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「それぞれの１日 ― 加阿羅 （カーラ） 編 ―」(2007/10/20 (土) 15:21:50) の最新版変更点
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<p><font size="2"> <u>それぞれの１日 ― 加阿羅 （カーラ） 編 ―</u> 作者 ： 望月 霞</font></p>
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<p> </p>
<p><font size="2"> 目を開けると、ここは昔の日本のような場所だった。 ―― 一体どこなんだよ、ここ。 アタシをこ</font></p>
<p><font size="2">んなワケのわかんねぇ場所に連れてきた奴、ちょいと表へ出ろっ！！ そのツラを貸せっっ！！！</font></p>
<p><font size="2"> 「あれ～？ めっずらしいなぁ。 君、どこの子～？」</font></p>
<p><font size="2"> と、ものすっごいのんびり口調で話しかけてきた、今時和服を着ている男の子。ちょうどよかった、</font></p>
<p><font size="2">この際年下でもかまわない。 ここはどこの田舎町なのかを聞こう。</font><font size=
"2"> </font></p>
<p><font size="2"> 「あっ、また幽体離脱とかしちゃった子なのかなー？ 最近多いらしいんだよ～」</font></p>
</div>
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"2"> と、アタシが聞く前に話し始めた男の子。 な、なんつーマイペースな子なんだろう……。</font></div>
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<p> <font size="2"> 「そうそう、おれは加阿羅 （カーラ） って言うんだ～。 よろしくね～」</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「はっ、えっ？？ カ、カ？」</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「だから、加阿羅だってば～」</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「カーラ君？？ 珍しい名前だね」</font></p>
</div>
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"2"> 「まあね～。 ところで君、人間でしょ～？」</font></div>
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<p> <font size="2"> 「そ、そうだけど……。 ところでさ、君いくつ？ アタシのほうが年上だと思うんだけど」</font></p>
</div>
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"2"> 「年齢？ あー、覚えてないなぁ。 でも、君よりは長く生きてるのは確かだよ～」</font></div>
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<p> <font size="2"> うそこけ。 どこをどう見たって１３か４ぐらいの子じゃないか。 背は標準より高いかもしれないけ</font></p>
<p><font size="2">ど。 体もがっちりしてるし。</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> 「あ、そうそう。 もうそろそろ夜明けだからさ～。 帰れるんなら帰ったほうがいいよ～。 ここ、物</font></p>
<p><font size="2"> 騒だからさ～」</font></p>
</div>
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<p> <font size="2">「いや、帰りかた教えて欲しいな。 気がついたらここにいたんだよ、アタシ」</font></p>
</div>
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<p> <font size="2">「う～ん、それは困ったねぇ～。 おれじゃあどうしようもないよ～」</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> ちょっとカーラ君、大してそう思ってなさそーな口調で言うなよ。こっちゃぁ死活問題に近けぇんだっ</font></p>
<p><font size="2">つーの！</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「あっ、そうだ～！」</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> と、何かを思いついたような彼。特に何もしまっていなそうに見える日本刀の近くを、まるでストラッ</font></p>
<p><font size="2">プを探すように手が動いている。 ―― ん？ に、日本刀っ！？</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「帰せはしないけど、しばらくおれの傍にいたほうがいいよ～。 これ飲んでもらえれば、体が縮む</font></p>
<p><font size="2"> からさ～」</font></p>
</div>
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"2"> 「ちょっと待てって！ それ何！？ 日本刀だよなっ！？」</font></div>
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<p> <font size="2"> 「そうだよ～。 あ、大丈夫だって。 君を斬りつけたりはしないから～」</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「当たり前だろーが！ 大体、なんで君みたいな少年が持ってんだよ！？ そんな物騒な</font></p>
<p><font size="2"> モン！！」</font></p>
</div>
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"2"> 「この世界じゃあ、武器持たないほうが変なんだよー。 術者ならまだともかくさー」</font></div>
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<p> <font size="2"> 「は、はぁ……」</font></p>
</div>
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"2"> やっべ、マジでワケわかんなくなってきた。 何なんだここは本当に！？</font></div>
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<p> <font size="2"> 「あ～、安心してよ～。 おれと一緒にいれば大丈夫だから～！ こう見えても、下手な奴より強い</font></p>
<p><font size="2"> んだよ～？」</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> ごめん、カーラ君。 信用しないわけじゃないけど、状況が状況だからさ……。 しかも、何を下手</font></p>
<p><font size="2">な奴と言ってるのかもわかんねーし……。</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「う～ん……。 わかった、君を信じるよ。 で、それを飲めばいいんだね？」</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> 「ありがと～。 そうそうさっきも言ったけど、体が小さくなるから。 でも、おれと逸れることがなくな</font></p>
<p><font size="2"> るから大丈夫～」</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> ゴクン、と、女の人の小指ぐらいと思われる大きさのビンの中身を飲み干した後に、アタシはその</font></p>
<p><font size="2">言葉を聞く。 え、な、何？ 体が小さくなるって ―― ！？</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> シュゥルルルル。 効果音的にはこんな感じだろうか。 ほんのり甘い謎の液体を言われたとおり</font></p>
<p><font size="2">の動作を行ってなくした直後、彼がだんだんと大きくなっていった。 いや、その彼が、かがんでアタ</font></p>
<p><font size="2">シを手のひらに乗せるように差し出す。 しゃがみこんだ、ってことは、アタシの視線が低くなったっ</font></p>
<p><font size="2">てことで……！</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「ごめんね～、おれこれから見回りをしなきゃなんなくてさ～」</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> と言いながら、手をゆっくりと動かし、近くにあった石の上へと移動。 彼はそのまま、アタシに１回</font></p>
<p><font size="2">降りるように言う。 ちょ、ちょっと！</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 「安心してよ～。 ちゃんとジジの元に連れて行くから～」</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> と、話す彼。 うーん、どうやらこれから何処かに行かなければならねぇようだ。 まあ、仕方ないだ</font></p>
<p><font size="2">ろう。 アタシのほうが予期せぬアクシデントだしな。</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> 手ぶらになった彼が何をするのか見ていると、アタシがいる場所から少し離れたところに立った。</font></p>
<p><font size="2">そ</font><font size=
"2">の後はゆっくりと目を閉じ、少し唇を動かしたかのようにも見受けられる。 すると、不思議なこと</font></p>
<p><font size="2">に、</font><font size=
"2">周りからそよ風が起こり、カーラ君を包み込んでいく。 覆った風たちは、だんだんと勢いを増</font></p>
<p><font size="2">し、しまいには一時的に強い台風のような感じになった。 しかし、やみ終わった後にはその中心に</font></p>
<p><font size="2">いるはずの人はいなく、どういうことか老緑 （おいみどり）色の ―― カラス？ だろうか。 そんな風</font></p>
<p><font size="2">貌の鳥がいた。</font></p>
</div>
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"2"> しかもその鳥、アタシを食事と勘違いしたのか、こちらに近づいてくるじゃねぇかっ。</font></div>
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<p> <font size="2"> “あ、おれだよ～、加阿羅だよ～。 飛びながら詳しいことを話すから、とりあえず乗って～”</font></p>
</div>
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"2"> 「はっ？ カ、カーラ君……なワケ？」</font></div>
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<p> <font size="2"> “うん。 大丈夫、振り落としたりしないから～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> いや、そうじゃなくてよ……。 何だろ、この独特なペース。 不思議と逆らえないなぁ。</font></div>
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<p> <font size="2"> あー、えっと？ ぶちぶち言ってもしょうがねーよな。 元々わけわかんねぇ場所なんだし。 あれ</font></p>
<p><font size="2">か、長いものには巻かれろってことか。</font></p>
</div>
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"2"> そんなわけで、アタシは彼に従い乗せてもらうことにした。</font></div>
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<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
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<p><font size="2"> いろんなところを徘徊しているうちに、ここはアタシたち人間が暮らしている世界ではなく、何と “妖</font></p>
<p><font size="2">怪だけ” が住んでいる世界らしいことを聞いた！ そして、やっぱりというか、時たま迷子になる人も</font></p>
<p><font size="2">いるようで、大概は記憶を消して元の世界へと戻しているという。</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> “全部が全部じゃないんだけどね～。 利便上、表の世界って呼んでるんだけど、昔ながらの自然</font></p>
<p><font size="2"> が残っているところは少し紛らわしくて結界が張れないんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「へぇ～。 でもどんな風に？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “霊子の話をしたよね。 表世界で文明が発展してしまったところは、流れがひん曲がっちゃって</font></p>
<p><font size="2"> るんだ～。 逆に言うと、そこらは結界が張りやすいんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あ～、なるほどね。 その 『結界』
ってのは川でいう堤防かダムみたいなもんなんだろ？」</font></div>
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<p> <font size="2"> “ん～、まあそんな感じかな～。 こちら側の策なんだけど、強制的に流れを変えて、お互いの世</font></p>
<p><font size="2"> 界を干渉させないようにしてるんだよ～”</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> ―― とまあ、こんな風に、簡単ではあるが色々と聞いている。 とはいうものの、アタシは別にこの</font></p>
<p><font size="2">世界に住むわけじゃないので、軽い知識程度にとどめてあるが。 それは、カーラ君も無言で承知し</font></p>
<p><font size="2">てくれてたらしい。</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> </font><font size=
"2">そうそう、今アタシたちが回っているところは、霧生ヶ谷市というところだ。 まあ正直、関東から出</font></p>
<p><font size="2">たことのない自分には地名程度しか知らないけどな。 その場所の裏の世界であるところを今、見</font></p>
<p><font size="2">回っている途中なんだと。</font></p>
</div>
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"2"> “おれは空から見てるし、何回も回るからそんなに大変じゃないんだよ～”</font></div>
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<p> <font size="2"> 「そうなの？ けっこー広いじゃん？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> “ああ、それはたぶん視界の問題なんじゃないかな～。 ほら、陸路より空路のほうが開けてるか</font></p>
<p><font size="2"> ら～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「はぁ～、なるへそな」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “さて。 １回目は終わったから、そろそろ戻るよ～。 しっかり捕まっててね～”</font></div>
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<p> <font size="2"> ってことは、また後にも回るのか。 それはゴクロウ ―― と思っているところに、いきなしスピード</font></p>
<p><font size="2">をあげ、どこかに向かって行くじゃねぇかっ！！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “結界破るから、ちょっと我慢してね～”</font></div>
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<p> <font size="2"> 早く言えよ！ そういうこたぁっ！！</font></p>
</div>
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<p><font size="2"> 体感速度を述べると、この体では、普通のジェットコースター以上の速さで平行線に飛んで行く気</font></p>
<p><font size="2">がする。 文句をこれ以上の口調で言いたい考えもあるが、それは後ほどに回し必死にしがみつく。</font></p>
<p><font size="2">そして極めつけ。 終着点に着いたのか、今度は、獲物を狙うがごとくの角度になりそのまま急降</font></p>
<p><font size="2">下。 </font><font size="2">ひぃぃ、殺す気かよっ！？</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> “ごめんごめん。 結界はもう抜けたから、後は地に降り立つだけだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ゆ、ゆっくりで頼むって……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あはは～。 もちろんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> と言いつつも、なぜか楽しんでるし。 あー、妖怪といえど、やっぱ中身は少年なんだかね？</font></div>
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<p> <font size="2"> 何だかんだで、東の空にはひょっこりと太陽が顔を出していた。 ……実際、東西南北なんて、す</font></p>
<p><font size="2">ぐにゃあわからねぇけど。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 彼の言うとおり、速度が落ちたので、落下しない程度に地上へと目をやった。 何かの信号だろう</font></p>
<p><font size="2">か、</font><font size="2">下からは何かに反射した光が見える。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あ～、ジジの頭が見える～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> あれ頭なのかよっ！？ うわっ、まぶしいっ……！ って、言っていいのかな。 いや、本当によく</font></p>
<p><font size="2">見えるんだけどよ……。 常識を考えて、内の中だけにしておこう。</font></p>
</div>
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<p> <font size="2"> そんな考えを持っていた最中に、どうやら地面へと向かっていたらしい。 アタシの視界には、大き</font></p>
<p><font size="2">い翼が２枚入ってくる。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「――
ん？ 加阿羅、どちらさんを連れておる？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “こっちに迷い込んじゃったみたいなんだよ～。 ああ、そういえば君の名前聞いていなかったよ</font></p>
<p><font size="2"> ね～。 </font><font size="2">なんていうの？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あー、そうだったね。 かえで、藜御 楓
（あかざみ かえで） っていうんだ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “楓ちゃんっていうんだ？ そっか～。 それじゃあ、楓ちゃん。 ちょっと降りてもらえる～？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> おいこら。 個人的には別にいいんだけどよ。 ハナっから年上を “ちゃん” 付けで呼ぶ奴がある</font></p>
<p><font size="2">か。 しかも、またマイペースにさっきと同じ要領でまた人間に戻りやがったし。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ふぅん……。 まあ、あらかたのことは俺の能力でわかったけど」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「そうー？ なら後で楓ちゃん交えて話そうかー？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そうしたんだが、俺も忙しいんだ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ま～、ヒマ人じゃあないよね～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> と話しながら、お互い帯刀を抜き、なにやら構えている ―― って、アレ！？ さっきじーさんがい</font></p>
<p><font size="2">たのに何で若いにーちゃんがいるんだっ！？</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「多少時間がずれてしまったが、今日は剣を中心にするぞ。 準備はいいか」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「いいよ～。 大丈夫～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「よし。 んーじゃ、そこのお嬢さんの薬の効果を解くぞ。 その後はお前が結界を張れ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「りょうかーい」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> おいおいおい、何か説明してくれって！ 緊迫した状況だから、何も口に出せねぇしよ！！</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「安心しろよ、楓ちゃん。 ちゃんと後で加阿羅に説明させるから」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と言われてしまう。 あんの赤毛ヤロウ、何をどう解釈すれば安心できんだっ！！ もう少し納得で</font></p>
<p><font size="2">きる言葉を紡ぎやがれっ！！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> だが、そう思うもむなしく、奴らは剣の修行と言い表せる行動を、数時間以上にわたって繰り広げ</font></p>
<p><font size="2">るのだった。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 今の時間、お天道様がよい具合に真上にいる時刻だ。 ということは、昼時に当たるだろう。 そ</font></p>
<p><font size="2">の刻限になってようやく、彼らの斬り結びが終わりを告げた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ちなみにアタシはというと。 カーラ君が張った結果とやらの中に、ずっと身を潜めていた状態で</font></p>
<p><font size="2">あ</font><font size="2">る。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「まあまあか。 なんだか最近冴えんぞ、何かあったか」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そー？ 特に何もないけどなぁ～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「……ふむ。 まあいい、そのうちはがれるやも知れないしな」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ジジ、もしかして不機嫌だったりするー？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「いや？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そー？ ―― んじゃ、また後でね～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ああ。 そうそう、楓ちゃん」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> と呼ばれ、少し飛んでいた意識を元に戻した。 ずっと座っていたわけじゃあなかったんだが、真</font></p>
<p><font size="2">剣同士の訓練なんて見れるもんじゃない。 あまりに物珍しく、見入っちまったのだ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「腹減ってないか？ 大丈夫だとは思うが、もし何か食べたくなったらいつでも加阿羅をこき使って</font></p>
<p><font size="2"> いいから」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「は、はぁ……」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「うん、よし。 じゃあ、ふたりとも。 また後で」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> フッ、と、言い終わるとほぼ同時に姿を消す。 あ、あれ、一体どうなってんだ？？</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「あー、ジジね。 術で家に戻ったんだよ～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「はっ？ ジュツ？？ 陰陽術とかいうのか？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「うーん、似たようなものだけど違う～。 そうだねぇ、君たちの世界でいう 『魔法』 でいいんじゃな</font></p>
<p><font size="2"> いかな～。 ちゃんと理にかなった魔法～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> いや、魔法も存在してねぇから。 きっとゲームやる奴じゃないとわからねーから、それ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「とりあえず、午 （うま）
の刻が終わるまで休憩時間だからさ～。 ゆっくり話そうか～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ……えーと？ ここの環境から見て、おそらく十二支で時間を言ってんだな。 ね、うし、とら、う、</font></p>
<p><font size="2">たつ、み、うま、だから、大体１２時か１３時のどちらかだな。 場所や歴史によって多少ずれるが、</font></p>
<p><font size="2">どちらかは間違いないだろう。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ああ、そうだ。 午後１時ね～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「始めからそう言ってくんないっ？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ごめんごめん～、ついつい～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 一生懸命考えたのに。 まあいいだろう。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> だが、彼は今しがた修行を終えたばかりだ。 あまり疲れさせてもかわいそうなので、軽く世間話</font></p>
<p><font size="2">まがいをした後はほとんど口を開かないようにした。 また後で色々と聞かせてもらうけどな。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 会話が途切れた後は、軽く昼寝でもしていたのだろうか。 いささか元気を取り戻した様子のカー</font></p>
<p><font size="2">ラ君は、再び鳥になり、視察を始めた。 もち、アタシも同行している。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “でもさ～。 この地方に住んでないのに、よくこっちにこれたよね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ンなこと言われてもなぁ。 アタシだって知らねぇし」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あはは～、だよね～。 うーん、でも何でだろう？ 特に霊力が高いわけでもなにのなぁ～。 環</font></p>
<p><font size="2"> 境破壊が問題なのかな～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「何？ レイリョク？？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “簡単に言えば、術を使うために必要な力のことだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「へぇぇ……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> と、他愛もな ―― くはない会話をしているうちに、他の小鳥たちが一緒に並びだした。 うわ～、</font></p>
<p><font size="2">不思議な光景だよ……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “捕まってて。 奴らがこっちに来るから”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「げっ！？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> いい、一体何が来るんだ！？ 妖怪かっ、妖怪が来るのかっ！？</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> だが、さすがは慣れているな、と賛辞を送るべきだろう。 彼は即座に攻撃をし、あっという間に撃</font></p>
<p><font size="2">破したようだった。 こちとら、何が起こったのかまったくわからない。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「なな、何が来たの？？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “ん～、怨鬼 （おんき） っていう最下位クラスの物の怪だよ～。 たいしたことないよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「も、もしかして、さっきの小鳥たち？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “ううん、あれはただの鳥だよ～。 姿が見えない、小人に小さな羽根がはえた奴なんだ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「よ、よく見えたね……。 アタシなんかさっぱりだよ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あははは～、そりゃまあね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> た、確かその怨鬼から怨霊、それに妖怪の順で強くなるんだったっけな。 つーことは、のほほん</font></p>
<p><font size="2">とした顔を持つカーラ君、実はけっこう強かったりするんだよなぁ。 人は見かけによらねーな、やっ</font></p>
<p><font size="2">ぱり。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ちなみに今どうやって倒したんだ？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだねぇ～。 その怨鬼、小蝶蘭 （こちょうらん） って言うんだけど、そいつに翼に力を送って</font></p>
<p><font size="2"> 強化したのを当てたんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> ……ちっとも理解できないが、羽に力を入れて体当たりした、と要約しておこう。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 一度軽い災難に遭いはしたが、それ以降は別になんてこともなく今に至っている。 現在の時刻</font></p>
<p><font size="2">は、大体おやつを食って休んでいる時間帯だろう。 西らしき方角に、日が傾いてきていた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだ～、昼時に兄妹がいるって言ったでしょ？ これから顔合わせるから、紹介するよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「おー、そりゃ楽しみだよ。 ええっと、確か下に３人いるんだっけ？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだね～。 まあちょっと時間ないから、あまり詳しく話せないんだけどね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「時間がない？ 何か予定でもあったのか？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そういう意味じゃないんだけどね～。 集まった後はすぐに実戦演習に入っちゃうし、人間のよう</font></p>
<p><font size="2"> な兄妹でもないって説明ができないってこと～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ああ、まあその辺は仕方ねぇって。 そうでなくても、面白い世界に関われたと思ってるしな」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “本当～？ そう言ってくれるのはうれしいなぁ！ あ、でも、ジジの前では言っちゃダメだよ～？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「何で？ 別におかしなことじゃないだろ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうなんだけど～。 調子づいちゃってどうなるかわからないからさ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 危険人物なのか、あのじーさんは……。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 中級ぐらいの注意を受けながらも、彼が目指していた目的地へと着いたようだ。 今度は結界が</font></p>
<p><font size="2">なかったのか、緩やかな傾斜を描きながら降りて行く。 そこには既に、カーラ君と同じぐらいの年頃</font></p>
<p><font size="2">をした少女と少年、それと小学４年生ぐらいの男の子がいた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あれ？ 加阿羅、その方は？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “楓ちゃんっていうんだ～。 苗字は藜御だって～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「それもだけどよ、どうして人間がここにいんだ」</font></p>
<p><font size="2"> “さあ～。 彼女もわからないんだって～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、兄妹同士の会話をしながら、アタシたちは元の姿に戻る。 だが、アタシの見た目にビビってし</font></p>
<p><font size="2">まったのか、一番幼い弟君が姉である女の子の後ろに隠れてしまった。 うーん、まあ、子供にゃぁ</font></p>
<p><font size="2">おっかないかもしれねぇな……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あー、大丈夫だよ加悧琳 （カリン） 。 この子、一見怖そうだけど、話すとそうでもな」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font></p>
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt; text-indent: 21.25pt"><font size=
"2">ガショーン！</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> 「い、痛いよ～！ 何するの～っ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「初対面の人に何てこと言うのよっ！！ ああもう、すみません。 そんなことありませんから、気に</font></p>
<p><font size="2"> なさらないでください。 この子、ちょっと人見知りなところがあるだけなんです」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あ、あ～いや、お構いなく……。 はい……」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、カーラ君が妹さんの持っていた錫杖 （しゃくじょう） で殴られてしまった。 どうやら唯一の女の</font></p>
<p><font size="2">子なだけに、相当しっかりしているらしい。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 彼女と同じぐらいの背を持つ男の子はというと、慣れているのか、少々呆れ顔で見守っていた。</font></p>
<p><font size="2">だが、気を取り直したのかアタシの視線に意識が向いたのか、こちらへと歩いてくる。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「えーっと、確か楓、だったよな。 あんた、オレたちを見て何とも思わねぇのか？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「何ともって、何を思えばいいんだ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「んー、気持ち悪いとか不気味だとかか？ 人間の感覚自体がわからねーから何とも言いようが</font></p>
<p><font size="2"> ないけどよ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「別に？ 人型をしているせいかな、そんな感慨はわかないな」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ふぅん。 なら、これはどうよ？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と言うやいなや、彼は目を瞑り、何かを呟きだした。 次の瞬間、男の子の周りに水蒸気らしきも</font></p>
<p><font size="2">のが集まりだし一瞬にして水柱を形成する。 それが天空へと消え去ると、以前あったような現象が</font></p>
<p><font size="2">起きた。 中心にいるはずの人物がまたいなくなっていたのだ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “詳しいことはともかく、ちょいと下を見てみな”</font></p>
<p><font size="2"> と、どういう理由か突っかかってくる彼の言葉どおりにする。 すると、さっきまでいなかったはず</font></p>
<p><font size="2">の、水色をしたカエルがいるじゃないか！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> “加阿羅がカラスになれるように、オレはカエルの化身だ。 こいつらだって、それぞれの姿を持っ</font></p>
<p><font size="2"> てる。 それを見ても何とも思わねぇのかよ？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ……なるほど、どうやらアタシは試されているようだ。 もしかしたら、彼らの過去に辛い記憶があ</font></p>
<p><font size="2">るのかもしれない。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> だが、失礼ながらもアタシはその雰囲気を鼻で笑ってかき消す。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あんたらは妖怪なんだろ？ なら目の前で他の姿になられても、なぁ～んとも思わねぇな！ もう</font></p>
<p><font size="2"> 何回も見てるし」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> カラスだろ、じーさんが若いにーちゃんになったりとかだろ。 と、指折りをしながら付け加える。</font></p>
<p><font size="2">この際、コチョーランとかいうのに襲われたことは却下しているが。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ちょっと加濡洲 （カヌス） 、やめなさいよ。 失礼でしょ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> “あのなぁ。 失礼とかの問題じゃ”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「やめなって、加濡洲。伽糸粋 （カシス） の言うとおりだよ。気を使ってくれたのはありがたいけど」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> “―――
……。 ちっ。 まあいいけどよ”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、彼ら内の話が終わった後は、カヌス ―― だったかな。 そう呼ばれた男の子は、初めて見た</font></p>
<p><font size="2">ときの姿に戻る。 ふてくされた表情だが、ある程度は納得したらしい。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> そこに、まるで磨き石のように光沢を放つ、例のじーさんが現れた。 こ、この人、本当に唐突に</font></p>
<p><font size="2">出てくんな……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ふぉふぉふぉ。 加濡洲、そのお嬢さんの気性なら大丈夫だろうことぐらいわかっておろうに？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ふぉふぉふぉっ、と笑いながら、審判をした子に向かって皮肉を言いつのる。 自分でもわかって</font></p>
<p><font size="2">いたのか、カヌス君は顔を真っ赤にしながら、じーさんをらみつけた。 ……そんな仕草が、ちょっと</font></p>
<p><font size="2">可愛いと思ったりして。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ほれ、加阿羅。 楓ちゃんに結界を張るんじゃぞ。 今日も加悧琳を中心に行うからの」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「りょうか～い」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> と、指示を受けたカーラ君は、午前中に行ったのと同じことをする。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font></p>
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font><font size=
"2"> それからはというもの。 どっから出したのか、じーさんがでっかいヒュドラを出したり、何の拍子も</font></p>
<p><font size="2">なく突風が起きたり、投げナイフが飛んでたり。 はたまた、炎がでたりヘビらしきものが出てきた</font></p>
<p><font size="2">り……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> 完全に理解不能な世界が、目の前で繰り広げられていた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> ――――
これ、ホントーに演習なのか？ 一歩間違えたら死ぬじゃねぇかよ…………。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> アタシにしてみれば、死闘とも取れる実演を済ませた後は、休憩を入れずに個人レッスンに入るよ</font></p>
<p><font size="2">うだった。 これもジュツという技なのか、じーさんが４人に分裂し、しかもそれぞれ異なった風貌をし</font></p>
<p><font size="2">ている。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> とりあえず、アタシは一番長くいるカーラ君のを見ることにした。 彼につくじーさんの容姿は、先と</font></p>
<p><font size="2">同じ若いにーちゃんである。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「そうだな。 今宵は守術 （しゅじゅつ）
を中心にするか」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「わかった～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、本日の課題が決まったところで、早速準備に入ったようだ。 先生は目的のために動きがすば</font></p>
<p><font size="2">しっこいと思われる巨大ネズミを出し、生徒は持っていた日本刀をにーちゃんのほうに投げ、丸腰の</font></p>
<p><font size="2">状態になる。 その後は、ありもしないはずの帯刀部分に手をやり、何かを探り始めた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「こいつを俺の攻撃から守るんだ。 動体視力もついて、お買い得だぞ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「お買い得って表現が違うような気がするんだけどなぁ～……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> との突っ込みをいれつつも、カーラ君はにーちゃんの言う通りに何かをとなえ、デカネズミにかけ</font></p>
<p><font size="2">る。 それを確認したお師匠は、合図とばかりに動物の頭を軽くどついた。 すると、ネズミは驚いた</font></p>
<p><font size="2">ようで辺りを走り始める。 まるで、自らを狙う狩猟から逃げるような感じだ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 次の瞬間、獲物を狙うハンターと化した先生は、自前の太刀を用いて追いかけ始めた。 その様</font></p>
<p><font size="2">子を見た生徒は、いいつけどおりに弱者を、懐から出した道具らしきものと体術だろうか。 それら</font></p>
<p><font size="2">を駆使して動物保護に当たる。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> その繰り返しが、深夜近くまで繰り広げられていった。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font></p>
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 個人授業が終わった後、カーラ君は３度目の見回りに体を動かした。 大体夕方前から今に至る</font></p>
<p><font size="2">まで、間髪入れずに動き続けているのだ。 タフもいいところである。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “この時間は、特に気をつけないといけないんだよ～。 おれたちはそうでもないんだけど、下の</font></p>
<p><font size="2"> 連中は動きが活発になるからさ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「あ～、何となくイメージできっかな」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そう～？ ところで、疲れてない？ ずっとこっちにいるけど～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ん～、言われてみれば、少し眠いかもしんない……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうか～。 まったく、ジジったら修行中に頼んでおいたのに。 ごめんね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「いや、まだ大丈夫だって。 ところで、カーラ君こそ疲れてないの？ 何も食ってねぇし、寝てもな</font></p>
<p><font size="2"> いじゃないか」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あ～、おれは平気だよ～。 基本的に妖怪って飲食しないし眠りもしないんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「え゛！？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “だって、人間と違って実体がないんだからそりゃそうでしょ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「じゃ、じゃあ巡回が終わったあと何してんの？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだね～。 おれは弟たちと遊んだり、ジジと一緒にお茶をしたりが主かな～”</font></p>
<p><font size="2"> 彼が言うには、大体午後１１時に先ほどの個人レッスンが終わり、その後約４時間に渡ってこうし</font></p>
<p><font size="2">て飛び続けているという。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> でも、次の休み時間をそのように使うなんて……。 気のせいじゃないだろーが、ジジくさいな、こ</font></p>
<p><font size="2">の子 ―――― ………。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “楓ちゃん？ 大丈夫～？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「――― ……」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “あっ、もしかして戻ったのかな～？ ふふ、おやすみ、楓ちゃん。 よい夜を”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> ＊ ＊ ＊</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ん、んにゃ……？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 気がつくと、自分の部屋だった。 何の変哲もない、普段どおりの部屋だ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あ、あれ？ 夢だったのかな……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> んー、まあいいか。 よくわからねぇけど、けっこう楽しかったしな。 きっと、子供が夢の世界に紛</font></p>
<p><font size="2">れ込んだような感覚って、あんな感じなのだろう。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font><font size="2"> アタシ ――
いや、私は今日も学校へ行く。 もしかしたら、今日は何かあるかもしれないな。 別</font></p>
<p><font size="2">にいつも通りでよいんだけど。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 私は、こんな不思議な朝にしてくれた妖怪たちに対して、再び夢の中であるかも知れない彼らに対</font></p>
<p><font size="2">して、何とも言いようのない感情を抱だきながらドアを開けたのだった。</font></p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> <u>それぞれの１日 ― 加阿羅 （カーラ） 編 ―</u>作者 ： 望月 霞</font></p>
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> 目を開けると、ここは昔の日本のような場所だった。 ―― 一体どこなんだよ、ここ。 アタシをこ</font></p>
<p><font size="2">んなワケのわかんねぇ場所に連れてきた奴、ちょいと表へ出ろっ！！ そのツラを貸せっっ！！！</font></p>
<p><font size="2"> 「あれ～？ めっずらしいなぁ。 君、どこの子～？」</font></p>
<p><font size="2"> と、ものすっごいのんびり口調で話しかけてきた、今時和服を着ている男の子。ちょうどよかった、</font></p>
<p><font size="2">この際年下でもかまわない。 ここはどこの田舎町なのかを聞こう。</font><font size=
"2"> </font></p>
<p><font size="2"> 「あっ、また幽体離脱とかしちゃった子なのかなー？ 最近多いらしいんだよ～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> と、アタシが聞く前に話し始めた男の子。 な、なんつーマイペースな子なんだろう……。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そうそう、おれは加阿羅 （カーラ） って言うんだ～。 よろしくね～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「はっ、えっ？？ カ、カ？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「だから、加阿羅だってば～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「カーラ君？？ 珍しい名前だね」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「まあね～。 ところで君、人間でしょ～？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そ、そうだけど……。 ところでさ、君いくつ？ アタシのほうが年上だと思うんだけど」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「年齢？ あー、覚えてないなぁ。 でも、君よりは長く生きてるのは確かだよ～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> うそこけ。 どこをどう見たって１３か４ぐらいの子じゃないか。 背は標準より高いかもしれないけ</font></p>
<p><font size="2">ど。 体もがっちりしてるし。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「あ、そうそう。 もうそろそろ夜明けだからさ～。 帰れるんなら帰ったほうがいいよ～。 ここ、物</font></p>
<p><font size="2"> 騒だからさ～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2">「いや、帰りかた教えて欲しいな。 気がついたらここにいたんだよ、アタシ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2">「う～ん、それは困ったねぇ～。 おれじゃあどうしようもないよ～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> ちょっとカーラ君、大してそう思ってなさそーな口調で言うなよ。こっちゃぁ死活問題に近けぇんだっ</font></p>
<p><font size="2">つーの！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あっ、そうだ～！」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、何かを思いついたような彼。特に何もしまっていなそうに見える日本刀の近くを、まるでストラッ</font></p>
<p><font size="2">プを探すように手が動いている。 ―― ん？ に、日本刀っ！？</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「帰せはしないけど、しばらくおれの傍にいたほうがいいよ～。 これ飲んでもらえれば、体が縮む</font></p>
<p><font size="2"> からさ～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ちょっと待てって！ それ何！？ 日本刀だよなっ！？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そうだよ～。 あ、大丈夫だって。 君を斬りつけたりはしないから～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「当たり前だろーが！ 大体、なんで君みたいな少年が持ってんだよ！？ そんな物騒な</font></p>
<p><font size="2"> モン！！」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「この世界じゃあ、武器持たないほうが変なんだよー。 術者ならまだともかくさー」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「は、はぁ……」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> やっべ、マジでワケわかんなくなってきた。 何なんだここは本当に！？</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あ～、安心してよ～。 おれと一緒にいれば大丈夫だから～！ こう見えても、下手な奴より強い</font></p>
<p><font size="2"> んだよ～？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> ごめん、カーラ君。 信用しないわけじゃないけど、状況が状況だからさ……。 しかも、何を下手</font></p>
<p><font size="2">な奴と言ってるのかもわかんねーし……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「う～ん……。 わかった、君を信じるよ。 で、それを飲めばいいんだね？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「ありがと～。 そうそうさっきも言ったけど、体が小さくなるから。 でも、おれと逸れることがなくな</font></p>
<p><font size="2"> るから大丈夫～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ゴクン、と、女の人の小指ぐらいと思われる大きさのビンの中身を飲み干した後に、アタシはその</font></p>
<p><font size="2">言葉を聞く。 え、な、何？ 体が小さくなるって ―― ！？</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> シュゥルルルル。 効果音的にはこんな感じだろうか。 ほんのり甘い謎の液体を言われたとおり</font></p>
<p><font size="2">の動作を行ってなくした直後、彼がだんだんと大きくなっていった。 いや、その彼が、かがんでアタ</font></p>
<p><font size="2">シを手のひらに乗せるように差し出す。 しゃがみこんだ、ってことは、アタシの視線が低くなったっ</font></p>
<p><font size="2">てことで……！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ごめんね～、おれこれから見回りをしなきゃなんなくてさ～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と言いながら、手をゆっくりと動かし、近くにあった石の上へと移動。 彼はそのまま、アタシに１回</font></p>
<p><font size="2">降りるように言う。 ちょ、ちょっと！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「安心してよ～。 ちゃんとジジの元に連れて行くから～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、話す彼。 うーん、どうやらこれから何処かに行かなければならねぇようだ。 まあ、仕方ないだ</font></p>
<p><font size="2">ろう。 アタシのほうが予期せぬアクシデントだしな。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 手ぶらになった彼が何をするのか見ていると、アタシがいる場所から少し離れたところに立った。</font></p>
<p><font size="2">そ</font><font size=
"2">の後はゆっくりと目を閉じ、少し唇を動かしたかのようにも見受けられる。 すると、不思議なこと</font></p>
<p><font size="2">に、</font><font size=
"2">周りからそよ風が起こり、カーラ君を包み込んでいく。 覆った風たちは、だんだんと勢いを増</font></p>
<p><font size="2">し、しまいには一時的に強い台風のような感じになった。 しかし、やみ終わった後にはその中心に</font></p>
<p><font size="2">いるはずの人はいなく、どういうことか老緑 （おいみどり）色の ―― カラス？ だろうか。 そんな風</font></p>
<p><font size="2">貌の鳥がいた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> しかもその鳥、アタシを食事と勘違いしたのか、こちらに近づいてくるじゃねぇかっ。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あ、おれだよ～、加阿羅だよ～。 飛びながら詳しいことを話すから、とりあえず乗って～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「はっ？ カ、カーラ君……なワケ？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “うん。 大丈夫、振り落としたりしないから～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> いや、そうじゃなくてよ……。 何だろ、この独特なペース。 不思議と逆らえないなぁ。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> あー、えっと？ ぶちぶち言ってもしょうがねーよな。 元々わけわかんねぇ場所なんだし。 あれ</font></p>
<p><font size="2">か、長いものには巻かれろってことか。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> そんなわけで、アタシは彼に従い乗せてもらうことにした。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> いろんなところを徘徊しているうちに、ここはアタシたち人間が暮らしている世界ではなく、何と “妖</font></p>
<p><font size="2">怪だけ” が住んでいる世界らしいことを聞いた！ そして、やっぱりというか、時たま迷子になる人も</font></p>
<p><font size="2">いるようで、大概は記憶を消して元の世界へと戻しているという。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “全部が全部じゃないんだけどね～。 利便上、表の世界って呼んでるんだけど、昔ながらの自然</font></p>
<p><font size="2"> が残っているところは少し紛らわしくて結界が張れないんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「へぇ～。 でもどんな風に？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “霊子の話をしたよね。 表世界で文明が発展してしまったところは、流れがひん曲がっちゃって</font></p>
<p><font size="2"> るんだ～。 逆に言うと、そこらは結界が張りやすいんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あ～、なるほどね。 その 『結界』
ってのは川でいう堤防かダムみたいなもんなんだろ？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “ん～、まあそんな感じかな～。 こちら側の策なんだけど、強制的に流れを変えて、お互いの世</font></p>
<p><font size="2"> 界を干渉させないようにしてるんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> ―― とまあ、こんな風に、簡単ではあるが色々と聞いている。 とはいうものの、アタシは別にこの</font></p>
<p><font size="2">世界に住むわけじゃないので、軽い知識程度にとどめてあるが。 それは、カーラ君も無言で承知し</font></p>
<p><font size="2">てくれてたらしい。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font><font size=
"2">そうそう、今アタシたちが回っているところは、霧生ヶ谷市というところだ。 まあ正直、関東から出</font></p>
<p><font size="2">たことのない自分には地名程度しか知らないけどな。 その場所の裏の世界であるところを今、見</font></p>
<p><font size="2">回っている途中なんだと。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “おれは空から見てるし、何回も回るからそんなに大変じゃないんだよ～”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そうなの？ けっこー広いじゃん？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> “ああ、それはたぶん視界の問題なんじゃないかな～。 ほら、陸路より空路のほうが開けてるか</font></p>
<p><font size="2"> ら～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「はぁ～、なるへそな」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “さて。 １回目は終わったから、そろそろ戻るよ～。 しっかり捕まっててね～”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ってことは、また後にも回るのか。 それはゴクロウ ―― と思っているところに、いきなしスピード</font></p>
<p><font size="2">をあげ、どこかに向かって行くじゃねぇかっ！！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “結界破るから、ちょっと我慢してね～”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 早く言えよ！ そういうこたぁっ！！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 体感速度を述べると、この体では、普通のジェットコースター以上の速さで平行線に飛んで行く気</font></p>
<p><font size="2">がする。 文句をこれ以上の口調で言いたい考えもあるが、それは後ほどに回し必死にしがみつく。</font></p>
<p><font size="2">そして極めつけ。 終着点に着いたのか、今度は、獲物を狙うがごとくの角度になりそのまま急降</font></p>
<p><font size="2">下。 </font><font size="2">ひぃぃ、殺す気かよっ！？</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “ごめんごめん。 結界はもう抜けたから、後は地に降り立つだけだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ゆ、ゆっくりで頼むって……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あはは～。 もちろんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> と言いつつも、なぜか楽しんでるし。 あー、妖怪といえど、やっぱ中身は少年なんだかね？</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 何だかんだで、東の空にはひょっこりと太陽が顔を出していた。 ……実際、東西南北なんて、す</font></p>
<p><font size="2">ぐにゃあわからねぇけど。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 彼の言うとおり、速度が落ちたので、落下しない程度に地上へと目をやった。 何かの信号だろう</font></p>
<p><font size="2">か、</font><font size="2">下からは何かに反射した光が見える。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あ～、ジジの頭が見える～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> あれ頭なのかよっ！？ うわっ、まぶしいっ……！ って、言っていいのかな。 いや、本当によく</font></p>
<p><font size="2">見えるんだけどよ……。 常識を考えて、内の中だけにしておこう。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> そんな考えを持っていた最中に、どうやら地面へと向かっていたらしい。 アタシの視界には、大き</font></p>
<p><font size="2">い翼が２枚入ってくる。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「――
ん？ 加阿羅、どちらさんを連れておる？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “こっちに迷い込んじゃったみたいなんだよ～。 ああ、そういえば君の名前聞いていなかったよ</font></p>
<p><font size="2"> ね～。 </font><font size="2">なんていうの？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あー、そうだったね。 かえで、藜御 楓
（あかざみ かえで） っていうんだ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “楓ちゃんっていうんだ？ そっか～。 それじゃあ、楓ちゃん。 ちょっと降りてもらえる～？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> おいこら。 個人的には別にいいんだけどよ。 ハナっから年上を “ちゃん” 付けで呼ぶ奴がある</font></p>
<p><font size="2">か。 しかも、またマイペースにさっきと同じ要領でまた人間に戻りやがったし。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ふぅん……。 まあ、あらかたのことは俺の能力でわかったけど」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「そうー？ なら後で楓ちゃん交えて話そうかー？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そうしたんだが、俺も忙しいんだ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ま～、ヒマ人じゃあないよね～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> と話しながら、お互い帯刀を抜き、なにやら構えている ―― って、アレ！？ さっきじーさんがい</font></p>
<p><font size="2">たのに何で若いにーちゃんがいるんだっ！？</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「多少時間がずれてしまったが、今日は剣を中心にするぞ。 準備はいいか」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「いいよ～。 大丈夫～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「よし。 んーじゃ、そこのお嬢さんの薬の効果を解くぞ。 その後はお前が結界を張れ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「りょうかーい」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> おいおいおい、何か説明してくれって！ 緊迫した状況だから、何も口に出せねぇしよ！！</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「安心しろよ、楓ちゃん。 ちゃんと後で加阿羅に説明させるから」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と言われてしまう。 あんの赤毛ヤロウ、何をどう解釈すれば安心できんだっ！！ もう少し納得で</font></p>
<p><font size="2">きる言葉を紡ぎやがれっ！！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> だが、そう思うもむなしく、奴らは剣の修行と言い表せる行動を、数時間以上にわたって繰り広げ</font></p>
<p><font size="2">るのだった。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 今の時間、お天道様がよい具合に真上にいる時刻だ。 ということは、昼時に当たるだろう。 そ</font></p>
<p><font size="2">の刻限になってようやく、彼らの斬り結びが終わりを告げた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ちなみにアタシはというと。 カーラ君が張った結果とやらの中に、ずっと身を潜めていた状態で</font></p>
<p><font size="2">あ</font><font size="2">る。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「まあまあか。 なんだか最近冴えんぞ、何かあったか」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そー？ 特に何もないけどなぁ～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「……ふむ。 まあいい、そのうちはがれるやも知れないしな」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ジジ、もしかして不機嫌だったりするー？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「いや？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「そー？ ―― んじゃ、また後でね～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ああ。 そうそう、楓ちゃん」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> と呼ばれ、少し飛んでいた意識を元に戻した。 ずっと座っていたわけじゃあなかったんだが、真</font></p>
<p><font size="2">剣同士の訓練なんて見れるもんじゃない。 あまりに物珍しく、見入っちまったのだ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「腹減ってないか？ 大丈夫だとは思うが、もし何か食べたくなったらいつでも加阿羅をこき使って</font></p>
<p><font size="2"> いいから」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「は、はぁ……」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「うん、よし。 じゃあ、ふたりとも。 また後で」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> フッ、と、言い終わるとほぼ同時に姿を消す。 あ、あれ、一体どうなってんだ？？</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「あー、ジジね。 術で家に戻ったんだよ～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「はっ？ ジュツ？？ 陰陽術とかいうのか？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「うーん、似たようなものだけど違う～。 そうだねぇ、君たちの世界でいう 『魔法』 でいいんじゃな</font></p>
<p><font size="2"> いかな～。 ちゃんと理にかなった魔法～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> いや、魔法も存在してねぇから。 きっとゲームやる奴じゃないとわからねーから、それ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「とりあえず、午 （うま）
の刻が終わるまで休憩時間だからさ～。 ゆっくり話そうか～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ……えーと？ ここの環境から見て、おそらく十二支で時間を言ってんだな。 ね、うし、とら、う、</font></p>
<p><font size="2">たつ、み、うま、だから、大体１２時か１３時のどちらかだな。 場所や歴史によって多少ずれるが、</font></p>
<p><font size="2">どちらかは間違いないだろう。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ああ、そうだ。 午後１時ね～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「始めからそう言ってくんないっ？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ごめんごめん～、ついつい～」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 一生懸命考えたのに。 まあいいだろう。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> だが、彼は今しがた修行を終えたばかりだ。 あまり疲れさせてもかわいそうなので、軽く世間話</font></p>
<p><font size="2">まがいをした後はほとんど口を開かないようにした。 また後で色々と聞かせてもらうけどな。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 会話が途切れた後は、軽く昼寝でもしていたのだろうか。 いささか元気を取り戻した様子のカー</font></p>
<p><font size="2">ラ君は、再び鳥になり、視察を始めた。 もち、アタシも同行している。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “でもさ～。 この地方に住んでないのに、よくこっちにこれたよね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ンなこと言われてもなぁ。 アタシだって知らねぇし」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あはは～、だよね～。 うーん、でも何でだろう？ 特に霊力が高いわけでもなにのなぁ～。 環</font></p>
<p><font size="2"> 境破壊が問題なのかな～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「何？ レイリョク？？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “簡単に言えば、術を使うために必要な力のことだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「へぇぇ……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> と、他愛もな ―― くはない会話をしているうちに、他の小鳥たちが一緒に並びだした。 うわ～、</font></p>
<p><font size="2">不思議な光景だよ……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “捕まってて。 奴らがこっちに来るから”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「げっ！？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> いい、一体何が来るんだ！？ 妖怪かっ、妖怪が来るのかっ！？</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> だが、さすがは慣れているな、と賛辞を送るべきだろう。 彼は即座に攻撃をし、あっという間に撃</font></p>
<p><font size="2">破したようだった。 こちとら、何が起こったのかまったくわからない。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「なな、何が来たの？？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “ん～、怨鬼 （おんき） っていう最下位クラスの物の怪だよ～。 たいしたことないよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「も、もしかして、さっきの小鳥たち？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “ううん、あれはただの鳥だよ～。 姿が見えない、小人に小さな羽根がはえた奴なんだ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「よ、よく見えたね……。 アタシなんかさっぱりだよ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あははは～、そりゃまあね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> た、確かその怨鬼から怨霊、それに妖怪の順で強くなるんだったっけな。 つーことは、のほほん</font></p>
<p><font size="2">とした顔を持つカーラ君、実はけっこう強かったりするんだよなぁ。 人は見かけによらねーな、やっ</font></p>
<p><font size="2">ぱり。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ちなみに今どうやって倒したんだ？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだねぇ～。 その怨鬼、小蝶蘭 （こちょうらん） って言うんだけど、そいつに翼に力を送って</font></p>
<p><font size="2"> 強化したのを当てたんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> ……ちっとも理解できないが、羽に力を入れて体当たりした、と要約しておこう。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 一度軽い災難に遭いはしたが、それ以降は別になんてこともなく今に至っている。 現在の時刻</font></p>
<p><font size="2">は、大体おやつを食って休んでいる時間帯だろう。 西らしき方角に、日が傾いてきていた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだ～、昼時に兄妹がいるって言ったでしょ？ これから顔合わせるから、紹介するよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「おー、そりゃ楽しみだよ。 ええっと、確か下に３人いるんだっけ？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだね～。 まあちょっと時間ないから、あまり詳しく話せないんだけどね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「時間がない？ 何か予定でもあったのか？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そういう意味じゃないんだけどね～。 集まった後はすぐに実戦演習に入っちゃうし、人間のよう</font></p>
<p><font size="2"> な兄妹でもないって説明ができないってこと～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ああ、まあその辺は仕方ねぇって。 そうでなくても、面白い世界に関われたと思ってるしな」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “本当～？ そう言ってくれるのはうれしいなぁ！ あ、でも、ジジの前では言っちゃダメだよ～？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「何で？ 別におかしなことじゃないだろ」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうなんだけど～。 調子づいちゃってどうなるかわからないからさ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 危険人物なのか、あのじーさんは……。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 中級ぐらいの注意を受けながらも、彼が目指していた目的地へと着いたようだ。 今度は結界が</font></p>
<p><font size="2">なかったのか、緩やかな傾斜を描きながら降りて行く。 そこには既に、カーラ君と同じぐらいの年頃</font></p>
<p><font size="2">をした少女と少年、それと小学４年生ぐらいの男の子がいた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あれ？ 加阿羅、その方は？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “楓ちゃんっていうんだ～。 苗字は藜御だって～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「それもだけどよ、どうして人間がここにいんだ」</font></p>
<p><font size="2"> “さあ～。 彼女もわからないんだって～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、兄妹同士の会話をしながら、アタシたちは元の姿に戻る。 だが、アタシの見た目にビビってし</font></p>
<p><font size="2">まったのか、一番幼い弟君が姉である女の子の後ろに隠れてしまった。 うーん、まあ、子供にゃぁ</font></p>
<p><font size="2">おっかないかもしれねぇな……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あー、大丈夫だよ加悧琳 （カリン） 。 この子、一見怖そうだけど、話すとそうでもな」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font></p>
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt; text-indent: 21.25pt"><font size=
"2">ガショーン！</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> 「い、痛いよ～！ 何するの～っ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「初対面の人に何てこと言うのよっ！！ ああもう、すみません。 そんなことありませんから、気に</font></p>
<p><font size="2"> なさらないでください。 この子、ちょっと人見知りなところがあるだけなんです」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あ、あ～いや、お構いなく……。 はい……」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、カーラ君が妹さんの持っていた錫杖 （しゃくじょう） で殴られてしまった。 どうやら唯一の女の</font></p>
<p><font size="2">子なだけに、相当しっかりしているらしい。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 彼女と同じぐらいの背を持つ男の子はというと、慣れているのか、少々呆れ顔で見守っていた。</font></p>
<p><font size="2">だが、気を取り直したのかアタシの視線に意識が向いたのか、こちらへと歩いてくる。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「えーっと、確か楓、だったよな。 あんた、オレたちを見て何とも思わねぇのか？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「何ともって、何を思えばいいんだ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「んー、気持ち悪いとか不気味だとかか？ 人間の感覚自体がわからねーから何とも言いようが</font></p>
<p><font size="2"> ないけどよ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「別に？ 人型をしているせいかな、そんな感慨はわかないな」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ふぅん。 なら、これはどうよ？」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と言うやいなや、彼は目を瞑り、何かを呟きだした。 次の瞬間、男の子の周りに水蒸気らしきも</font></p>
<p><font size="2">のが集まりだし一瞬にして水柱を形成する。 それが天空へと消え去ると、以前あったような現象が</font></p>
<p><font size="2">起きた。 中心にいるはずの人物がまたいなくなっていたのだ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “詳しいことはともかく、ちょいと下を見てみな”</font></p>
<p><font size="2"> と、どういう理由か突っかかってくる彼の言葉どおりにする。 すると、さっきまでいなかったはず</font></p>
<p><font size="2">の、水色をしたカエルがいるじゃないか！</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> “加阿羅がカラスになれるように、オレはカエルの化身だ。 こいつらだって、それぞれの姿を持っ</font></p>
<p><font size="2"> てる。 それを見ても何とも思わねぇのかよ？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ……なるほど、どうやらアタシは試されているようだ。 もしかしたら、彼らの過去に辛い記憶があ</font></p>
<p><font size="2">るのかもしれない。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> だが、失礼ながらもアタシはその雰囲気を鼻で笑ってかき消す。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「あんたらは妖怪なんだろ？ なら目の前で他の姿になられても、なぁ～んとも思わねぇな！ もう</font></p>
<p><font size="2"> 何回も見てるし」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> カラスだろ、じーさんが若いにーちゃんになったりとかだろ。 と、指折りをしながら付け加える。</font></p>
<p><font size="2">この際、コチョーランとかいうのに襲われたことは却下しているが。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「ちょっと加濡洲 （カヌス） 、やめなさいよ。 失礼でしょ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> “あのなぁ。 失礼とかの問題じゃ”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「やめなって、加濡洲。伽糸粋 （カシス） の言うとおりだよ。気を使ってくれたのはありがたいけど」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> “―――
……。 ちっ。 まあいいけどよ”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、彼ら内の話が終わった後は、カヌス ―― だったかな。 そう呼ばれた男の子は、初めて見た</font></p>
<p><font size="2">ときの姿に戻る。 ふてくされた表情だが、ある程度は納得したらしい。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> そこに、まるで磨き石のように光沢を放つ、例のじーさんが現れた。 こ、この人、本当に唐突に</font></p>
<p><font size="2">出てくんな……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ふぉふぉふぉ。 加濡洲、そのお嬢さんの気性なら大丈夫だろうことぐらいわかっておろうに？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> ふぉふぉふぉっ、と笑いながら、審判をした子に向かって皮肉を言いつのる。 自分でもわかって</font></p>
<p><font size="2">いたのか、カヌス君は顔を真っ赤にしながら、じーさんをらみつけた。 ……そんな仕草が、ちょっと</font></p>
<p><font size="2">可愛いと思ったりして。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ほれ、加阿羅。 楓ちゃんに結界を張るんじゃぞ。 今日も加悧琳を中心に行うからの」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「りょうか～い」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> と、指示を受けたカーラ君は、午前中に行ったのと同じことをする。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font></p>
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font><font size=
"2"> それからはというもの。 どっから出したのか、じーさんがでっかいヒュドラを出したり、何の拍子も</font></p>
<p><font size="2">なく突風が起きたり、投げナイフが飛んでたり。 はたまた、炎がでたりヘビらしきものが出てきた</font></p>
<p><font size="2">り……。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> 完全に理解不能な世界が、目の前で繰り広げられていた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> ――――
これ、ホントーに演習なのか？ 一歩間違えたら死ぬじゃねぇかよ…………。</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> </font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> アタシにしてみれば、死闘とも取れる実演を済ませた後は、休憩を入れずに個人レッスンに入るよ</font></p>
<p><font size="2">うだった。 これもジュツという技なのか、じーさんが４人に分裂し、しかもそれぞれ異なった風貌をし</font></p>
<p><font size="2">ている。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> とりあえず、アタシは一番長くいるカーラ君のを見ることにした。 彼につくじーさんの容姿は、先と</font></p>
<p><font size="2">同じ若いにーちゃんである。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「そうだな。 今宵は守術 （しゅじゅつ）
を中心にするか」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「わかった～」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> と、本日の課題が決まったところで、早速準備に入ったようだ。 先生は目的のために動きがすば</font></p>
<p><font size="2">しっこいと思われる巨大ネズミを出し、生徒は持っていた日本刀をにーちゃんのほうに投げ、丸腰の</font></p>
<p><font size="2">状態になる。 その後は、ありもしないはずの帯刀部分に手をやり、何かを探り始めた。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「こいつを俺の攻撃から守るんだ。 動体視力もついて、お買い得だぞ」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「お買い得って表現が違うような気がするんだけどなぁ～……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> との突っ込みをいれつつも、カーラ君はにーちゃんの言う通りに何かをとなえ、デカネズミにかけ</font></p>
<p><font size="2">る。 それを確認したお師匠は、合図とばかりに動物の頭を軽くどついた。 すると、ネズミは驚いた</font></p>
<p><font size="2">ようで辺りを走り始める。 まるで、自らを狙う狩猟から逃げるような感じだ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 次の瞬間、獲物を狙うハンターと化した先生は、自前の太刀を用いて追いかけ始めた。 その様</font></p>
<p><font size="2">子を見た生徒は、いいつけどおりに弱者を、懐から出した道具らしきものと体術だろうか。 それら</font></p>
<p><font size="2">を駆使して動物保護に当たる。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="2"> その繰り返しが、深夜近くまで繰り広げられていった。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> </font></p>
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 個人授業が終わった後、カーラ君は３度目の見回りに体を動かした。 大体夕方前から今に至る</font></p>
<p><font size="2">まで、間髪入れずに動き続けているのだ。 タフもいいところである。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “この時間は、特に気をつけないといけないんだよ～。 おれたちはそうでもないんだけど、下の</font></p>
<p><font size="2"> 連中は動きが活発になるからさ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「あ～、何となくイメージできっかな」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そう～？ ところで、疲れてない？ ずっとこっちにいるけど～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「ん～、言われてみれば、少し眠いかもしんない……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうか～。 まったく、ジジったら修行中に頼んでおいたのに。 ごめんね～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 「いや、まだ大丈夫だって。 ところで、カーラ君こそ疲れてないの？ 何も食ってねぇし、寝てもな</font></p>
<p><font size="2"> いじゃないか」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “あ～、おれは平気だよ～。 基本的に妖怪って飲食しないし眠りもしないんだよ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「え゛！？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “だって、人間と違って実体がないんだからそりゃそうでしょ～”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> 「じゃ、じゃあ巡回が終わったあと何してんの？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “そうだね～。 おれは弟たちと遊んだり、ジジと一緒にお茶をしたりが主かな～”</font></p>
<p><font size="2"> 彼が言うには、大体午後１１時に先ほどの個人レッスンが終わり、その後約４時間に渡ってこうし</font></p>
<p><font size="2">て飛び続けているという。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> でも、次の休み時間をそのように使うなんて……。 気のせいじゃないだろーが、ジジくさいな、こ</font></p>
<p><font size="2">の子 ―――― ………。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> “楓ちゃん？ 大丈夫～？”</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 「――― ……」</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size=
"2"> “あっ、もしかして戻ったのかな～？ ふふ、おやすみ、楓ちゃん。 よい夜を”</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> ＊ ＊ ＊</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「ん、んにゃ……？」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> 気がつくと、自分の部屋だった。 何の変哲もない、普段どおりの部屋だ。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt"><font size="2"> 「あ、あれ？ 夢だったのかな……」</font></div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> んー、まあいいか。 よくわからねぇけど、けっこう楽しかったしな。 きっと、子供が夢の世界に紛</font></p>
<p><font size="2">れ込んだような感覚って、あんな感じなのだろう。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> </p>
<p><font size="2"> </font><font size="2"> アタシ ――
いや、私は今日も学校へ行く。 もしかしたら、今日は何かあるかもしれないな。 別</font></p>
<p><font size="2">にいつも通りでよいんだけど。</font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p> <font size="2"> </font></p>
</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">
<p><font size="2"> 私は、こんな不思議な朝にしてくれた妖怪たちに対して、再び夢の中であるかも知れない彼らに対</font></p>
<p><font size="2">して、何とも言いようのない感情を抱だきながらドアを開けたのだった。</font></p>
<p> </p>
<p> <a href=
"http://bbs15.aimix-z.com/mtpt.cgi?room=kansou&mode=view&no=93">感想BBSへ</a></p>
<p> </p>
</div>
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