シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

妖(あやかし)と獅子たちの伝奇の世 -第3話-

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 新しい生活のにおいがする。友人たちが事前にいろいろと用意してくれたおかげで、住まいを確保することができたからだ。

 ちなみに、役所にいってジュウミンヒョウを取らなければいけないらしい。後で役所関係の書類が必要になったとき、もらえなくなる

らしい。

 「あ~ぁ、よくねた……」

 昼時近くにようやく起きてきた弟。少しだるそうである。とはいえ、昨日ばかりは寝袋を使わざるをえなかったので仕方がない。

 「おはようユキ。ご飯どうする?」

 「ん~、すぐ食べるよ。すぐでかけるっしょ?」

 「せめて布団ぐらい買わないとね」

 「みーつぅー。背中いたいし」

 同感だ。私も少し痛いから。

 軽めの食事を作って食べ、私たちは区役所に行った。

 必要な書類の次は、新しい住まいの、3LDKの家から約20分ぐらいだろうか。安くて質もよいと有名な家具屋さんがある。7階建て

のビル一棟全部が家具屋だったので、有名な家具屋かと思ったが、実はここ1店舗だけらしい。

 たしかに、値段は良心的だし、布団のふかふか感も個人的に好みだ。従業員の雰囲気もよいんじゃないかと思う。

 「ねーちゃん、布団と折りたたみベッド、どっちにする?」

 「布団にしようかと思うんだけど。折りたたみベッドもいいわね」

 「けっこう種類あるよ」

 と、弟と私はすぐ隣にあった折りたたみベッドコーナーに歩いていく。言われたとおり大きさや素材など、さまざまな種類があった。

 向かいの通路には、大型ベッドが、ある。

 「これがいいかなー」

 「大きすぎない?」

 「オレのじゃないって。なるちゃんのだよ」

 「ああなるほど。うーん、本人に選んでもらったほうがいいんじゃないの」

 そうそう、実はもう1人一緒に暮らす人がいるの。名前は藜御 鳴海(あかざみ なるみ)、年齢は21で、私たちの兄的存在の人な

のよ。母親がだした条件のひとつだと聞いているわ。

 「やっぱそうしたほーがいいかぁ」

 「好みもあるだろうし、場所だけ伝えておけばいいんじゃない」

 「んじゃそうする」

 ひととおり見た後、結局私も折りたたみベッドにした。掃除のとき、どかせるし楽できるだろうから。

 当日の15時までで、市内配送なら当日まで届けることができるサービスを活用し、支払いを終えた後、私たちは喫茶店に入った。

ユキのおなかが食べ物を求めたらしい。

 「決めた?」

 「イチゴパフェにするっ」

 「大きいほうでいいのね?」

 「もちっ」

 顔の周りに花びらでも咲いたかのような表情でいう弟。私は呆れながらも注文をお願いした。まったく成長期の胃袋は恐ろしい。数

時間前に食べたことを忘れてるんじゃないのか、と疑問に思う。

 「ところでねーちゃん、回りに何かいるの」

 「何で?」

 「視線。ここに何かいるとは思えないんだけど」

 さすがは我が弟、洞察力は並大抵じゃないみたいだ。もっとも、環境のせいでそうなった、としか言いようがないが。

 「何か、というより、監視されているような気がして」

 「ふうん? クセじゃないよね」

 「違うわね」

 そうこうしているうちに、イチゴパフェと紅茶がやってきた。ものすごくチャラいウェイターが持ってきたが、受け渡しはすごく丁寧な

のが印象的だ。最後に会釈と笑顔があったからだろう。

 「うわー、あんな茶髪の人でもバイトできるんだっ」

 「お店によるんじゃないの」

 「そりゃ助かる。んま、オレ地毛だからカンケーないもんねー」

 それもお店によると思うけど。まあ不自然な茶髪でもないしね、あんたのは。

 弟が食べ終わったのを確認し、再度飲み物を頼んだとき、ふと外を見てみた。ガラス越しにある風景は、昔ながらの水路と現代の

建物が同時に映っている。

 反射によって店内の人が視界に入るのはよいとして、それでも一部、ごく一部だけ周囲とは印象が違う何かがいた。目を凝らすと、

和服を着ている。友人たちとは違う、もっと後の時代の和服だろうか。

 思い違いかな、あの目には殺意を感じる。赤い瞳は、私をにらみつけているような気がしてならない。それとも、霧生ヶ谷だから、そ

う考えてしまうのか。

 「ちゃん、ねーちゃんってば」

 ふと意識が戻り、声のしたほうへと向きなおる。ユキは不思議そうな顔をして外に目をやると、すぐ元に戻し、飲み物来たよ、と促し

た。

 いつの間にか若干の冷や汗をかいていた私は、アイスティーを飲み干し、店をでた。

 太陽の色がオレンジ色に染まった時間帯になった。近くのスーパーで買い物をしていると、携帯電話が騒ぎだす。ディスプレイには

『春夏冬 瞬』とでている。ちなみに、読みかたは『あきなし しゅん』である。

 「もしもし」

 「おう、今大丈夫か」

 「平気だけど、どうしたの」

 「ちっと話したいことあってよ。時間もらえねぇか」

 「いいよ。私1人のほうがいい?」

 「ああ。駅前に何時ぐらいにこれそうだ」

 「うーん、たぶん40分後ぐらいかな」

 「わかった、その時間でいい。じゃあな」

 と、最後は意外とそっけない。彼は、あまり電話が好きじゃないらしい。

 私はユキに他の場所で買い物することを伝え、家具待ち当番をお願いした。

 買い物をすませ荷物を家に置き、待ち合わせ場所に行く。先に来ていた春夏冬君は、缶ジュースを飲みながら待っていた。

 「ごめん、待たせちゃったかな」

 「いや、今着たばかりだぜ。ほれ」

 と、缶コーヒーをもらう。彼はかの有名な海外メーカーのココアを飲んでいた。

 「ここじゃ人が多すぎるから、公園に行くぞ」

 私は、素直に彼についていく。

 中央公園、と呼ばれる緑の多いこの場所は、以前遊びに来たときと同じように、お城が堂々とそびえ立っている。すでに暗くなって

いるせいか、人はいなかった。

 「引っ越した手前なのに悪いな。お前にはちゃんと話しておかねぇとな」

 「私に?」

 「ああ。お前、何で霧生ヶ谷に長期間連れてこられたか知りたいだろ?」

 もちろんである。しかし、そちらから教えてもらえるとは思ってもいなかったので、面食らってしまった。理由は、以前来たときも、必

要以上には話さないところから、秘密主義だと思っていたからだ。

 「それに、何でオレらが偽名を使ってるのかと今後の話さねぇとな」

 春夏冬君、いや、妖怪兄妹のひとりは、まず私に質問した。

 今日、何か見なかったか、と。



 * * *



 諸諸城の中から、ひとりの青年が見下ろしていた。その目は憎悪に満ちており、すぐにでも目下の人間に襲いかかりそうな勢いだっ

た。

 しかし、かろうじて止めてはいる。頭上の月に映る多きすぎる烏(カラス)と下にいる人型をした蛙がいるからだ。

 しかも、遠くからは狐と河童、さらにもうふたつの監視の目も感じられる。

 『出てはダメよ、坊や』

 「わかってる」

 『まあ、怖い事』

 姿なき女人の声。艶やかで、どこか魅惑的だ。腕があれば青年の首回りを抱いていそうな雰囲気である。

 『忘れていたわあの人間の事を。用心しないと、わたくしの存在がばれてしまう』

 「声だけなのにか」

 『うふふ、五大妖怪をなめない事ね。特に、あの狡猾(こうかつ)な老人と死の闘争神にわたくしの存在に感づかれると、手に負えな

いわ』

 くすくす、と笑う声からは、本当はそのように思ってないかのように聞こえなくもない。しかし、青年にはどうでもよかった。下にいる人

間の少女が、どうしても憎くて仕方がないのだ。

 「あの娘、なぜあの男と一緒にいるのだ」

 『直接本人に聞いてみるといいわ。さあ、明日も早いのでしょう? 早く帰りましょう』

 そういって、女の声はしなくなった。

 残った男は、平気で化け物と話している人間の女の心理がわからなかった。異なる存在の、異形のもの。なぜ親しくできる? なぜ

何とも思わない? 考えれば考えるほど忌ま忌ましくなっていった青年は、舌打ちをし、その場から姿を消した。

<<前へ   次へ>>

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー