パメラは今、恋をしている。彼のことを想うだけでパメラの小さな胸は苦しくなり、また、その苦しさが心地よくもあった。
 ただ、見ているだけで良かった。男にしては可愛いすぎる笑顔で、毎日パンを配達している姿を遠くから見る、それだけで満足だった。
 しかし、パメラは見てしまった。彼がエリーの家から出てくるところを。別れ際にエリーに抱きつかれていたのを。そして、そのことに満更でもなさそうな彼の姿を。
 パメラは泣いた。こんなにも泣いたのは人生で初めてじゃないかと思う程。
 翌日、パメラは熱をだした。
 まさか自分がこんな状態に陥るとは。まるで、可憐な乙女の様に恋をして、失恋し、ボロボロになっている。
 パメラは自分で自分を笑おうとしたが、それすらままならなかった。
 もう何もしたくない。生きる気力もない。
 パメラはゆっくりと眼を閉じると、やがて眠りに墜ちていった。



 誰かが頭を撫でているのに気が付いた。パメラは自分の気持ちがすごく落ち着いているのを感じた。
 ずっとこうしてて欲しい。
 何故か目を醒ますのをもったいなく感じて、パメラはそのままでいた。
 すると、男の声がした。
「パメラ、もしかして起きてる?」
 その声を聞いてパメラは飛び起きた。
「テ、テメェ!何してやがる!勝手に部屋ん中入ってくんなっつったろ!」
「ごめんよ。でも心配だったから」
 目の前の男はオドオドしながらもそう言った。
 この男はパメラの家の隣に住んでいる、いわゆる幼馴染みというやつだ。パメラよりいくつか年上のはずだが、なんとも頼りない男で、パメラはよくイライラさせられていた。
「何か食べたかい。良かったら、パメラの好きなパン屋さんのパンを買ってきたから――」

バシン!

差し出されたパン入りの紙袋をパメラは叩き落とした。
「余計なことすんなッ!出てけ!」
 幼馴染みの男は紙袋から出て床に転がってしまったメロンパンを静かに見つめていた。そして、ポツリと呟いた。
「失恋、した?」
 パメラは息を呑んだ。
 その様子を見た幼馴染みはおたおたしながらも早口で巻くし立てた。
「気にすることないよ。パメラの良いとこは僕たくさん知ってるよ。性格きつそうに見えて実際は優しいとか、実は家庭的だとか、本当は少女趣味だけど、恥ずかしがってそれを隠してる可愛いとことか。僕はそんなパメラが好――」

「いつから」
「え」
「なんでわかった」
「あぁ。そのことか。見てればわかるよ。パメラ、ここのパン見る時、すごく可愛い顔するから」
 幼馴染みはメロンパンを拾いあげ、パメラに手渡した。
「あの人、かっこいいもんね。背も高いし。パメラが惚れるのも無理ないと思う」
「は?背が高い?」
「僕もウィルトスさんみたいな人になりたかったなぁ…」
 パメラはそれを聞くと何故か無性に腹がたってきた。
 拳を大きく振りかぶるとおもいっきり男をぶん殴った。
「い、痛い!」
「っせぇ!こんタコ!ちげーよ!勘違いすんな!」
 パメラは男を引きずって家の外へと蹴りだした。
 ドアの向こうから何か言っているのが聞こえる。しかし、パメラは気にもしない。
「ありがとう。お前のおかげで元気が出たよ」
 パメラの顔は微笑んでいた。              

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最終更新:2007年10月08日 02:25