シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

セカキュー日誌(其の11)

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タイトル「樹海のアクマロ」 

我輩は悪魔である。
名前はあるものの、真名を知られた悪魔に待つ運命は死よりも汚辱なる運命のみ。ではあるが、便宜上、アクマロの名に甘んじている。
故あって現在、我輩の生死を握るキリコとともに、面妖なる世界樹の迷宮とやらに足を踏み込んでいる。
己の力は過信はしておらぬ。
が、血が騒ぐ。
アッカドでパズスさまに仕えていた頃の沸々たる血肉のざわめきが我輩を死地へと誘う。

先日、「キリコのたて」面子は、地下八階の主である飛竜に愚かしくも挑み、そして風の刃で悉く切り刻まれた。
我輩らは死なぬ。
エトリアの地にとり、かりそめのマレビトにしか過ぎぬ我らは記憶を失わぬままの時間軸逆行という、かくも名状しがたいことわりの中に身を置いている。
我輩らにとり、好機は一度ではないのだ。
戦術の建て直しが効く。それが我輩らと、他のギルドを区別する明確でしかも超えようのない差だ。

「アマテラス」の面子の中には、あの氷のような殺気を上手く殺したレンとよく似たいでたちの者が幾名かいる。
ブシドーという。異国の剣士らしい。
ブシドーの一人、ギンコによると、我輩らも階層を潜ればやがて、その者らを仲間に加える資格を得るという。
そうなればどうなるか。
一人増えるということは、一人戦場から離れるものもいるということだ。
エトリアの地に眠るという財宝を手にする条件はどこのギルドも同じ、一律五名の集団で迷宮に挑まねばならない。
我輩は、エトリアの地で永らく眠らせていた戦場の空気を、死地へ赴く淫々たる快楽を総身に蘇らせてしまった。
己の身内に潜む灼熱を見つめたくなり、
そして、
我輩はいま、独り戦場に立っている。

危険も大きい代わりに成し遂げたら名声が上がるわ。
名声などいらぬ。

とても凶暴なクマで、冒険者から二つ名で呼ばれるほどの相手なの。
挑む相手に不足はない。
我輩にも油断はない。

地下六階層。いにしえの妖精たちが踊った森。
いまの我輩はちっぽけな少女の外観である。
この身体にもようやっと馴染んできた。足下が軽い。
鎖帷子のロリカハマタがシャラシャラ音を立てるが、我輩は特段に気配を消そうとも思わない。
短い前髪が風に煽られ、白いコートの裾が舞う。
早速、四対の翅音が上方から聞こえる。
あの黄色は軍隊バチか。まずはお手並み一戦。
魔物の尾骨と爪で作られたボーンフレイルを薙ぐ。
フレイルが自重を加え風を斬る。二撃。

キリコから借りたエネミーアピアランスの水晶球と、地図製作者であるアラトから借りた世界樹地図を頼りに、「森の破壊者」を探す。
我輩らはむろん、この「森の破壊者」と一戦どころか数戦交えている。しかしそれは五人総当りでだ。恐怖の咆哮で全滅しかけたこともある難敵。
だからこそ、我輩の腕がどの程度なのかを試すにはもってこいなのだ。朽ちれば我輩の力量が及ばなかったこと。悲しみ煩うことも無用なのだ。果ては樹海の緑に飲み込まれるまで。

地図に禍禍しい紋様が浮かび上がる。アラトの書き込みがそれを対象物だと知らせてくれる。
気負いはない。
「ヤァヤァヤァーッ! 
 我こそはアッカドの風と熱風の魔王、パズスさまの一騎士を勤めていた者で故あってアクマロと申す者。尋常にお相手せよッ!」
二足歩行で徘徊していた紫の肉塊が跳躍して我輩の前に姿を現す。狂猛さを示すが如くに鋭く長い爪が我輩の細い喉笛を切り裂かんと放射状に開く。
ヘヴィストライク。
軍隊バチを撃滅させた一撃とは初速も自重の加え方もなにもかも異なる。
リーフサンダルが樹海の土に食い込む。
全体重をボーンフレイルの先端一点に収束させ、
解き放った。
「森の破壊者」の右脇腹が奇妙にねじれる。
恐怖の咆哮? いや苦鳴だ。だが完全ではない。
鋭い爪が我輩の胸をかすめる。それは力なくロリカハマタの表面を撫ぜただけだ。
踏み込んだ足を真逆に入れかえ、再度のヘヴィストライク。
フレイルの柄に伝わる破壊音に我輩は勝利を知った。

金鹿の酒場。
「すごいわね! 本当にたった一人で、あの森の破壊者を倒したのね……でも、そんなことより無事に帰ってきてくれたことが嬉しいわ」
マスターが少し目を潤ませながら我輩を迎え入れてくれた。
見慣れた集団の一角に目を向ける。
「あーアクマロー、お帰りンさーい」
故あっての主、キリコは今日もベロンベロンである。
「キリコ、ブシドーの件だが」
「ああー、そのことね。うん大丈夫。アクマロをパーティーから外したりしないから」
「違う。ただいるのではない。
 我輩は前衛で死合いたいのだ。この依頼でよりその思いが深まったし確信も持てた」
「だからー安心しなってば」
アンジェーが若干気の毒そうな視線を我輩が気付かなかった酒場隅の「おどろ線」に目を向けている。
「アラト殿がどうかしたのか?」
「いやさー、どう考えてもうちのアタッカーはアクマロなのよ。で、面子的に将来ブシドーが加入することがあったとして、前衛に四人は無理よね」
アラトの背景が異次元めいた色彩に飲み込まれている。
「アラトくんをマッパーとして後衛に回したら問題ないじゃないのさ」
ねー! というキリコの声に酒場の隅でカナダライの落下音がしたが、それはいつもの如くである。

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