「けれどほんとに」(2008/03/28 (金) 23:04:55) の最新版変更点
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<p>「けれどほんとに」 作者:せる</p>
<div style="line-height:2em;" align="left">
<p>「ねぇねぇしってる? 今週の頭に知り合ったんだけどさぁ」<br />
「……フィアデルフィアスタンレー? だれそれ、どこの芸能人?」<br />
「いや、芸能人じゃないけど。つーか人じゃないんだけど。亀だけど。アレはすごいよ、大物だよ」<br />
「は? もしもーし、はろー、大丈夫? リアル見えてますか?」<br />
「失礼ねー、別にいいじゃん、亀が喋ったって。それとも何、亀は日本語を解する自由もないっていうわけ!?」<br />
「いやしらねーし、亀に日本国憲法を適応していいかどうかとか。というかいきなりキレられましても」<br />
ひどい会話に頭痛がする。なまじ知っている分常識に縛られているわたしは、この手の話が苦手だ。<br />
「……亀が喋るとか、ありえないでしょーが。現実見なさいよ、まったく」<br />
大声で思いっきり突っ込みたくなる衝動を、わたしは意志の力でねじ伏せた。せめてもの抗議に、誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいておく。<br />
「なあおい、きいたか? 出たってよ、昨日」<br />
すると、まるでそんなわたしを嘲るように別の声。その形式だけで、続く言葉の信憑性を怪しんでしまう己が悲しい。<br />
「ああ、アレだろ、杉山さん。俺見たことないんだよなー。なんか今回は、C組の小山が雑巾にされたらしいけど」<br />
「は? 杉山さん? 元極道で今は用務員のじいさんか?」<br />
「え、ちげーの? つーか杉山さん知らないって。まじ、三次元生きてるとはおもえねぇ。駄目じゃなーい?」<br />
杉山さんってアレか、いつかサトルがぼやいてた白い爺さんのことか。<br />
霧生ヶ谷版の口裂け女みたいなものかしら、と思ったところで、幼馴染のいけすかない女を想像した。どっちかというと、そっちのほうが適役っぽい。<br />
(知り合いに都市伝説がいるんですぅ、ってか……?)<br />
いやなことを考えた瞬間、わたしの思考を呼んだように地続きの会話が聞こえた。<br />
「うっせぇな、つーかその杉山さんじゃねぇよ、吸血鬼だ吸血鬼」<br />
「あー、なんか結構前にあったなそれ、紺色コートの吸血鬼ってやつだろ? 結構可愛いらしいけど」<br />
自分の人生にリアルが見出せなくってくる。ああ、だからそういう話をわたしに聴かせるなって。<br />
俺も会えねーかなー、なんて悠長な声が憎らしかった。指で弾いてやろうか。たぶん完全犯罪にできる自信があるんだけど。<br />
「それもちげぇってか、合ってるけど古い。一番新しい吸血鬼はアレだ、男子生徒ばっかり襲う辛党らしい」<br />
「吸血鬼の趣味趣向にどんな意味あんのか知らねぇけど、なに、俺たち標的? フラグか、フラグなのか?」<br />
「俺もそれを期待したが、残念――野郎らしい」<br />
「ありえねえ!」<br />
(ダメだ)<br />
我慢できず、計画を実行した。パチン、というササヤカなわたしの抗議。声が聞こえていたあたりが俄かに騒がしくなる。<br />
そりゃいきなり人一人が半回転して椅子に転げ落ちれば、話してた相手はさぞ驚くでしょうね。<br />
「どうしたおい! 忍法か? 忍法なのか!? すげぇなー、俺にもやり方教えてくれよ!」<br />
……。りぴーと、わんすもあ。<br />
ご希望のようだったのでもう一度指を弾いた。騒ぎが激しくなるが、無視。知らない知らない。下手人は風の妖精です。<br />
「どうしたのー? ハルちゃん、顔怖いよ?」<br />
「乙女に向かってなんてこというのよ、っていうか怖くないわよ」<br />
「えー、でも、怖いよぅ?」<br />
(えぇい、黙りなさいこの天然娘め)<br />
もし本当にそうだとしても、本人の前で怖いとか言うんじゃないっていうの。<br />
若干リアルに傷ついた内心から意識を逸らす。わたし、実は凶暴なんじゃ? なんて洒落にならないことで悩みたくはない。<br />
尤も、と無意識に言葉が口を突いて出た。<br />
「……信じたくないわたしがオカルト側なんて、ほんと」<br />
「うん? ハルちゃんなにか言った?」<br />
「きのせいでしょ、それよりそろそろ移動するわよ」<br />
投げっぱなしの口調で誤魔化してみる。<br />
ああ、けれどほんとに、<br />
「世知辛い世の中だわ」</p>
</div>
<p>「けれどほんとに」 作者:せる</p>
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<p>「ねぇねぇしってる? 今週の頭に知り合ったんだけどさぁ」<br />
「……フィラデルフィアスタンレー? だれそれ、どこの芸能人?」<br />
「いや、芸能人じゃないけど。つーか人じゃないんだけど。亀だけど。アレはすごいよ、大物だよ」<br />
「は? もしもーし、はろー、大丈夫? リアル見えてますか?」<br />
「失礼ねー、別にいいじゃん、亀が喋ったって。それとも何、亀は日本語を解する自由もないっていうわけ!?」<br />
「いやしらねーし、亀に日本国憲法を適応していいかどうかとか。というかいきなりキレられましても」<br />
ひどい会話に頭痛がする。なまじ知っている分常識に縛られているわたしは、この手の話が苦手だ。<br />
「……亀が喋るとか、ありえないでしょーが。現実見なさいよ、まったく」<br />
大声で思いっきり突っ込みたくなる衝動を、わたしは意志の力でねじ伏せた。せめてもの抗議に、誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいておく。<br />
「なあおい、きいたか? 出たってよ、昨日」<br />
すると、まるでそんなわたしを嘲るように別の声。その形式だけで、続く言葉の信憑性を怪しんでしまう己が悲しい。<br />
「ああ、アレだろ、杉山さん。俺見たことないんだよなー。なんか今回は、C組の小山が雑巾にされたらしいけど」<br />
「は? 杉山さん? 元極道で今は用務員のじいさんか?」<br />
「え、ちげーの? つーか杉山さん知らないって。まじ、三次元生きてるとはおもえねぇ。駄目じゃなーい?」<br />
杉山さんってアレか、いつかサトルがぼやいてた白い爺さんのことか。<br />
霧生ヶ谷版の口裂け女みたいなものかしら、と思ったところで、幼馴染のいけすかない女を想像した。どっちかというと、そっちのほうが適役っぽい。<br />
(知り合いに都市伝説がいるんですぅ、ってか……?)<br />
いやなことを考えた瞬間、わたしの思考を呼んだように地続きの会話が聞こえた。<br />
「うっせぇな、つーかその杉山さんじゃねぇよ、吸血鬼だ吸血鬼」<br />
「あー、なんか結構前にあったなそれ、紺色コートの吸血鬼ってやつだろ? 結構可愛いらしいけど」<br />
自分の人生にリアルが見出せなくってくる。ああ、だからそういう話をわたしに聴かせるなって。<br />
俺も会えねーかなー、なんて悠長な声が憎らしかった。指で弾いてやろうか。たぶん完全犯罪にできる自信があるんだけど。<br />
「それもちげぇってか、合ってるけど古い。一番新しい吸血鬼はアレだ、男子生徒ばっかり襲う辛党らしい」<br />
「吸血鬼の趣味趣向にどんな意味あんのか知らねぇけど、なに、俺たち標的? フラグか、フラグなのか?」<br />
「俺もそれを期待したが、残念――野郎らしい」<br />
「ありえねえ!」<br />
(ダメだ)<br />
我慢できず、計画を実行した。パチン、というササヤカなわたしの抗議。声が聞こえていたあたりが俄かに騒がしくなる。<br />
そりゃいきなり人一人が半回転して椅子に転げ落ちれば、話してた相手はさぞ驚くでしょうね。<br />
「どうしたおい! 忍法か? 忍法なのか!? すげぇなー、俺にもやり方教えてくれよ!」<br />
……。りぴーと、わんすもあ。<br />
ご希望のようだったのでもう一度指を弾いた。騒ぎが激しくなるが、無視。知らない知らない。下手人は風の妖精です。<br />
「どうしたのー? ハルちゃん、顔怖いよ?」<br />
「乙女に向かってなんてこというのよ、っていうか怖くないわよ」<br />
「えー、でも、怖いよぅ?」<br />
(えぇい、黙りなさいこの天然娘め)<br />
もし本当にそうだとしても、本人の前で怖いとか言うんじゃないっていうの。<br />
若干リアルに傷ついた内心から意識を逸らす。わたし、実は凶暴なんじゃ? なんて洒落にならないことで悩みたくはない。<br />
尤も、と無意識に言葉が口を突いて出た。<br />
「……信じたくないわたしがオカルト側なんて、ほんと」<br />
「うん? ハルちゃんなにか言った?」<br />
「きのせいでしょ、それよりそろそろ移動するわよ」<br />
投げっぱなしの口調で誤魔化してみる。<br />
ああ、けれどほんとに、<br />
「世知辛い世の中だわ」</p>
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