第2話「ジオンの姫」


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地平の彼方から轟音を響かせて飛来する3機の巨大爆撃空母ガウ。ガウに付き従う数え切れない程のドップ編隊、MSを満載した輸送機。
それ等全てが地に伏すWBのものに、続々と集結してゆく。
物々しい喧騒の中、アムロを加えたラル隊が、捕虜としてサイド3に送られる予定のWBクルーと対面していた。

「アムロッ! 貴様のせいでリュウは! リュウは死んだんだぞッ!!」
「おっと! 大人しくしてな!」

後ろ手を拘束されているにも関わらず、アムロに迫らんとしたブライトだったが、マシンガンを手にしたアコースに乱暴に引き戻された拍子に後方の壁に背中を激しく打ちつけ、床に腰を付ける羽目となった。
それでも顔を上げたブライトは、異様なまでに澄んだ瞳の色を湛えるアムロの瞳を見て慄然とした。

(こいつは、俺の知っているアムロなのか!? 今迄の奴ならこんな時、オロオロ狼狽えながら自分を見失っていた筈なのに…!)
「ブライトさん」

静かなアムロの声に、ブライトは我に返った。

「僕は、自分の運命を自分で決めて…その結果を全部背負う事に決めました。後悔はしていません」
「何…だと…」
「…連れて行け」

虚脱したブライトはアコースに連行されて行く。アムロの顔を呆けた様に見つめ続けながら……。
それを見届けたラルは、残りのWBクルーに向き直る。

「さて諸君。我々はこの艦を接収する。だが正直手が足りんのだ。 君達は殆どが、成り行きでこの艦に乗り合わせたと聞いている。連邦に義理が無い者もいるだろう?」

WBのクルー達はそれぞれの表情でラルの言葉を聞いている

「単刀直入に言おう。この艦を運用する為に我々に協力して貰いたい。それなりの階級と待遇を用意する」

くぐもったどよめき声が立ち込める。

「勿論強制はしない。だがその場合は南極条約に法り…捕虜としてジオン本国に送られる事になるがね。好きな方を選びたまえ」

額と首に包帯を巻かれたカイが口を開く。

「暫く考えさせてもらえねえかな?」
「駄目だ。今、この場で選択するんだ」

強い口調で即答したラルに、カイは押し黙った。

「何考えてんです! 相手はジオンなんですよ?」
「うるせえな、黙ってろハヤト」

薄く笑いながらラルを見ているカイは、クランプに顎で指示されたコズンが自分の横に静かに移動して来た事に気が付いていない。

「では聞こう。我々に協力しても良いと思う者は、前に出て貰いたい」

無言の一同。
それぞれの表情に明らかな逡巡が見られるが、前に出る者は1人もいないかと思われたその時――。

「退いて下さる?」

今迄頑なまでに言葉を発せず、俯いた姿勢を崩さず、表情をラルに見せていなかった金髪の女性――セイラ・マスが顔を上げ、他者の陰からするりと抜け出すと背筋を伸ばした姿勢でラルの前に立った。

「セイラさん!?」

信じられないものを見た様に、ハヤト達WBクルー一同がどよめいた。

「むっ!? ま、まさか…!」

目の前の美しい女性にラルの眼が驚愕と共に見開かれてゆく。
普段では見られないラルの狼狽ぶりをアムロは意外に感じていた。
眼を転じると、他のラル隊の面々もポカンとした顔つきでラルを見ている。

「貴女はもしや、アルテイシア様!? お忘れですか! ジンバ・ラルの息子、ランバ・ラルにございます!!」
「大尉、この場でその名前は無用です。手をお上げ下さい」

片膝をつき拝礼の姿勢をとったラルは、ハッと気付いた様に立ち上がると、横に控えたクランプにセイラの拘束を解く様に命じた。

「セイラさんが行くのか、ニャヒヒ、そんじゃ俺も…」

軽口を叩きながら前に出ようとしたカイだったが、横から強烈に突き入れられたコズンの鉄拳が鳩尾にめり込み、悶絶しながらその場に蹲る事となった。

「大尉! 捕虜の中に体調を崩した者がいます! 救護室に運んどきますぜ!!」

のんびりした口調のコズンにクランプが返す。

「ご苦労! 手当てが済んだらそいつはそのまま捕虜として本国に送れよ!!」

ニヤリと笑ったコズンが嬉々として答える。

「了解であります!」

襟首を掴まれて引き摺られて行くカイの耳にコズンが囁いた。

「テメエみたいな奴は、ラル隊にはいらねえんだよ!」
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結局、セイラの他には1人としてラルに協力する意志を示した者はいなかった。

「貴女には、是非一緒に来て貰いたかったのだけれど」

悲しげな顔でセイラに声を掛けられた女性――ミライ・ヤシマは、やはり悲しげな笑顔で答えた。

「私は故郷に家族と親戚がいるもの。私の行動で迷惑を掛ける訳にはいかないわ。他の皆もそう思っている筈よ」
「ごめんなさい…」

軽く俯き、小さな声で肩を震わせるセイラ。
ミライは、後ろ手を拘束されたままゆっくり近付くと、セイラの肩に軽く額を預けて小声で囁いた。

「何か事情があるのね。私には何も出来ないけれど、上手く行く事を祈っているわ。それから、アムロを宜しくね」
「!?」

顔を離したミライを、驚いた表情のセイラが見つめる。

「それじゃあね」

セイラに親愛の笑顔を残し、ミライは連行されて行く。
彼女の姿は、やがてWBクルーの列に加わり、見えなくなった。
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一同とは少し離れた場所で、アムロとフラウは対面していた。

「…君も行ってしまうのか」

先に声を掛けたのはアムロだった。

「子供達がいるもの。私が付いててあげなくちゃ」

悲しそうに笑いながらフラウが答える。

「そうか…そうだよな…」

間接的にせよ、リュウを殺した自分を、カツ、レツ、キッカは決して許さないだろうとアムロには思えた。

「こら! しっかりしなさいよアムロ!」

フラウの両方の掌で強引に顔を挟まれ正面を向かされたアムロは、涙を流しながら怒っている表情のフラウに驚いた。

「貴方は自分のやった事に後悔しないって言ったんでしょう? そんな顔してちゃダメじゃない!」
(ああ……フラウに怒られるのはこれで何度目なんだろう)

何時も悪いのは自分だった。
だが、フラウはどんな時も最後には優しく許してくれた。

「(今だって自分の身より僕の事を心配してくれている。そんな彼女に僕は何を――)…!」

突然のキスに、アムロの思考は中断された。
ほんの一瞬だったが、2人は硬く抱き合い、その間、世界は2人の他には何も存在しない様だった。
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アムロとセイラ、そしてラル隊の面々はWBのブリッジに集まった。
ブライト達を乗せたと思われる輸送機が今、飛び立って行く。
それをブリッジの窓から見ながら、アムロはあれは何処に向かうのだろうとぼんやり考えていた。
しかし、ラルが語るセイラの素性が、アムロの思考を現実に引き戻していった。

「何ですって!? この方は、あのジオン・ダイクンの娘さんなんですかい!?」

クランプの驚きはラルとセイラを除く、その場全員の驚きだった。

「アルテイシア様とその兄上のキャスバル様はわしの父、ジンバ・ラルと共に地球に逃れて暫く過ごした事があるのだ。 最も、キャスバル様はすぐに家を出て行かれ、行方不明となってしまわれたが…」
「それにしても姫様、良くぞご無事で…」

ラルの言葉を継いだハモンの言葉に、セイラは顔をほんのり赤らめた。

「姫様なんてやめて下さい。私は今はセイラ・マスなのですから」
「いいや! あんたは俺達の姫様だ! 大尉、そう呼んで構いませんよね!?」

コズンの声にラルが重々しく、しかし、満更でも無さそうに答える

「…許可する」

拍手と歓声がWBのブリッジに響き渡った
事情が良く飲み込めていないアムロだったが、一同の放つ歓喜のエネルギーに圧倒されると同時に、輪の中心ではにかむ金髪の女性にこれまでには見られなかった輝きと言える様なもの…が顕現している様に感じられてならなかった。

「何ですと!? キャスバル様が生きていると言われるのですか!」
「兄は今、ジオンで…赤い彗星と呼ばれています」

オォッというどよめきとそれを上回る衝撃がブリッジを席巻した。

「何という事だ…御屋形様のご子息が2人共御健在だったとは…!」

浮き立つラルの横でハモンが冷静に言葉を継いだ。

「貴方。 若様は、ゆくゆくはザビ家を内部から突き崩すのが目的なのでは? そしてお父上と母君の無念を晴らそうとお考えなのでは無いでしょうか?」
「何と…!」

雷に打たれた様に、ラルは感慨する。
その胸には、これまでの自身の苦境がありありと蘇っていた。
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暫く俯いていたラルは、顔を上げると決然とした表情で言い放った

「諸君、暗闇で蠢いているしかなかった我々の前に、光が見えたぞ! 道標は示された! まず我等は態勢を固め、キャスバル様を迎える準備を整えるのだ!!」
「それと、この子の立場には一工夫必要でしょう、貴方?」

ハモンはそう言って、アムロを示す。

「…そうだな。ザビ家の寵愛を受けるガルマ様を討ち取った憎き木馬の、しかもガンダムのパイロットだからな…」
「ザビ家は殆ど独裁国家…このままではこの子の命は風前の灯です」

苛烈なザビ家のやり方は身に染みているラルである。  
傍らのアムロはごくりと唾を飲み込んだ。

「ここは先の制圧時に犠牲となった唯一人のあの軍人に身代わりとなって貰いましょう」
「リュウさんに?」
「身代わりだと?」
「ガンダムの正規パイロットだったのは『彼』だったと上には報告するのです。どう考えても状況的にもその方が自然でしょう? まさか、正規軍人を差し置いて…戦闘訓練をした事が無い民間人の、しかも少年がガンダムを乗りこなしていた等と…ふふ、そちらの方が非現実的な報告ですわ」
「な、成程!」

納得した様に、ラルは言う。

「アムロ。 貴方、メカニックの真似事は出来る?」
「は、はい、得意です!」
「結構。貴方は手が足りない木馬の軍人にメカニック助手として不当に拘束されていた事にします。 その扱いに不満を持っていたこの子は、軍人の隙を見てガンダムを奪い、命懸けでジオンに亡命した…。 これはジオン国民にとって賞賛に値する行為でしょう。何せこの子は、『WBに拘束させられていただけでこれまでの戦闘には一切参加していない』のですから」

アムロは目を見張った。

(自分の過去が書き換えられて行く)
「勿論、木馬を手に入れたのは我々ラル隊の功績とします。 WBのクルー達は尋問でガンダムのパイロットはこの子だったと証言するでしょうが…」

ハモンの言葉の真意を悟ったラルが、ニヤリと笑う。

「それは、全員で示し合わせた『アムロ憎し』の証言だと判断されるだろうな」
「『この子はこれからラル隊に入り、パイロット見習いとして働いて貰う事になりました』と上に報告すれば、特にお咎めは無いでしょう。真正面からで無ければ抜け道は色々見つかるものです」

ハモンは妖艶に微笑しながら、一同を見渡したのだった。
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