新しい生活のにおいがする。友人たちが事前にいろいろと用意してくれたおかげで、住まいを確保することができたからだ。
ちなみに、役所にいってジュウミンヒョウを取らなければいけないらしい。後で役所関係の書類が必要になったとき、もらえなくなる
ちなみに、役所にいってジュウミンヒョウを取らなければいけないらしい。後で役所関係の書類が必要になったとき、もらえなくなる
らしい。
「あ~ぁ、よくねた……」
昼時近くにようやく起きてきた弟。少しだるそうである。とはいえ、昨日ばかりは寝袋を使わざるをえなかったので仕方がない。
「おはようユキ。ご飯どうする?」
「ん~、すぐ食べるよ。すぐでかけるっしょ?」
「せめて布団ぐらい買わないとね」
「みーつぅー。背中いたいし」
同感だ。私も少し痛いから。
軽めの食事を作って食べ、私たちは区役所に行った。
必要な書類の次は、新しい住まいの、3LDKの家から約20分ぐらいだろうか。安くて質もよいと有名な家具屋さんがある。7階建て
「あ~ぁ、よくねた……」
昼時近くにようやく起きてきた弟。少しだるそうである。とはいえ、昨日ばかりは寝袋を使わざるをえなかったので仕方がない。
「おはようユキ。ご飯どうする?」
「ん~、すぐ食べるよ。すぐでかけるっしょ?」
「せめて布団ぐらい買わないとね」
「みーつぅー。背中いたいし」
同感だ。私も少し痛いから。
軽めの食事を作って食べ、私たちは区役所に行った。
必要な書類の次は、新しい住まいの、3LDKの家から約20分ぐらいだろうか。安くて質もよいと有名な家具屋さんがある。7階建て
のビル一棟全部が家具屋だったので、有名な家具屋かと思ったが、実はここ1店舗だけらしい。
たしかに、値段は良心的だし、布団のふかふか感も個人的に好みだ。従業員の雰囲気もよいんじゃないかと思う。
「ねーちゃん、布団と折りたたみベッド、どっちにする?」
「布団にしようかと思うんだけど。折りたたみベッドもいいわね」
「けっこう種類あるよ」
と、弟と私はすぐ隣にあった折りたたみベッドコーナーに歩いていく。言われたとおり大きさや素材など、さまざまな種類があった。
向かいの通路には、大型ベッドが、ある。
「これがいいかなー」
「大きすぎない?」
「オレのじゃないって。なるちゃんのだよ」
「ああなるほど。うーん、本人に選んでもらったほうがいいんじゃないの」
そうそう、実はもう1人一緒に暮らす人がいるの。名前は藜御 鳴海(あかざみ なるみ)、年齢は21で、私たちの兄的存在の人な
たしかに、値段は良心的だし、布団のふかふか感も個人的に好みだ。従業員の雰囲気もよいんじゃないかと思う。
「ねーちゃん、布団と折りたたみベッド、どっちにする?」
「布団にしようかと思うんだけど。折りたたみベッドもいいわね」
「けっこう種類あるよ」
と、弟と私はすぐ隣にあった折りたたみベッドコーナーに歩いていく。言われたとおり大きさや素材など、さまざまな種類があった。
向かいの通路には、大型ベッドが、ある。
「これがいいかなー」
「大きすぎない?」
「オレのじゃないって。なるちゃんのだよ」
「ああなるほど。うーん、本人に選んでもらったほうがいいんじゃないの」
そうそう、実はもう1人一緒に暮らす人がいるの。名前は藜御 鳴海(あかざみ なるみ)、年齢は21で、私たちの兄的存在の人な
のよ。母親がだした条件のひとつだと聞いているわ。
「やっぱそうしたほーがいいかぁ」
「好みもあるだろうし、場所だけ伝えておけばいいんじゃない」
「んじゃそうする」
ひととおり見た後、結局私も折りたたみベッドにした。掃除のとき、どかせるし楽できるだろうから。
当日の15時までで、市内配送なら当日まで届けることができるサービスを活用し、支払いを終えた後、私たちは喫茶店に入った。
「やっぱそうしたほーがいいかぁ」
「好みもあるだろうし、場所だけ伝えておけばいいんじゃない」
「んじゃそうする」
ひととおり見た後、結局私も折りたたみベッドにした。掃除のとき、どかせるし楽できるだろうから。
当日の15時までで、市内配送なら当日まで届けることができるサービスを活用し、支払いを終えた後、私たちは喫茶店に入った。
ユキのおなかが食べ物を求めたらしい。
「決めた?」
「イチゴパフェにするっ」
「大きいほうでいいのね?」
「もちっ」
顔の周りに花びらでも咲いたかのような表情でいう弟。私は呆れながらも注文をお願いした。まったく成長期の胃袋は恐ろしい。数
「決めた?」
「イチゴパフェにするっ」
「大きいほうでいいのね?」
「もちっ」
顔の周りに花びらでも咲いたかのような表情でいう弟。私は呆れながらも注文をお願いした。まったく成長期の胃袋は恐ろしい。数
時間前に食べたことを忘れてるんじゃないのか、と疑問に思う。
「ところでねーちゃん、回りに何かいるの」
「何で?」
「視線。ここに何かいるとは思えないんだけど」
さすがは我が弟、洞察力は並大抵じゃないみたいだ。もっとも、環境のせいでそうなった、としか言いようがないが。
「何か、というより、監視されているような気がして」
「ふうん? クセじゃないよね」
「違うわね」
そうこうしているうちに、イチゴパフェと紅茶がやってきた。ものすごくチャラいウェイターが持ってきたが、受け渡しはすごく丁寧な
「ところでねーちゃん、回りに何かいるの」
「何で?」
「視線。ここに何かいるとは思えないんだけど」
さすがは我が弟、洞察力は並大抵じゃないみたいだ。もっとも、環境のせいでそうなった、としか言いようがないが。
「何か、というより、監視されているような気がして」
「ふうん? クセじゃないよね」
「違うわね」
そうこうしているうちに、イチゴパフェと紅茶がやってきた。ものすごくチャラいウェイターが持ってきたが、受け渡しはすごく丁寧な
のが印象的だ。最後に会釈と笑顔があったからだろう。
「うわー、あんな茶髪の人でもバイトできるんだっ」
「お店によるんじゃないの」
「そりゃ助かる。んま、オレ地毛だからカンケーないもんねー」
それもお店によると思うけど。まあ不自然な茶髪でもないしね、あんたのは。
弟が食べ終わったのを確認し、再度飲み物を頼んだとき、ふと外を見てみた。ガラス越しにある風景は、昔ながらの水路と現代の
「うわー、あんな茶髪の人でもバイトできるんだっ」
「お店によるんじゃないの」
「そりゃ助かる。んま、オレ地毛だからカンケーないもんねー」
それもお店によると思うけど。まあ不自然な茶髪でもないしね、あんたのは。
弟が食べ終わったのを確認し、再度飲み物を頼んだとき、ふと外を見てみた。ガラス越しにある風景は、昔ながらの水路と現代の
建物が同時に映っている。
反射によって店内の人が視界に入るのはよいとして、それでも一部、ごく一部だけ周囲とは印象が違う何かがいた。目を凝らすと、
反射によって店内の人が視界に入るのはよいとして、それでも一部、ごく一部だけ周囲とは印象が違う何かがいた。目を凝らすと、
和服を着ている。友人たちとは違う、もっと後の時代の和服だろうか。
思い違いかな、あの目には殺意を感じる。赤い瞳は、私をにらみつけているような気がしてならない。それとも、霧生ヶ谷だから、そ
思い違いかな、あの目には殺意を感じる。赤い瞳は、私をにらみつけているような気がしてならない。それとも、霧生ヶ谷だから、そ
う考えてしまうのか。
「ちゃん、ねーちゃんってば」
ふと意識が戻り、声のしたほうへと向きなおる。ユキは不思議そうな顔をして外に目をやると、すぐ元に戻し、飲み物来たよ、と促し
「ちゃん、ねーちゃんってば」
ふと意識が戻り、声のしたほうへと向きなおる。ユキは不思議そうな顔をして外に目をやると、すぐ元に戻し、飲み物来たよ、と促し
た。
いつの間にか若干の冷や汗をかいていた私は、アイスティーを飲み干し、店をでた。
太陽の色がオレンジ色に染まった時間帯になった。近くのスーパーで買い物をしていると、携帯電話が騒ぎだす。ディスプレイには
いつの間にか若干の冷や汗をかいていた私は、アイスティーを飲み干し、店をでた。
太陽の色がオレンジ色に染まった時間帯になった。近くのスーパーで買い物をしていると、携帯電話が騒ぎだす。ディスプレイには
『春夏冬 瞬』とでている。ちなみに、読みかたは『あきなし しゅん』である。
「もしもし」
「おう、今大丈夫か」
「平気だけど、どうしたの」
「ちっと話したいことあってよ。時間もらえねぇか」
「いいよ。私1人のほうがいい?」
「ああ。駅前に何時ぐらいにこれそうだ」
「うーん、たぶん40分後ぐらいかな」
「わかった、その時間でいい。じゃあな」
と、最後は意外とそっけない。彼は、あまり電話が好きじゃないらしい。
私はユキに他の場所で買い物することを伝え、家具待ち当番をお願いした。
買い物をすませ荷物を家に置き、待ち合わせ場所に行く。先に来ていた春夏冬君は、缶ジュースを飲みながら待っていた。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「いや、今着たばかりだぜ。ほれ」
と、缶コーヒーをもらう。彼はかの有名な海外メーカーのココアを飲んでいた。
「ここじゃ人が多すぎるから、公園に行くぞ」
私は、素直に彼についていく。
中央公園、と呼ばれる緑の多いこの場所は、以前遊びに来たときと同じように、お城が堂々とそびえ立っている。すでに暗くなって
「もしもし」
「おう、今大丈夫か」
「平気だけど、どうしたの」
「ちっと話したいことあってよ。時間もらえねぇか」
「いいよ。私1人のほうがいい?」
「ああ。駅前に何時ぐらいにこれそうだ」
「うーん、たぶん40分後ぐらいかな」
「わかった、その時間でいい。じゃあな」
と、最後は意外とそっけない。彼は、あまり電話が好きじゃないらしい。
私はユキに他の場所で買い物することを伝え、家具待ち当番をお願いした。
買い物をすませ荷物を家に置き、待ち合わせ場所に行く。先に来ていた春夏冬君は、缶ジュースを飲みながら待っていた。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「いや、今着たばかりだぜ。ほれ」
と、缶コーヒーをもらう。彼はかの有名な海外メーカーのココアを飲んでいた。
「ここじゃ人が多すぎるから、公園に行くぞ」
私は、素直に彼についていく。
中央公園、と呼ばれる緑の多いこの場所は、以前遊びに来たときと同じように、お城が堂々とそびえ立っている。すでに暗くなって
いるせいか、人はいなかった。
「引っ越した手前なのに悪いな。お前にはちゃんと話しておかねぇとな」
「私に?」
「ああ。お前、何で霧生ヶ谷に長期間連れてこられたか知りたいだろ?」
もちろんである。しかし、そちらから教えてもらえるとは思ってもいなかったので、面食らってしまった。理由は、以前来たときも、必
「引っ越した手前なのに悪いな。お前にはちゃんと話しておかねぇとな」
「私に?」
「ああ。お前、何で霧生ヶ谷に長期間連れてこられたか知りたいだろ?」
もちろんである。しかし、そちらから教えてもらえるとは思ってもいなかったので、面食らってしまった。理由は、以前来たときも、必
要以上には話さないところから、秘密主義だと思っていたからだ。
「それに、何でオレらが偽名を使ってるのかと今後の話さねぇとな」
春夏冬君、いや、妖怪兄妹のひとりは、まず私に質問した。
今日、何か見なかったか、と。
* * *
諸諸城の中から、ひとりの青年が見下ろしていた。その目は憎悪に満ちており、すぐにでも目下の人間に襲いかかりそうな勢いだっ
「それに、何でオレらが偽名を使ってるのかと今後の話さねぇとな」
春夏冬君、いや、妖怪兄妹のひとりは、まず私に質問した。
今日、何か見なかったか、と。
* * *
諸諸城の中から、ひとりの青年が見下ろしていた。その目は憎悪に満ちており、すぐにでも目下の人間に襲いかかりそうな勢いだっ
た。
しかし、かろうじて止めてはいる。頭上の月に映る多きすぎる烏(カラス)と下にいる人型をした蛙がいるからだ。
しかも、遠くからは狐と河童、さらにもうふたつの監視の目も感じられる。
『出てはダメよ、坊や』
「わかってる」
『まあ、怖い事』
姿なき女人の声。艶やかで、どこか魅惑的だ。腕があれば青年の首回りを抱いていそうな雰囲気である。
『忘れていたわあの人間の事を。用心しないと、わたくしの存在がばれてしまう』
「声だけなのにか」
『うふふ、五大妖怪をなめない事ね。特に、あの狡猾(こうかつ)な老人と死の闘争神にわたくしの存在に感づかれると、手に負えな
しかし、かろうじて止めてはいる。頭上の月に映る多きすぎる烏(カラス)と下にいる人型をした蛙がいるからだ。
しかも、遠くからは狐と河童、さらにもうふたつの監視の目も感じられる。
『出てはダメよ、坊や』
「わかってる」
『まあ、怖い事』
姿なき女人の声。艶やかで、どこか魅惑的だ。腕があれば青年の首回りを抱いていそうな雰囲気である。
『忘れていたわあの人間の事を。用心しないと、わたくしの存在がばれてしまう』
「声だけなのにか」
『うふふ、五大妖怪をなめない事ね。特に、あの狡猾(こうかつ)な老人と死の闘争神にわたくしの存在に感づかれると、手に負えな
いわ』
くすくす、と笑う声からは、本当はそのように思ってないかのように聞こえなくもない。しかし、青年にはどうでもよかった。下にいる人
くすくす、と笑う声からは、本当はそのように思ってないかのように聞こえなくもない。しかし、青年にはどうでもよかった。下にいる人
間の少女が、どうしても憎くて仕方がないのだ。
「あの娘、なぜあの男と一緒にいるのだ」
『直接本人に聞いてみるといいわ。さあ、明日も早いのでしょう? 早く帰りましょう』
そういって、女の声はしなくなった。
残った男は、平気で化け物と話している人間の女の心理がわからなかった。異なる存在の、異形のもの。なぜ親しくできる? なぜ
「あの娘、なぜあの男と一緒にいるのだ」
『直接本人に聞いてみるといいわ。さあ、明日も早いのでしょう? 早く帰りましょう』
そういって、女の声はしなくなった。
残った男は、平気で化け物と話している人間の女の心理がわからなかった。異なる存在の、異形のもの。なぜ親しくできる? なぜ