【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part2

【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part2

6 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/04(日) 08:27:07 ID:GH+9htui
    WBは1機のガウ攻撃空母と3機の輸送機を従え、一路バイコヌール基地へと空路を急ぐ。
    輸送機群ははダグラス大佐率いるMS特務遊撃隊である。今回は補給がメイン任務の為、
    実働部隊は搭載されていない。
    その為その内の1機にオルテガが自らのドムと共に同乗し同隊の護衛を勤める。
    しんがりを務めるガウの内部にはガイアとマッシュが控え、後方に睨みを利かせている。
    搭載していたMSを先の戦闘で失い、デッキが空となった二機のガウは既に何処かの基地に帰還していた。

    ついさっき、ラルの口からセイラの素性を知らされたばかりのアムロはブリッジを離れ、
    1人MSデッキでガンダムの整備をしていた。
    パネルを全開したコックピットの奥に潜り込んで、ほぼ仰向けの状態になっている。

    何だか別世界の事の様でピンと来なかった・・・というのが正直な感想だ。

    ジオン・ズム・ダイクン。学校の教科書に載っていた名前だ。
    確かジオニズムがどうとか・・・はっきり言ってあまり興味が無いジャンルの授業だった。
    漠然とだが、人間なんてそんなに都合良く変われるもんじゃないだろうと思えたからだ。
    試験に出るから名前と年号だけは覚えたけど。

    セイラさんはその、ジオン・ズム・ダイクンの娘。
    セイラさんの本名はアルテイシア。
    セイラさんの兄は「赤い彗星」のシャア・・・

    アムロは黙々と整備を続ける

    ダイクン派だったラル大尉達が、ダイクンが死去した後、いかにザビ家に冷遇されたかという事も聞いた。
    もう既に死んでしまったと諦めていたダイクンの遺児セイラと逢えた事がどれ程嬉しかったかも。
    そしてセイラの兄も意外な人物として生存している事が判明して・・・


    もう何だか、驚く事が多すぎて考えがまとまらない。


    WBでずっと一緒に戦っていたのに、彼女の事を何も知ってはいなかった自分に
    改めて愕然とするアムロだった。

    ・・・セイラさんは僕の知っているセイラさんじゃ無かったのかな・・・

    そんな不安も頭をよぎる。
    荒くれ者に囲まれても揺るぎの無かった彼女の気高く美しい横顔をアムロは思い出していた。
    生気の満ち溢れたたあの瞳。顔が熱くなる。我知らず胸は早鐘を叩いている。
    以前から綺麗な人だとは思ってはいたが、こんな感覚を今まで彼女に感じた事など無かった。
    どうやらこれはやはり、あの場のジュースのせいでは無かったらしい。
    もどかしい怒りにも似た感情を抑える事ができず、アムロは同期ゲージ調整を2度ほどしくじった。

    「アムロ、いて?」

    コックピットの外から唐突にかけられたセイラの声に弾かれた様に反応したアムロは
    展開されたパネルカバーに思い切り頭をぶつける事となった。

7 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/04(日) 08:29:19 ID:GH+9htui
    「ど、どうしたのアムロ?」

    顔をしかめ、額をさすりながらコックピットから這い出して来たアムロにセイラは驚いた。

    「・・・大丈夫です。それよりどうしたんです、こんな所に?」

    意外そうな顔をアムロはしている。
    戦闘中以外でハンガーにわざわざ出向くセイラなど今まで見た事が無かったからだ。
    もとより、こんな油臭い場所はセイラみたいな女性には似合わない。
    出撃するMSパイロットをサブモニターの中から涼やかな声でオペレートする彼女こそが相応しい。
    そう思っていた。いや、確かにそう思っていた筈だったのだが。

    「あの、これ、ハモンさんやメイさんを手伝って、皆さんの分を作ったの。
    せめて待機時ぐらいはちゃんとした食事を摂って欲しいって」

    慣れない手付きでおずおずと差し出されたトレイには
    暖かな湯気を立てるシチューと少しだけいびつな形のサンドイッチが乗っている。
    うつむきながらセイラは頬を真っ赤に染めた。

    「恥かしいわ・・・メイさんの方が私よりずっと上手なんですもの。
    私ときたら今までお料理なんて殆どやった事が無くて・・・」

    と、いう事は、これはセイラさんの手作り

    アムロはもう一度食事とセイラを見比べた。
    ・・・確かに炊事で悪戦苦闘する彼女など、普段凛とした姿しか見た事が無い身としてはイメージすら湧かない。
    彼女を少しでも知っている人は、試しにやってみるといいだろう。

    「アムロと話がしたかったの。少しだけで良いのだけれど」

    セイラのすがるような、それでいて真摯な眼差しに
    アムロの心臓は再び跳ね上がった。

8 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/04(日) 08:31:27 ID:GH+9htui
    デッキの片隅に腰を下ろすと、アムロは慌てた様に食事を摂りはじめた。
    並んで座ったセイラは暫く黙ったままその様子を見つめている。

    「お、美味しいです。本当に」

    ありがとうと答えながらセイラは穏やかな目で笑った。
     この数日の間にアムロは本当に変わった、と思う。
    上手く表現はできないものの、精神的に成長したように感じるのだ。
    以前の子供っぽさが抜けて逞しさが出てきた気がする。まだ頼り甲斐とまでは言えないが。

    そして、これは直感なのだが、自分の中に漠然とある「何か」をアムロと「共有」できそうな気さえするのだ。

    勿論それは、単なる思い込みの類なのかも知れないが・・・
    そんなアムロに以前は考えもしなかったであろう≪引力≫めいた物、を感じ始めている

自分を
    あの時のハモンの微笑みによって、認めざるを得なくなってしまった。

    そう、あの時・・・ハモンがアムロに額を合わせた時・・・確かに自分は彼女に「嫉妬」したのだと。


    セイラはアムロの横顔にごめんなさいと囁いた。アムロは驚いた様に顔を上げる。
    過程はどうあれ、今回のアムロの行動は自分にとって絶好の機会だった。
    それを利用するが如く事を進めている自分が申し訳なく思えてならなかった事を
    セイラは素直な言葉でアムロに話す事ができた。
    アムロはそれを真剣に聞き、気にしないでくれ、自分もセイラの役に立てて嬉しいと答えた。

    それは不思議な感覚だった

    アムロに寄り添うようにしていると言葉の輪郭がぼやけて行く

    何かが、言葉にはできない何かが急激に二人の中に広がって行く気がする。
    もしかしたらアムロとなら言葉なんて遠回しな物は必要無いのかも知れないとすら思える。
    セイラは刹那の夢うつつの中で何とか言葉を紡ぎ出した

    ≪心を触られた≫としたら、こんな感じなのかしら、と・・・



42 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/05(月) 01:03:27 ID:HOOfuWL8
    「あああっ!こんな所にいたっ!」

    寄り添ってまどろみそうになっていたアムロとセイラの目を覚まさせたのは、
    ハンガー中に響き渡る嬉しそうな少女の声だった。
    声の主であるメイは、アムロの姿を見付けるとまるで子犬の様に全速力で駆け寄って来る。
    もしも彼女に尻尾があったなら、千切れるほど振っているであろう勢いだった。

    メイは走って来た勢いそのままに正座する姿勢になると、
    その状態で1メートルほど床を滑ってアムロの目前にピタリと停止した。
    思わずのけぞったアムロをキラキラした瞳で見つめている。

    「MS-07H-2の戦闘データ見たの!すっごいねえ!尊敬しちゃう!!」

    のしのしとオルテガがメイの後ろからやって来た。
    面白くも無さそうに溜息を吐きながら、それでもメイの後ろに腕組みをしたまま仁王立ちになる。
    まるでVIPに対する屈強なボディガードの装いだ。え、何で?とアムロは思ったが、
    そんなオルテガを全く気にせずに、メイはアムロにずいと近付いた。

    「何て言うんだろ、他では見る事のできない様な・・・凄く独創的な機動なのよ!
    特に回避行動!何あれ!?ううん褒めてるのよ?
    機体のポテンシャルを最大限に引き出さないと、まずあんな動きはムリね!
    それとアムロってバーニアの使い方が絶妙!あの気難しいエンジンをあそこまで
    使いこなせるなんて本当に素敵!・・・」

    メイの賞賛はまだまだ続きそうだ。どうして良いか判らないアムロは助けを求める様に
    横にいるセイラに目を向けるが、何故か彼女はアムロの視線をすいと外すと立ち上がってしまった。

    「・・・私はもう行くわね。それじゃ」

    この世には「怖い笑顔」というものもあったのだとアムロは戦慄を覚えた。
    何かが二人の間に繋がった、と、思えた直後なだけに・・・
    マイナスの感情もほとんど物理的なダメージに増幅されて感じる気がする。

    体と口が硬直して動かなくなったアムロは、虚しく口をぱくぱくするだけで、
    去り行くセイラに声をかける事もできなかった。

    「総員に伝える!10分後にバイコヌール基地に到着するぞ!着陸準備にかかれ!」

    艦内放送のクランプの声が、今回だけは天使のそれに聞こえた。
    心の中で胸を撫で下ろしたアムロは「行こう!」とメイとオルテガを促し
    前を行くセイラを追ってブリッジに走った。


52 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/05(月) 09:57:57 ID:HOOfuWL8
    まだ豆粒ほどにしか見えないWBを眺めながら
    風の吹きすさぶバイコヌール基地の滑走路脇にジオンの軍服を身に纏った二人の男女が佇んでいる。

    「姉御、本当にやるつもりかい?」

    「ふふ、ウチに配属されてまだ間もないってのに、随分馴染んだ物言いじゃないか、えぇ?」

    妖艶な微笑を浮かべた美女は愛おしそうに隣に立つ男の頬を撫でる。
    精悍な顔付きをした男は片眼を瞑って不敵に笑う。

    「姉御との≪特訓≫のお陰だろ?それにここの水は俺に合う。
    左遷(とば)されて良かったぜ。あのクソ野朗をぶっ飛ばした甲斐があったってもんだ」

    「ジオンのエース『真紅の稲妻』が曹長に降格されてアタシの艦隊にねぇ・・・
    最初は何の冗談かと思ったよ」

    くっくっと可笑しそうに女は哂う。

    「戦闘中に部下を置いて逃げ出した上官をぶちのめして病院送りか。
    本来なら軍法会議ものだろうが、上もアンタの才能を惜しんだんだろうね。
    ギリギリまで降格させてアタシん所みたいなドブ泥に塗れた部隊に放り込むとはさ。
    エリート街道まっしぐらだったんだろ?残念だが運が無かったんだと諦めな」

    「いや、俺はツイてる。姉御みたいな良い女と出会えたからな。
    それに、もともと親父が勝手に出した志願書で無理矢理入隊させられたんだ。軍に未練はねえよ。
    今後は『独裁者』共の手先にならずに済むかと思うとせいせいするぜ」

    「アンタがやって来ると聞かされたときゃ皆どんなツラした優等生が現れるのかと興味津々だったさ。
    手荒い歓迎をしてやる心算だった奴らが殆どだったからね。勿論、このアタシもね」

    女は男の頬に置いていた手を髪に這わせ、更に優しく愛しく撫で付ける。

    「ところがどうだい。ものの数日でアンタはアタシの副官以下を全員実力で屈服させちまった。
    殴り合いの喧嘩でも、MS同士のタイマン勝負でもね」

    「ありゃタイマンじゃ無かったぞ。どう見ても4対1のハンデ戦だった」


    あははは違いないねぇと女は大声で哂った。


    「ウチの部隊は実力勝負がウリだからねぇ。
    表向きはともかく、誰も『曹長』のアンタに逆らえなくなっちまった。
    仕方ないからアタシが出ずっぱるしかなかったが・・・アンタ、ギリギリでわざと負けただろう?」

    「・・・何の話だ?あれが俺の実力だ」

    「ふふふ。まあいいさね、アンタには感謝してるんだ。
    アンタが横にいるお陰で、悪い夢を見る回数が本当に減ったのさ・・・」

    名残惜しそうに男の髪から手を離すと女はWBに向き直った。

    「さてさて、獲物の到着だ。恐らくジオンで最後の仕事になる。
    気張ってやろうじゃないか、えぇ!?」


    軽く舌なめずりする女と、その横で不敵に笑う男。
    WBの機影は、もうかなり大きくなっており、既に滑走路に着陸する態勢に入ったようだった。


101 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/06(火) 17:42:21 ID:KjK1o4V/
    迫り来るバイコヌール基地全体から発せられるどす黒い怨念のような圧力を、
    その時アムロは微かに感じ取った。
    ふと横に目をやると、セイラの瞳も不安そうにこちらを向く所だった。

    『セイラさんも何かを感じ取ったのか・・・?いや、女性の勘って奴か』

    直接言葉には出さず、アムロは心の中で一人言ちた。
    確証は何も無いが、嫌な感じだ。あの「ガンダムもどき」の危険な奴とはまた違う、
    べったりと肌に纏わり付くような、悪意。そうか、これは悪意と呼べる程の・・・
    その時、ブリッジに響く軽い衝撃がアムロの思考を打ち消した。

    「ランディングギア接地、確認。各部異常なし。着陸完了しましたぜ」

    クランプの声が響く。
    この数日間で随分WBの扱いに慣れたのが、声に混じる少々の余裕で感じ取れる。
    流石だな、と、アムロは頼もしく思った。

    「ありゃあ、ザンジバル級ですぜ大尉。
    ここに駐留している隊のものみたいですな」

    コズンが窓の外を指し示す。確かにそこにはずんぐりしたシルエットが特徴の
    機動巡洋艦が停泊していた。
    漆黒の船体が鈍く太陽を照り返している。

    「遠路はるばるよぉうこそバイコヌールへ!
    アサクラ大佐の代理司令官シーマ・ガラハウ中佐だ!」

    唐突にモニターに現れた女性は、居丈高 に言い放つと肩をそびやかした。
    アムロはその奔放な言い回しの影に潜んだ剣呑な何かに思わずぞくりとする。
    厳しい顔をして横にやって来たハモンがアムロに何事かを囁いたのはその時だった。

    「!?」

    アムロは思わずセイラを振り仰いだ。
    事情が飲み込めていないセイラは驚いた顔で二人を見返す。

    ガウ攻撃母と輸送機軍はバイコヌール基地からの誘導によって、
    ここから20キロ程離れた第二滑走路に着陸させられた為、その姿は見えない。

    アムロは急に不安になった。

    更に濃くなって行くどす黒い悪意が、まるで吹き付けられる様に
    そちらの方に流れ出して行く様な気がしたからだった。


105 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/06(火) 20:32:39 ID:KjK1o4V/
    「御苦労。まあ寛いどくれ」

    基地司令室に通されたラル隊一行を前にしてシーマ中佐は口を開いた。
    シーマの横には精悍な顔付きの青年兵士がつき従っている。副官なのだろうか。
    それにしては階級章の位がえらく低いなとクランプは胡散臭く思った。

    「貴様らの辞令はこれだ。
    木馬奪取の功績でランバ・ラル大尉は二階級特進でアタシと同じ中佐になった。
    以下、それぞれ一階級ずつの昇進だ。おめでとう」

    にやりと笑ったシーマはラルに辞令の束をバサリと投げよこした。
    数枚の書類が宙を舞い床に落ちる。
    あまりにぞんざいな扱いにラル隊全員が色めき立つが、ラルはそれを手で制する。

    「謹んで拝命する」

    「・・・ふん。面白くないね。青い巨星は伊達じゃないって訳かい」

    鼻を鳴らしたシーマは含み笑いを漏らす青年兵士を睨み付けた。
    シーマと目を合わせた男は我慢できない大声で笑い出した。

    「駄目だ駄目だ姉御。そのテにゃ乗らないってよ」

    「失礼だがジョニー・ライデン殿とお見受けする。
    ワシの顔をお忘れか?」

    手をひらひらさせてシーマをからかう素振りを見せたライデンにラルが声を掛けた。
    唐突に出たトップエースの名前にラル隊がざわめく。
    ライデンは少しだけ真面目な顔に戻すとラルに対して敬礼をして見せた。

    「覚えておりますラル中佐!しかし現在曹長である私に対して
    敬語は不要に存じます!」

    「な、何と・・・!」

    ルウムでの活躍で確か彼は大尉に昇進していた筈だ。
    この僅かな期間で曹長に降格とは、一体彼に何があったというのだろう。


106 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/06(火) 20:33:30 ID:KjK1o4V/
    「階級なんざアタシの部隊には関係ない。今やコイツは私の副官なのさ。
    相応の敬意を払いな?
    コイツに舐めた口を利いたらアタシがタダじゃおかないよ!」

    シーマはライデンにしなだり掛かりながらその場にいるラル隊全員を睨め付け言い放つと、
    一転、うっとりした視線を彼の横顔に注ぎながら小声で付け足した。
    ライデンは微動だにせず、不敵な笑顔も崩れない。

    「そう、アンタを舐めて良いのは、アタシだけなんだからね・・・!」

    完全にそう聞こえてしまったコズンが、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
    いろんな意味で、ここに姫様やメイやアムロが居なくて本当に良かったと心から思う。
    が、そんな悠長な場合ではなかった。

    シーマはライデンから離れると表情を更に厳しい物に引き締めたのだ。

    「さて、本当は今の仕打ちに怒ったお前らが暴発してそれを納める為に
    武力鎮圧・・・ってなシナリオだったんだけどねえ。
    まあ、仕方が無い。順番が狂ったが、鎮圧だけさせて貰うよ!」

    シーマの合図で司令室のドアが全て開き、完全武装したの集団が嵐の様に乱入して来た。
    それは恐ろしく統制の取れた集団であり、全ての銃口がラル隊に向けられている。

    ラル隊は全員両手を挙げ、完全降伏の意を示した。


124 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/07(水) 20:26:55 ID:2ur0WbEw
    シーマからの合図を受けた武装鎮圧隊は時を同じくしてWBにも突入した。
    各班ごとに別れ迅速に各ブロックを制圧して行く。
    まずMSデッキとブリッジがいち早く占拠され、その報告が次々とシーマの元に届く。

    ――だが、人員確保の一報は一向に入って来ていない――

    それがシーマをいらつかせていた。
    着陸から監視させていた部下からはWBから外に出た者は
    目の前のこいつ等以外はいないと報告を受けている。

    つまり、WB内の何処かにいるはずなのだ。WBとMSを連邦から持ち出した≪下手人≫が。

    そしてそいつは連邦からすればジオンに寝返った≪裏切り者≫でもある・・・
    そいつらを捕まえて、更にこちらの株を上げる。それが『交渉相手』のリクエストなのだ。

    「やれやれ。亡命者を一体どこに隠したんだい?
    おまえ等に聞いたってどうせ喋りゃしないだろうから無駄な事は省くが、
    あんまり手間を掛けさすんじゃないよ」

    うんざりした様なシーマの問いに、ラル隊は誰一人答えるものはいない。
    彼らは一箇所に集められ、全員武装解除された後、手錠で拘束されていた。
    コズンがかったるそうに軽口を叩く。

    「あーあ。ちょいと前は俺達があっち側だったんだよなあ。
    こりゃ、因果応報って奴かな?」

    一斉にラル隊全員が苦笑で答える。
    そのざわめきに紛れてハモンがラルに素早く囁いた。

    「あなた」
    「待て。奴の真意がまだ判らん」

    ラルが素早く返す。この二人にはこれで充分だった。
    非常時にはラル隊は何の打ち合わせも無く連携して行動する事ができる。
    各々の分担が決まっているのだ。自分の役割を果たせた事に満足したコズンは

    「勝手に喋るんじゃねえ!」

    と、警備兵に銃架で手荒く殴りつけられても、鼻血を噴出しながら不敵に笑う事ができた。


125 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/07(水) 20:28:35 ID:2ur0WbEw
    「しかしまあ、ブリッジとMSデッキを押さえられたWBは
    飛び立つ事もMSを発進させる事もできなくなってるんだ。
    後は、どこに隠れていようがシラミ潰しに見つけ出し、
    アタシの前に引き摺り出すだけだ!」

    「連邦へ亡命するのだな。取引相手は誰だ」

    威勢良く言い放ったシーマにラルが冷静な声で核心を突く。
    単刀直入なその一言に彼女はグッと押し黙った。

    「ひるむな姉御。
    流石は青い巨星。余計な問答が無いだけに話が早くていい」

    「・・・誰が怯んでるって!?ふざけるんじゃないよ!」

    腕組みした姿勢を崩さないライデンに対してシーマは激昂してみせる。
    が、クランプは冷静にこの二人の中の真の主導権者を見た気がした。

    「ふん。まあ、お前達は昇進直後にヘマやって全員降格される事になるんだ。
    その哀れな身に免じて教えてやるよ」

    「ジーン・コリニーあたりでは無いのですか?」

    迷わず名指ししたハモンに対して
    シーマだけではなく今度はライデンすらもぎょっと眼を剥く事となった。

    「・・・恐れ入ったな。全てお見通しって訳か。
    だがもう遅い。どこに隠れていようが亡命者が見つかるのはもう時間の問題だ。
    そいつが確保されたら俺達は木馬とMSを持って連邦軍に投降する」

    ライデンの言葉にシーマが続ける。

    「後腐れが無い様に、第二滑走路のガウと輸送機隊には連邦の掃討部隊を
    送り込む手筈になってるのさ。
    可哀相だがあいつらには人柱になって貰うよ」

    「むう・・・!」

    ラルは絶句する。予想以上にこの企みは狡猾のようだ。
    しかし、彼の瞳には絶望の色は無い。どころか、
    ラル隊全員がまるで何かに高揚しているかの様にも見える。

    シーマとライデンはその様子に、得体の知れない薄気味悪さを感じていた。


126 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/07(水) 20:30:53 ID:2ur0WbEw
    アムロとセイラ。狭い空間の中に、息を殺した2人がいた。
    バイコヌール基地に着陸する寸前、アムロはハモンに、ここにセイラと共に隠れる様に言われたのだ。
    事が起こった後の、アムロがやるべき行動もラルに指示されている。
    「恐らく抵抗しなければ、我々に手荒な真似はしないはずです」
    確かにハモンはそう言った。今はその言葉を信じ、皆の無事を祈るしか無い。

    アムロはセイラを後ろから抱きすくめる様な体勢になっている。
    セイラの体重と髪の匂いが直接的に生々しく感じられ、不謹慎かも知れないが、
    どうやっても鼓動が早まる自分を抑える事ができなかった。
    彼女のお尻がアムロの腰に押し付けられている格好になっているから、
    「その生理現象」は絶対、セイラにバレている筈だった。

    嫌がられ・・・いや、嫌われてしまっただろうな・・・と
    恐る恐るセイラの表情を後ろから盗み見ようとするのだが、
    彼女は顔をうつむけてしまっており、髪が邪魔して良く見えない。
    何故今回は、セイラと以前共有したと感じた不思議なシンパシーは現れないのだろう?
    何か言わなくちゃとも思うが咽がカラカラで全く声が出せないし、何て言って良いのかも判らない。

    ああもうこんな事ならジオンでも連邦でもいいから早くやって来てくれ!

    そのアムロの声に出せない魂の叫びが通じたのだろう。
    モニターに映るMSデッキ入り口に、武装した兵士がわらわらと現れた。
    銃口をあちこちに向け人がいないのを確認すると隊長らしき人物が通信機を取り出し、
    どこかへMSデッキ確保の報告を入れている。

    どうやら、ラル大尉とハモンさんの予想していた事態が起きてしまった様だ。

    「セイラさん。奴等が来ました。予定通りやりますから
    僕にしっかり掴まっていて下さい!」

    いきなり決然と宣言したアムロにセイラは驚き、火照った顔で振り返った。
    しかし集中力を研ぎ澄ましモニターを凝視しているアムロの眼には
    セイラの少しだけ潤んだ瞳も映ってはいなかった。


127 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/07(水) 20:31:56 ID:2ur0WbEw
    いきなり動き出した≪ガンダム≫に武装した兵士達は仰天した。
    まさかパイロットが既に中におり、しかも発進準備が完了しているなどとは
    考えもしていなかったのである。
    手持ちのマシンガンを散発してみるが、ガンダムの装甲には傷一つ付かない。

    「駄目だ!連邦のMSが逃げるぞ!俺達じゃどうにもならん!姉御に連絡だ!」

    「た、隊長!あれを!まだ動くMSがあります!」

    振り向いた男の目に入ったものは、単眼を輝かせてハンガーから降り立つ
    MS-09ドムとMS-06J陸戦型ザクの巨体だった。


144 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/08(木) 15:36:17 ID:CkkdkpLK
    「何!?木馬のMSが稼動しているだってえ!?」
    「・・・やられたな。この事態をあらかじめ想定していなけりゃ出来ない事だ。
    ランバ・ラル隊、恐るべし、だね」
    一報を受けたシーマとライデンは両極端な温度差の驚きを示した。
    ぎりっと歯を噛み鳴らしたシーマは、部下に手早くMS小隊を発進させて
    ガンダムを追跡するよう命ずる。
    今にも自分が飛び出して行きそうになるのを必死で自制しているのが判る。
    そんなシーマにライデンが向き直った。
    「姉御、俺が出る。あのMSは何としても無傷で手入れなきゃならないからな」
    「頼めるかい?でも無理すんじゃないよ、イザって時にゃ破壊したって構わないからね!」

    あんなMSよりアンタの方が大事なんだ、そんな言外の視線を受けたライデンは
    おどけた様に「了解ッ!」と敬礼してから司令室を後にした。


145 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/08(木) 15:37:31 ID:CkkdkpLK
    WBの格納庫を手動で開き、3体のMSはガンダム、ザク、ドムの順に滑走路に降り立った。
    わらわらと武装した兵士達がその後を追うが、ガンダムの頭部バルカン砲で牽制され近付く事ができない。
    しかしこの一連の動きの中で、武装兵士達の隊長であるコッセルは
    3体の中でザクの動きだけがぎこちなく、何となく足元がおぼつかない事に気が付いた。
    「バズーカを持って来い!あいつならやれるぞ!」
    物陰に隠れ、部下に命じながらもチャンスを伺う視線は決して外さない。
    「無傷で手に入れなきゃならないのは、連邦のMSだけだからな・・・」
    姉御に連絡は入れたから、もうすぐこちらのMSも動き出す筈だ。
    そうすりゃ相手の注意も逸れるだろう、充分歩兵が役に立てる機会はある。
    コッセルの眼が獲物を狙う猛禽類のそれに変わっていた。


150 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/08(木) 18:13:01 ID:CkkdkpLK
    「メイ!早く!もっと急ぐんだ!急いで!」

    バランスが悪く走行スピードが一向に上がらない陸戦型ザクにアムロが焦った声を掛ける。
    MS-06Jを操縦しているのは何とメイ・カーウィンだったのだ。

    「あれっ・・・おかしいな・・・こんな筈じゃ・・・!?」

    メイは額に玉粒の汗を浮かべて必死にレバーやフットペダルを操作するが、
    その拳動は一向に安定しない。オートバランサーのお陰で転ばずに済んでいるものの、
    本来の移動スピードの半分にも満たないその動きに、アムロは気が気ではなかった。

    「私の入手した情報によると、ここの基地司令官シーマは、
    ジオン兵でありながら軍を憎む思想の持ち主です。
    不確定ですが、連邦の高官と繋がりがあるとの情報もあります。
    このWBとMSを掌中にしたら、何か良からぬ事を・・・企みかねない女でしょう」

    あの時ハモンに言われた言葉が思い出される。

    「形式的に我々は彼女に会う為に出向かなければなりませんが、
    アムロ、あなたにはどんな事があっても姫様をお守りする役を命じます」

    ハモンはその後アムロにガンダムにセイラと同乗する事を指示し、
    WBに搬入されていたドムにはオルテガを、
    実際の操縦経験は無いもののMSに精通しており「操縦できる」と豪語したメイには
    MS-06Jに搭乗させてMSデッキでコックピットカバーを閉じた状態で
    待機させていたのだ。
    もちろんいつでも稼動できる準備を整えたままで、である。

    「もしMSデッキに≪賊≫が侵入して来た時は、非常事態が発生したという事です。
    その場合は直ちにMSを起動させそのまま第二滑走路に向かい、
    速やかにダグラス大佐の部隊と合流なさい。
    あちらにはガイア大尉達もいます。臨機応変に事態に対応して下さる事でしょう」

    その時のアムロの、
    そんな事をしたらラル隊の皆やハモンさんはどうなるんですという問いに対して彼女は

    「勝算はあります。あなたが心配せずとも宜しい」

    とだけ答えてアムロからの質問を一方的に打ち切ってしまった。
    そして、アムロだけに聞こえる声でこう付け加えたのである。

    「もしもの時には・・・動きの鈍いザクをおとりにしてお逃げなさい」

    ・・・と。
    それを聞いて激昂しそうになったアムロを制してハモンは

    「あくまでも『もしも』の時の話です。
    そのくらいの覚悟を持って姫様をお守りなさいという事です」

    と、さらりと流してしまった。
    アムロは、モニターに映るザクのふらふらした動きを見るたびに
    ハモンの不吉なセリフが頭に浮かびそうになるのを必死で打ち消していた。


174 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/09(金) 17:02:18 ID:JdrfSMGD
    基地格納庫から6機のMSが次々と現れた。
    全てMS-06ザクである。モニターで全機の機種名を確認したアムロは
    「ホバー付き」の機体が無い事に少しだけ胸を撫で下ろした。
    あの装備の平地での有効性を、自らMS-07Hを操縦した事で改めて思い知っていたのだ。
    通常歩行しかできないザクが相手ならば、いきなり相対距離を詰められる事はありえないだろう。
    しかし・・・

    「ああっ!?」

    メイが小さく悲鳴を上げる。
    最初からおぼつかない足取りだったメイの操縦するザクは、
    何度かのたたらを踏んだかと思うと、よろけるように立ち止まってしまった。

    「どうして・・・!」

    メイの瞳に悔し涙が浮かぶ。
    幼少の頃からMSに接し、誰よりも知識が豊富だと自負していた。
    パイロットとしての資格は無くとも、MSを操縦してのガレージ間の移動などは
    何の問題も無くこなせていたのに。

    背後から武器を持った「敵」が追い駆けてくる

    そう思っただけで、身がすくみ、通常なら出来ていた筈の簡単な操作すらまともに行う事ができない。
    怖い、怖い、助けて。頭に浮かぶのはその言葉ばかり。
    冷静になろうとすればする程、操作の手順を間違えてしまう・・・

    「立ち止まるな!歩くんだ!歩け!」

    オルテガのドムがザクの腕を掴み、揺さぶった。
    檄を飛ばしながらも、オルテガは6機のザクとの相対距離を測っている。
    射程距離まであと少ししかない、それを過ぎれば敵は一斉に攻撃して来るだろう。

    『まずいな・・・敵の数が多すぎる。メイのザクを守りながらでは、ドムの
    機動性は殺される。狙い撃ちだ。
    一斉攻撃を受ければいくら装甲の厚いドムといえど・・・』

    オルテガの心の中の葛藤を見透かした様にメイが涙声で叫んだ。

    「私に構わず行って下さい!早くダグラス大佐達と合流を!」

    「馬鹿野朗!そんな事が出来るか!・・・アムロ!」

    メイを叱り付けたオルテガは、振り向きざまにアムロに声を掛ける。
    既に敵の2機のザクがこちらに向けてマシンガンを乱射し始めていた。

    「メイは俺が引き受ける。お前はこのまま第二滑走路に急げ!」

    「何ですって!?」

    アムロはハモンの言っていた最悪の状況になりつつある現実に歯噛みした。


293 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/11(日) 02:07:14 ID:???
    ――アムロはぎゅっと眼を瞑った。
    もしやハモンはこうなる様に最初から状況を構築していたのでは・・・と、アムロは戦慄する。
    まともな操縦経験が無いメイを、機動力の劣るザクに敢えて乗せ、
    アムロとセイラの乗ったガンダムを逃がす「捨て石」とする。
    メイを見捨てるはずの無いオルテガのドムを一行に随伴させ、
    これも「捨て石」としてガンダムが逃げる為の時間を稼がせる・・・

    全ては、どんな犠牲を払おうと「アムロとセイラを逃がす」という
    最優先事項遂行の為の冷徹な作戦だったのではなかったか。

    ハモンさんが悪い訳ではない。彼女は最善と思われる手を打っただけの事なのだろうとアムロは思う。
    戦場では甘っちょろい理想論など通用しない事など、もう判っている。
    そして、兵士というものは、任務遂行を何より優先しなくてはいけない事も知っている。

    ――でも

    アムロは強烈に自覚する。この絶望的な状況を打破し、
    運命を切り開きたいと渇望する自分がいる事を。

    『自惚れるなと言った筈だ!』

    ラルに言われた言葉が思い出される。
    アムロは目を閉じたまま首を振り、冷静になろうと勤めた。

    もし自分が無謀な行動を取れば、一緒にいるセイラを危険に晒す事になる。
    ハモンがお膳立ててくれた「最優先事項の遂行」を放棄する事になる。それでは本末転倒だ。
    やはりここはオルテガに任せ、メイを見捨ててセイラを連れて離脱するのが最善なのだろうか・・・


    ――アムロは決然と眼を見開いた。


    もうその瞳には迷いによる曇りは微塵も見出す事ができない。
    アムロが猛然とフットペダルを踏み込むと、ガンダムはそれに答え軽々とその機体を飛翔させてみせた。

294 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/11(日) 02:12:03 ID:???
    いきなりバーニアジャンプでドムを飛び越し、
    シールドを構え敵の目前に降り立ったガンダムにオルテガは仰天した。

    「アムロ!この馬鹿野朗が!先に逃げろと言った筈だ!」

    「敵の狙いはガンダムです!僕が奴等を引き付けますから中尉はメイをフォローしながら
    第二滑走路に向かって下さい!」

    「それは俺の役目だ!出しゃばるんじゃねえ!」

    「中尉!そのMSの方がガンダムよりパワーがありそうです。
    不安定なメイのザクをサポートするならそちらの方が都合が良い!
    敵をある程度撹乱したら僕も離脱します!ガンダムが本気を出せばザク程度では
    絶対に追いつけませんから!
    僕ら『全員が生き残る』為にはこれが最善の方法なんです!」

    「ぐ・・・」

    最悪自分一人の犠牲でと考えていたオルテガが絶句する。
    モニターにはそろそろ届き始めた敵のマシンガンの弾丸をじりじりと後退しながら
    シールドで弾き返すガンダムが映っている。
    もう一刻の猶予も無い。議論している余裕は無くなってしまったのだ。

    「アムロ!これを使え!」

    オルテガは、自らのドムの背部ラックに装備されていたヒートサーベルをガンダムに投げ渡した。
    アムロはモニター越しに、ガンダムが初めて手にするそれを細部まで確認する。

    「お前なら使いこなせるだろう!グリップの所にスイッチがある!切れ味を高めたい時は押し込め!
    俺が特注した特別製だ!そいつは、切・れ・る・ぜぇ!?」

    歯を剥き出して笑うオルテガにアムロは親指を立てて答えた。

    「ありがたい!
    ガンダムのエネルギーを温存する事ができます!」

    何しろ相手は6機。用心に越した事は無いのだ。
    その相手はもうすぐそこまで迫っている。シールドに当たる弾丸が明らかに増えて来ているのでそれと判る。

    「メイ!走れるか!?」
    「済みませんでした!もう大丈夫です!」

    ようやくパニックを脱したメイが、今度は慎重にザクを操縦している。
    オルテガのドムはザクの真後ろに付き、バズーカを構え、
    ホバーを稼動させてバック走行させながら敵の動きを牽制しつつ、離脱を始めた。
    その様子をバックモニターで確認しながらアムロは、腕の中のセイラに語り掛けた。

    「・・・セイラさん。僕はあなたに謝らなきゃいけない」

    思わず眼を伏せようとしたその時、セイラがずっと自分を見つめていた事にアムロは気が付いた。
    戸惑うように視線を合わせると、彼女は穏やかに微笑み答えた。

    「どうして?あなたが守って下さるのでしょう?」

    驚き、思わず「え?」と聞き返してしまったアムロに
    セイラは自信たっぷりにこう宣言したのだ。

    「大丈夫。あなたならできるわ」と・・・


355 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/11(日) 22:04:43 ID:???
    「何だいあのMSは!!6機のザクに立ち向かうつもりかい!?・・・舐めやがって!」

    シーマがぎりりと歯を噛み鳴らす音が聞こえる。
    彼女の視線の先には基地司令室の大型モニターがある。
    そこにはドムとザクを逃がし、たった1機で6機のザクと対峙するガンダムが映し出されていた。

    「あの子ったら・・・」

    額を押さえながら俯いたハモンはそれでも苦笑している。
    ラルもそんな彼女を横目で見やり、愉快そうに口元を歪める。

    「これは懲罰ものだな!だが・・・」

    「はい。あなたの言われた通りになってしまいましたわね」

    肩をすくめながらハモンは溜息をつく。
    ハモンの言い渡した作戦を恐らくアムロは蹴るだろう、と、あらかじめラルは予想していたのだ。
    2人のやりとりを知っているアコースとクランプは思わず顔を見合わせて吹き出した。
    一方コズンは、視線をモニターから外さない。完全に釘付けになっている。

    「やってみせろアムロ、お前の力をもう一度俺達に見せ付けてみろ・・・!」

    思わず拳を握り締めたクランプの口から呟きが漏れる。
    WBを制圧した時のガンダムの動きは、今でもラル隊全員の眼に焼き付いて離れないのだった。

    その時、シーマがマイクを引っ掴み、怒鳴り込む声が司令室を震わせた。
    舐められたらこの世界は終わりだ。
    常日頃からそう考えている矜持の塊りの様な女性からまるで蒼白いカゲロウが
    立ち上っているように見えた。

    「ライデン!アタシ達は舐められたんだ!!命令変更だ!
    あの白いMSを全力攻撃!必ず撃破するんだ!いいね!」

    ライデンはそのシーマのがなり声をMSハンガーで聞いていた。

    「発進準備は整ってる。だがちょっと待ちな姉御。
    まずは奴のお手並みを拝見と行こうじゃないか」

    ライデンの鋭利な視線はモニター越しにガンダムに注がれている。
    その時アムロは――
    目の前の6機のザクとは別に、自分をどこかから見つめている、
    まだ見ぬ強敵の匂いを感じ取った気がしてぞくりと身を震わせた。


497 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/13(火) 00:08:37 ID:poRCvMdX
    セイラは今、アムロの膝の上で横抱きの状態になり、アムロの胸に顔を預け眼を閉じている。
    その表情はあくまでも穏やかであり、不安など微塵も感じていないのが判る。
    口先だけではなく、完全に自分を信じて全てを委ねてくれた姿だった。

    やはりこの人は美しいと、その横顔を見てアムロの胸は愛おしさに熱くなってゆく。
    それと同時に、普段以上に自分の感覚が砥ぎ澄まされて行くのを感じていた。
    自らの目は確かにさっきまでと同じ様にメインモニターを介して外の状況を見ている。

    しかし、まるでガンダムの装甲を≪透かして≫外が見えている感じがする。
    視覚領域が広がってゆく様な気がするのだ。

    刹那、そのアムロの感覚は、目前の6体のザクではなく、
    ザクのやや後方に位置する一台のエレカに注目した。
    更に意識を集中させると、その荷台に人がおり、小型ミサイルバズーカを構えているのが判った。
    しかし何故かその砲口はガンダムに向いてはいない。

    アムロは戦慄した。

    狙われているのは、ガンダムでは無く、今ガンダムの背後を懸命に退避歩行している
    メイのザクだという事に・・・!

    アムロは迷い無くガンダムの左手で構えていたシールドを勢い良く地面に向けて急角度で投擲する。
    シールドはまるで弾丸の様に宙を飛び、ガンダムからやや離れた滑走路の路面を削りながら
    深々と斜めにめり込み突き立った。

    そして次の瞬間、今まさに発射された小型ミサイルがその急造の壁に命中し炸裂したのだった。


    「な・・・何だと!?」

    いきなり飛んで来たシールドに自分の放ったミサイルの弾道を妨害されたコッセルは仰天した。
    思わずガンダムを振り仰ぐと、白いMSのギラリと光る相貌と眼が合ってしまった。
    冷水を浴びせられたかの様にコッセルの体が総毛立つ。

    「ひ、引け!退却だ!!」

    運転席の兵士に声を掛けるとエレカは大慌てでUターンし、
    その場を急スピードで離脱してゆく。

    「冗談じゃねえぞ・・・何だあいつは・・・・」

    コッセルの震える声は、エレカを運転する兵士に届き、
    同様に戦慄を感じていた彼は、一刻も早くこの場から離れようと
    更に強くアクセルを踏み込むのだった。


549 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/13(火) 23:06:29 ID:poRCvMdX
    シールドを自ら手放した瞬間、既にアムロはガンダムを次の行動に移行させていた。
    MS-07Hを操縦した事で、アムロにはあるMS機動のアイディアが閃いていたのだ。
    プロトタイプ特有の強力な推進力を持つガンダムなら、それは可能な筈だった。

    「セイラさん。顎を引いていて下さい。舌も噛まない様に気をつけて!」

    微かに頷くセイラの気配を感じたアムロは、思い切り体勢を低くさせたガンダムを「真左横」に跳躍させた。
    地面からガンダムの右足が離れた瞬間にランドセルのバーニアを一気に吹かし、
    そのまま十数メートルの距離を地面と平行に滑空する様に移動する。
    そしてガンダムの体が着地する前に左足で強引に地面を蹴りつけると同時にバーニアの角度を変え、
    体を捻りながら同じ要領で「真正面」に再度滑空ジャンプする事でガンダムは、
    一瞬のうちに密集隊形を取っていた6機のザクの真後ろを取って見せた。

    それはバーニアジャンプを超低空で行なう、まるで擬似ホバー移動とでも呼べる様な動き。
    まさにアムロの思惑通り、の機動だった。

    ザクのパイロットのうち、このガンダムの疾風の様な一瞬の動きに対応できた者は唯の一人もいなかった。
    恐らく目の前で何が起こったかすら判ってはいない事だろう。
    今の今までガンダムに無慈悲な銃弾を浴びせ掛けていた筈のザク6体は、
    次の瞬間には、全機ガンダムに無防備な背中を晒している格好となった。

    ガンダムはオルテガのドムから借り受けた特別あつらえのヒートサーベルを軽く振り下ろし、
    勢いをそのままにザクに向かって踏み込んで行く。
    重さがいい。こいつはガンダムの手に馴染む。いけそうだ。
    既に蒼白く発光しているそれは、まるで「獲物」を渇望しているかのごとく殺気を放っている。

    今のアムロには一分の油断も無い。

    先の戦闘ではそれで「ガンダムもどき」に痛い目を見せられた。
    もう同じ轍を踏む訳には行かない。
    最後方のザクのモノアイがこちらを振り向くのがアムロの眼にはまるでスローモーションの様に見えた。

    「斬り込む!」

    自らを鼓舞するアムロの気合と共に、ガンダムは嵐の様にザクの群れに襲い掛かった。


604 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/14(水) 15:54:16 ID:prC8fhJN
    「・・・こいつはまいったね」

    ガンダムの動きをモニターで凝視していたライデンは、口惜しそうに苦笑した。
    そのテクニックは割とあら削りではあったが、地上でMSにあんな動きをさせる奴は
    『他にいない』と思っていたのだ。
    モニターの中では、ガンダムに至近距離まで接近された2小隊6機のザクが
    思うさま蹂躙されている。
    なまじ密集隊形を取っていただけに迂闊にマシンガンを撃つ事ができず
    ヒートホークを構える間も無く次々と切り伏せられてゆく。
    ガンダムはあえてコックピットと動力部を避けてヒートサーベルによる斬撃を振るっている様に見える。
    そこにはある種の余裕すら感じられ、それがまたライデンの癇に障るのだった。

    「予定が早まっちまったが、出るぞ!」

    格納庫の薄暗闇の中に、エンジンの音が高らかに鳴り響き
    雄々しく、そして静かな闘志を秘めたモノアイが輝いた。


605 :1 ◆Zxk1AsrDG6 :2009/01/14(水) 15:55:05 ID:prC8fhJN
    その時、アムロの脳裏に電光が奔る。

    それは5体目のザクのマニュピレーターを、握ったマシンガンごと切り落とした瞬間の事だった。
    思わずガンダムの顔をその方向に振り向ける。

    真紅のザクがゆっくりと格納庫からその姿を現す。

    『赤いザクだって!まさかシャア!?』

    ・・・だが瞬時にいや違うとアムロは思い直した。
    シャアからは何時も感じられていた淀んだ闇のような感覚があの赤いMSからは抜け落ちているのだ。
    確かにシャアではない、が、ひりついた感覚が相手が只者ではない事を物語っている。
    シャアに匹敵する強敵であろう事は間違い無いと思える。
    アムロは油断無く、残ったザクに視線を残しながら距離を取り
    ヒートサーベルを構え直した。

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最終更新:2009年01月15日 01:30
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