ、こちらこそ……。って、常世じゃない」
常世「あれ? サヨコ? 珍しいですね」
サヨコ「どういう意味よ? 珍しいって?」
常世「いえ、一人で歩いているので。
   今日は逢真さんと一緒じゃないんですか?
サヨコ「……今日は、逢真と一緒じゃまずいのよ」
常世「一緒じゃまずい?
   ……ああ、明日の七夕で何か贈り物でも?」
サヨコ「……そうね、ある意味贈り物ね」
常世「ある意味?」
サヨコ「気にしないで」
常世「わかりました。それでは頑張ってくださいね」
サヨコ「……あちがとう」

そう言って、常世はまた歩き始める。

常世(贈り物ですか……。そういう手もありますね)

そして、ふと酒屋が目に入る。

常世(ふむ……。いい手とは言えないでしょうが時間もあまりありませんし)

近くのお店に入り、お酒を買う。
そして、吉備津を誘い出すため、格納庫に向かう。

格納庫に着くと、吉備津は変わらず、機械いじりをしている。
常世は吉備津に声を掛ける。

常世「こんにちは、吉備津さん」
五十一「ん? 何だ、常世じゃないか。どうした?」
常世「お酒のお誘いに来ました」
五十一「酒の? おいおい、時間はまだ早いんじゃないか?」
常世「まあ、そうなんですが……。
   今日は、吉備津さんの誕生日と聞きましたので」
五十一「誰に……って、あいつら(整備士)か」
常世「たまたま話しているのを聞いてしまいまして」
五十一「仕方ねーか、それじゃ」

と言いながら、頭をかく吉備津。

常世「そういう理由で、少し付き合ってくださいよ」
五十一「……まあ、少し煮詰まってたからなー……。
    よし、行くか!」
常世「お酒は買ってあるので、外で飲みましょう。
   コップもありますし」
五十一「用意がいいな」
常世「それじゃ、行きましょう」

と、二人で歩き始める。
二人が格納庫から出るのを確認した整備士たちが準備を始める。

整備士A「常世さんが時間を稼いでいてくれるうちに、終わらせるぞ」
「「「おおー!!」」」


常世「ここらへんでいいですかね」
五十一「そうだな、いいだろ」

二人が着いたのは、街中より少し外れたとこにある、緑の多い場所だった。
ここで昼寝をする人も多いのだが、今日はいないようだった。
常世は持っていたコップを吉備津に渡し、酒の封を開ける。
そして、吉備津のコップに注ぐ。
続いて常世のコップに吉備津が酒を注ぐ。

常世「それでは、吉備津さん、誕生日おめでとうございます」
五十一「ああ、ありがとよ」

そう言って、コップの酒を飲む。

五十一「くはー、仕事の後の一杯は、やはりうまいな!
    しかも、外で飲むなんてほとんどしないからなー」
常世「あはははは、さらに言えば綺麗な女性がいればなおよし、ですか?」
五十一「そこまでは期待してねーよ」

と、豪快に吉備津は笑う。
常世は空に目を向けると、ちょうど、一番星が光っている。

常世「そういえば、明日は七夕でしたね」
五十一「お? 何だ? 一緒に七夕を過ごしたい奴でもいるのか?」
常世「いえいえ! いないですよ。残念ながら」
五十一「何だ、つまらんなー。 お前もそろそろ女の一人や二人と
    付き合ったらどうだ?」
常世「あははは……。いや、まあ、そうなんですけど……。
   どうやら、逢真さんに女運を取られたみたいで」
五十一「逢真に? 確かに奴は侍らしてるからな」
常世「まあ、優しいですから、逢真さんは」
常世(誰彼構わず助けようとしますから、あの人は)
五十一「あいつもそろそろ身を固めた方がいいと思うんだがなー」
常世「そういう、吉備津さんはどうなんですか?」
五十一「俺か? 俺は……内緒だ」
常世「内緒って……。 ずるいですよ、それは」
五十一「いい男ってのは、少しぐらい謎があった方がいいんだよ」

と言い、また豪快に笑う。
常世もつられて笑う。
空にはいつの間にか、星空が広がっていた。

五十一「っと、そろそろ戻らねーと」
常世「もう、ですか?」
五十一「ああ、さっきやってた奴も終わらせないといけないしな」
常世「そうですか」

そういいながら、時間を確認する。

常世(よし、一時間は過ぎてる。準備も多分終わってるでしょう)
五十一「それに、あいつらが宴会の準備をしてるだろうし」
常世「……え!? 宴会ですか?」
五十一「ああ、宴会っつーか……誕生日会……か?」
常世「Σ」
五十一「はっはっはっは! まだまだ甘いな、お前らも」
常世「……ばれてましたか」
五十一「いや、正直言うと、お前が酒を持ってきた時点で
    わかったんだがな!」
常世「どうしてわかったんですか?」
五十一「そりゃ、あいつらの変な動きがあったし、
    お前が酒持ってくるし。少し考えればわかる事だ」
常世「……おみそれしました」
五十一「まあ、楽しかったぞ。ありがとよ」

吉備津が格納庫に向かって歩き始める。
常世は一人、そこに残る。
そして、空を見上げて、

常世「やれやれ、敵わないなー」

と苦笑をして街に向かって歩きだす。
空には、一筋の流れ星が流れていた。
明日は、七夕だ。

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 むぅ、中の人もここまで貫禄があったらなぁ(ほろり
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