オープニング ◆emwJRUHCH2




これより逃れられぬ運命の幕が上がる。





意識を取り戻すと、そこは深い闇の中だった。

闇の中に居るのは一人や二人ではない。
まるで水面に浮かび上がる泡沫のごとく、その場に居る者が次々と目を覚ます。
意識を取り戻した者の多くは、自分が意識を取り戻したことにすらすぐには気付かなかった。

そこはどれほど目を見開いても、光一つ差さない闇。
そこはどれほど耳を澄ましても、音一つ拾えない静寂。
そこはその場に居る誰も覚えの無い状況だった。

異常な事態に疑問を口にしようにも、誰の声も発せられることは無い。
誰かが声を出そうとしても、口から音声そのものを発することができないのだ。
声一つ漏れない静寂の中、それでも場に居合わせた者たちの中で、
何を便にするでも無しに波紋のごとく不安感や恐怖感が広がっていく。
闇の中に異様な緊張が限界まで張り詰めた時、静寂を破る声が響いた。

「お待たせしました」

一斉に声のする方向へ、注目が集まる。
闇の中、一人の少年の姿が浮かび上がる。
自分の身長より長い杖を携えた、丸い眼鏡を掛けた小学生くらいの少年。
しかしそんな外見的な特徴よりも、何より少年はその纏う空気が異質だった。
外見の年齢にそぐわぬ沈着な声と空気で、少年は瞬時に場を支配する。
少年は落ち着き払った様子で言葉を続けた。

「まずは自己紹介をしましょう。僕の名前は柊沢エリオル。
こうして貴方たちに集まってもらったのは、殺し合いをしてもらうためです」

こうしてエリオルと名乗った少年によって告げられた。
逃れられぬ運命――殺し合いの始まりを。

殺し合いを告げられ、闇の中に更なる波紋が広がっていく。

この場に蔓延していた漠然とした不安や恐怖。
それが殺し合いという言葉によって具現化したのだ。
エリオルの理不尽な物言いに対しても、相変わらず誰も声をたてられない。
静寂にエリオルの声だけが響き渡る。

「殺し合いは貴方たちの中から最後の一人が決まるまで行ってもらいます。
但し今この場ではなく、専用の会場を用意したので貴方たちをそこにお送りします。
会場には貴方たちしか居ないので、安心して殺し合いを行って下さい」

小学生くらいの少年が、至極淡々と殺し合いの説明を進めていく。
それは平穏に生活している者には、非現実的なほどに異様な光景だった。

「貴方たちが会場に送られると同時に殺し合いは開始して、全員にデイパックが支給されます。
デイパックには食料や水などの他に、殺し合いの参加者の名簿やルールブックなども入っており、
参加者個別にランダムの支給品が、それぞれ一個から三個まで入っています。
そして殺し合いの会場の地図もあり、この地図は貴方たちの生存にとって重要な物になります。
何故重要なのかを説明しましょう。あちらをご覧になって下さい」

エリオルが杖で前方の闇を指す。
そこに三人の女の姿が浮かび上がった。
一人は金髪で長身の白人の女。
一人は着崩れたような着物の日本人と思しき女。
一人は白人の女より更に長身で褐色の女。
三人はまるで見えない柱に縛られているように、背中合わせに密集して立っていた。
着物の女は怒気も露にエリオルに向かって声を荒げている様子だが、やはり声そのものは誰にも聞こえない。
褐色の女はその筋骨隆々の肉体を駆使して力付くで見えない拘束を外そうとしている様子だが、その場を一歩も動けないらしい。
白人の女は他の二人のように抵抗する様子は見せないが、やはりエリオルへの警戒と敵意を隠してはいない。

「一人ずつ紹介をしましょう。まず着物の女性が神崎すみれさんです。
すみれさんは帝国歌劇団・花組の舞台女優をされている方です。
まあ、今はすみれさんの素性は関係ありませんが。すみれさんの首元をご覧になって下さい」

すみれの首から光が発せられる。
それはすみれの首に描かれた円状の模様から発せられていた。
驚き動転している様子から、すみれ自身も首の模様に覚えが無いらしい。

「すみれさんの首に描かれている物は魔法陣と呼ばれる物です。
あの魔法陣と同じ物が貴方たち全員の身体に描かれています。
魔法陣は条件を満たすと発動します。条件とは立ち入り禁止に指定されたエリアに侵入することと、
そして僕の任意でも発動します。このように……」

すみれの首にある魔法陣が大きく広がり浮かび上がる。
浮かび上がった魔法陣は、再びすみれに近付いて行く。
そして魔法陣と接触した途端、すみれは誰にも聞こえぬ悲鳴を上げた。

「魔法陣が発動すると、描かれた方がこのように……消滅します」

魔法陣はすみれに頭部から覆い被さるように降りて行った。

そして魔法陣の通っていった箇所にあったすみれの肉体が、欠損していく。
聞こえぬ悲鳴を上げていたすみれだが、頭部の全てが魔法陣によって消え去ると、
その全身から力が抜けて落ちる。

「魔法陣が消滅させるのは描かれていた方のみです。
他の方が発動した魔法陣に接触しても消滅はしないので安心して下さい」

エリオルの説明通り、魔法陣と接触している他の二人に影響は無い。
それでも消えゆくすみれに動揺して声を掛ける様子から、二人はすみれと浅からぬ仲であると推測できた。
しかしすみれの辿る運命を変えることはできない。
すみれの上体が消え去ると、魔法陣も消失した。
そして残ったすみれの下半身が足元に向けて倒れ落ちた。
消滅したのはすみれの肉体のみだったらしく、上半身の着物は残り、
倒れた下半身に巻き込まれて、倒れ伏す形になった。
その着物を、下半身から染み出てきた血が濡らしていく。
無残な死の様相が露になっていった。

「そちらの褐色の女性は桐島カンナさん。
すみれさんと同じく帝国歌劇団・花組の女優さんで、琉球唐手桐島流を修めているそうです。
ご覧の通り非常に鍛えられた頑強な肉体をお持ちの方ですが、魔法陣にとっては無意味ですね。
いかなる身体を持ついかなる存在も、魔法陣は消滅させることができます」

今度はカンナの首から魔法陣が浮かび上がり、そして降りて行った。
声にならぬ悲鳴を上げるカンナを、魔法陣が一瞬の躊躇も無く消し去っていく。
その頑強な肉体が、まるで消しゴムに掛けられたかのごとく呆気無く消失していく。
やがてカンナもすみれと同様に、下半身だけの無残な姿となった。
下半身が倒れ伏し、大量の血を流す。

「さて……そちらのお二人の半身を残してしまいましたが、それは魔法陣の発動の結果を貴方たちへ効果的にお伝えしたかったからです。
貴方たちの魔法陣が発動した際には、全身が消滅します。
その様子をあちらの最後に残った女性、マリア・タチバナさんで実演したいと思います」

マリアの首から魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣に襲われ、マリアの身体が為す術も無く消えていった。

「マリアさんも同じく帝国歌劇団・花組の女優さんで、かつてはロシア革命の闘士や用心棒もされていたそうです。
しかしどんな技術や経験があっても、逃れることは適いません……魔法陣からも……殺し合いからも」

マリアの全身を魔法陣が通り抜ける。
無残な半身どころか、血の一滴も残さない。
惨劇の後にはマリアの衣服と虚無感が残った。

「先ほども説明しましたが貴方たちの身体にも例外無く魔法陣が描かれています。
そして魔法陣は指定した禁止エリアに侵入すれば発動します。
どこが禁止エリアに指定されるかは、殺し合いの開始から六時間毎に行う定時放送でお知らせします。
禁止エリアは番号で指定されますが、支給される地図と照合すれば会場のどこか分かるようになっています。
定時放送では過去六時間の脱落者も発表されます」

惨劇の血の匂いも生々しい中、エリオルは平然と説明を続けていく。

その様子からはいかなる感情も読み取れない。

「最後の一人が決まれば殺し合いは終了して、その方の魔法陣は解除され元の世界にお帰りになれます。
更に報酬として一つだけどんな願いでも叶えられます。
富、権力、能力、不老不死、死者蘇生、どんな願いでも構いません」

まるで夢物語のような報酬を語るエリオル。
しかしその場に浮かれたような気配は微塵も無い。
先ほど起きた血の惨劇。そしてこれからより以上の惨劇が起きる予感。
それが場の空気を変わらず支配していた。

「それと報酬は殺し合いの途中でも与えられます。
三名以上の参加者を脱落させた方は、僕に報酬を求めて下さい。
音声でも筆記でも構いません。どんな状況でも察知して使いの者を送ります。
報酬は以下の三種類の中から選べます。
一つは追加のデイパックを一つ。中にはもちろん、共通支給品一式と新たなランダムの支給品が一個から三個入っています。
一つは体力や負傷からの回復。命ある限り完全に回復します。
一つは参加者一名の情報。状態から動向や現在位置まで殺し合い内の情報なら望む限りお教えします。
以上の三種類の中から選んで使いの者に伝えて下さい」

エリオルはここに来て、殺し合いを推進するようなルールを提示してきた。
そんな誘いに乗る者は居ない。
そう言い切れる者こそ居ないのだ。
この闇の中で、自分以外の他者が誰で何を思っているかなど誰にも分からないのだから。

「では今から、殺し合いの会場にお送りします。最後に助言を一つ。
誰が生き、誰が死に逝くかを選択するのはあくまで貴方たち。くれぐれも悔いの無いように」

次の瞬間、エリオルの姿が闇に消える。
そしてその場に居る全ての者の意識も闇に消えていった。
次に目覚めた時に、幕は上がる。



こうして逃れられぬ運命の幕が上がる。
逃れられぬ運命の――殺し合いの。




【神崎すみれ@サクラ大戦シリーズ 死亡】
【桐島カンナ@サクラ大戦シリーズ 死亡】
【マリア・タチバナ@サクラ大戦シリーズ 死亡】



【主催人物】:柊沢エリオル@カードキャプターさくら

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最終更新:2015年10月20日 00:35