シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の2)

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タイトル:「路傍の花」

重い。
なにがひたすら重いのかというと、装備のことではない。
「金鹿の酒場」。
この店は初心者冒険者お断りの店である。霧生ヶ谷市で例えれば「下弦の月」のような店といえば通じるだろうか。ただ、酒を飲ますのではなく、冒険者に仕事を斡旋するのだ。キリコはアルコール中毒からは程遠い存在である。胃が四次元ポケットに繋がっているとアラトは確信を懐いている。
つまり、飲むだけ無駄だ。でも飲まずにはいられないらしい。
最初、円が使えると喜んだのも束の間、通貨単位は「エン」らしく、キリコの財布はいきなり用無しと相成る。とはいえもとからそんなに入っていない財布、気にすることもないだろうに……。

ここまで書くと察しのいい手合いなら既にお分かりだろう。
キリコは俄然やる気を出しちゃったのだ。
エトリアの町外れに「世界樹の裂け目」という迷宮への入り口がある。そこの第一階層の地図を作ってきてくれと、街を治める執政院でミッションを受け、意気揚々と降り立つ。
第一階層は「翠緑の迷宮」といい、この一階は執政院の統治下にある。この一階すら踏破できぬものは冒険者として認めないってわけだ。

パラディンである僕、アラトが先頭を歩き、続いてダークハンターのアンジェー、レンジャーのヒナコが横並び。
その後ろから颯爽とした自信満々の足取りでキリコが闊歩し、何処かおどおどした表情の我輩少女アクマロが続く。

森ネズミやシンリンチョウ、ひっかきモグラといった生物が襲い掛かってくる。「エネミーアピアランス」という水晶球を事前に渡されていて、「脅威存在」が近くにいると赤色に染まって教えてくれるありがたいものだ。
僕は前衛で敵を挑発しつつ、牽制。隙あらばスクラマサクスで殴る。
アンジェーはヘッドボンテージという鮮やかな鞭さばきで、怪物の頭を緊縛しては地面に引き摺り倒している。
ヒナコはウッドボウを構え、全力のパワーショット。TPというエネルギーが必要なのだが、あんましそういうことは気にせぬ性質らしい。キリコさんと馬が合うはずだ。
アクマロは最もお世話になっている。少なくともしょっちゅう瀕死になっている僕は回復魔法のキュアをかけてくれる「彼」には頭が上がらない。もっとも見た目はちんまりしたショートヘアの女の子なんだけど。
さて、キリコ。キリコといえば、ことわりが違う世界に来て、マッドな血が見事に炸裂した。「術式」というものがあって、冒険者手帳をよく面白そうに読んでいる。冒険者手帳というのは一人一冊ずつ配布された手帳で、その職業のイロハが経験を積むとちょっとずつ理解できるようになる代物だ。キリコは「氷の術式」と「雷の術式」を学び、後列からどかんどかんとでっかい花火をあげていた。

通貨を得るには怪物を倒して、そこから剥ぎとれる皮や牙やなんかを「シリカ商店」に持ち込むと買い取ってくれる。買い取った素材で新しい武具防具なんかも作ってくれる一石二鳥なお店だ。店主のシリカさんは露出過度で褐色の肌が目に毒なお嬢さんである。
で、そこで得た通貨をキリコは「金鹿の酒場」で「銘酒:金鹿の飼葉桶」に殆ど買えてしまった。第一階層の湧き水で作られるという口当たりのよい酒。それが僕の荷物の中に十数本。

用心深く休憩を取りながら、一階もほぼ制覇という頃、北西部に小さな広場があった。甘い花の蜜の香りで充満し、穏やかな草いきれ、クローバーでふかふかの地面。まさに楽園。
歩き疲れたキリコは「ここで休憩してかない?」と提案。満場一致で即了承。
そしてお約束の酒盛り。
「金鹿の飼葉桶」をヒナコとキリコがラッパ飲み。傍でかいがいしく世話を焼いているアンジェー。お弁当を作ってきたのだという。僕も美味しく頂く。アクマロは我輩、人の施しは受けぬと爪楊枝を加えてそっぽを向いている。
そして数時間。
へべれけ。僕もいつのまにか、アクマロもいつのまにか。キリコとヒナコはもはや言うまでもなく。アンジェーだけが警戒の目を怠ってはいなかった。
突如、「エネミーアピアランス」が激しく鳴動する。
三体の見たことのない毒々しい色合いの蝶々が迫ってくる。
大きく翼をたわめ、羽ばたかせる。燐粉で宙が煙る。
「マスター!」
一足飛びでキリコの前にアンジェーが飛び出し、吹き付ける燐粉からキリコを守った。「ま……スタ」アンジェーが言葉尽き、力尽きる。
一瞬で目が覚めた僕たちだったが、時すでに遅し。
四人とも毒燐粉の渦の中にいた。アクマロがキュアを必死になってかけている。もはや焼け石に水である。喉が焼ける。ヒナコが胸元を掻き毟って倒れた。アクマロが「不覚」と一言呟いて膝を屈する。キリコが「これでも食らえ馬鹿たれ~っ!」と氷の術式を立ち上げている。その声を聞きながら、盾を構えたまま、僕の意識は立ち消えた……。


目が覚めると全員「長鳴鶏の宿」にいた。
「アラトくん、目が覚めた?」
キリコが埋めていた冒険者手帳からひょいと顔をあげる。
「キリコさん、僕たち助かったんですか?」
「いや、死にました~。死んじゃった。無理無理」
「じゃ、どうしてこれは?」
「あたしたち、冒険の度に宿帳に記載してたでしょう。世界樹磁軸という力が働いて、時空間を複写して残しているみたい」
「それって……どういう?」
「あたしたちは『銀の鍵』でこの世界にきた。
きたけど、厳密に肉体ごと来たわけではないみたいなの。OTFが働いているんだと思う」
「OTF?」
「Objectified Thought Form。つまり思念形態の具象化って奴かな。ここにいるのはアラトくんであって名取新人くんではない。一種の分身なの。だから、思念形態が保存されている限りは何度でもリトライ可能。死にはするけど死にはしないってわけだ」
ヒナコが傍にきてふむふむと頷いている。アンジェーはかしこまっている。アクマロはそんなこと気付いておらぬかったのかお主らとおどろ線を背負っている。リンタロウは……冒険者ギルドに放置したままだっけ。

「とりあえずへべれけになるまで戦地で酒飲むの禁止!」
ズビッと天を指差すキリコ。
もはや誰も突っ込まなかった。

(続く)
Lv7:パラディン:アラト
Lv7:ダークハンター:アンジェー
Lv7:レンジャー:ヒナコ
Lv7:アルケミスト:キリコ
Lv7:メディック:アクマロ

Lv1:ソードマン;リンタロウ

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