シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

番組予告?

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 番組予告? 作者:しょう

 霧生忍群と霧賀忍群は共に霧谷弾正を祖としながら、源平の昔より数百年互いに消せぬ憎悪を抱く不倶戴天の敵同士であった。戦国の世が終わりを告げた現在、13代目霧谷弾正の統制下、両門争闘の禁制によりかろうじて和平を保っていた。

 そのような中、ある出来事が危うい均衡を突き崩す。

 霧生忍群首領霧生将弦と霧賀忍群頭目霧賀天禅、両者の暗殺である。

 かくして、両陣とも全面対決も辞さない構えのまま睨み合い、霧谷弾正の仲介の元あるルールに従い決着をつける事となる。

 そのルールとは、両陣より選ばれた各七名の代表が霧生忍群の首領の証となる刀『破軍』と霧賀忍群の頭目の証である刀『武曲』を互いに奪い合うというものであった。

 霧生忍軍より選ばれしは、七刃『世離』『七綱』『五行』『匣箆』『仏之座』『鈴那』『鈴代』。

 霧賀忍群より選ばれしは、七妖『剥』『芒』『九頭』『撫子』『女郎花』『不治刃鎌』『奇鏡』。

 彼等は、血で血を洗う争いを最後の一人になろうと繰り広げるのである。

**

 昼休み、どうも風邪っぽいなと思った名取新人は保健管理室を訪れた。真霧間キリコ謹製のエリキシル(という名の栄養剤)を貰おうと思ったのだ。平気でそういうものを貰いに行く様になった辺り染まってきたなぁと思わなくもないが、郷に入っては郷に従えという事で考えない事にする。

 一応ノックをしてドアを開けると、煎餅をくわえたキリコがテレビを見ていた。画面の中では忍者が二人丁々発止のやり取りをしている。

 紺の装束に身を包んだ男が手にした巨大な鎌を地面に突き立てる。ズンッと大地が揺れ同時に、相対する忍者の周囲に在る霧が揺らめき、無数の刃が飛び出した。

 人呼んで霧賀妖術『霧限刃』。全周囲を完全に覆う刃に薄墨の忍び装束が掻き消される。紺の忍者―霧賀忍群七妖が一人『不治刃鎌』が唇を歪める。勝利を予感しての笑み、それが直ぐに不審げなものに変わる。手応えが硬い。血の甘い香りが霧に混じらない。ゆっくりと突き立てた鎌を引き抜く。刃が消えたそこにあるのは黒い繭、それが刃を悉く退けていた。

「霧生忍法『黒縄』」

 くぐもった声と共に黒く染められた縄が解ける。術を解いた霧生忍軍七刃が一人『七綱』が不敵に宣言する。

「次は俺の番だな」

 七綱の袖から数条の紅く染められた縄が迸る。迎え撃った不治刃鎌の鎌に蹴散らされる事なく、鎌の柄と不治刃鎌の腕にガッチリと絡みつく。

「ぬう……」

 何とか振りほどこうと足掻く。だが、鎌の刃はザリザリと耳障りな音を立てるだけで、縄に切り傷を入れる事さえない。焦る不治刃鎌に七綱は冷たく言い放つ。

「切れやしねぇよ。その鎌の刃はさっき『黒縛』で潰させてもらった。喰らいな。『赤縛炎上』」
 一瞬にして縄が炎へと変わり周囲のものを巻き込んで四散した。

**

「あれ、アラト君。どうしたの」
切り替わり、キリコが振り向いた。今まで気づかなかったらしい。もっとも新人も見入っていたのだから人のことは言えない。

「ちょっと体調がおかしいんで、エリキシルでもいただこうかと思いまして」

「もっと良い物あるわよ。この間出来たばっかりでまだ実験段階だけど」

 にこやかに極彩色の液体が入ったフラスコを揺するキリコ。動かす度に泡が割れ、得体の知れないピンク色の煙が上がる。答えは速攻、選ぶ必要もない。

「遠慮します」

「ヴゥゥ」

「ブーイングしても駄目です。それより、さっきの番組なんですか。えらく面白かったですけど」

「知らなかったっけ? ケーブルで流してる『霧生忍法帖』って言う時代劇よ。もし興味があるんだったらDVDも出てるし、読本なんかも出てるから読んでみたら」

「知りませんでした、と言うか、まさかケーブルテレビ局のオリジナルですか?」

「そうよ。ちなみに真霧間源鎧原作ね」

 まだ見ぬマッドサイエンティスト源鎧氏は多才であるようである。霊子アンテナの開発だけでなくドラマの原作にまで関わるとは。

 それとも、それ以前に恐るべし霧生ヶ谷ケーブルテレビ局だろうか。一地方のケーブルテレビ局が単独で制作したとは思えないクオリティだ。加入世帯数二十五万は伊達ではないのだよ、とはキリコの弁。

「じゃあ、帰りに本屋に寄ってみます」

「そーしてみなさい。きっと嵌まるから」

 そう言って戸棚から適当にエリキシルを持ち出した新人が退室するのを見送ってからキリコはキャビネットから古ぼけた巻物を取り出す。ちょっと困った顔をしている。

「いや、まさかオリジナルがあるとは思わなかったしなぁ」

 視線を明後日の方向に泳がせながら、ぽりぽりと頬を掻く。つまりはこういうことだ。

 祖父の書斎を魔
 番組がCMへと道書の一つでもないかと漁っていた時に手書きの本が出てきた。筆跡から判断するに源鎧が書いたものだと考えたキリコはワクワクしながら目を通し、それが小説じみたものであるのに祖父にそんな趣味が在ったのかと軽く驚いた。それも意外な事に面白い、で知り合いのプロデューサーが面白いネタを捜しているのを思い出して渡してみた。それが大当たり。来年には劇場版公開の計画も上がっているそうだ。

 そんな折、同じく祖父の書斎からひょっこり出てきたのが古文書じみたこの巻物という訳である。毛筆で、それもとても読めたものではない崩し字で書かれてはいるものの直接書き込まれている祖父の注釈から、『霧生忍法帖』の原本なのは間違いなさそうだった。

「紛らわしいもの作んないでよ」

 著作権やらなんやらでややこしい事になるー、と頭を抱え。ふっと清々しい笑顔を浮かべた。

「抹消しよう」

 クルクルッと捲いて部屋の隅のゴミ箱へ放り込む。後で焼却炉に持って行けば万事解決問題なしだ。

人それを現実逃避と言う。意訳すれば、あとは野となれ山となれ。

 前祝いーとばかりに『河童の溺れ水』を取り出して湯飲みに注ぐ。一息で空けると『ぷはぁー』と幸せそうに息をついた。

 一つだけキリコの推測を訂正するならば、手書きの本の内容は確かに原本を参考にはしているもののそのままではなく、あえて言うならば源鎧の翻案に近い。その証拠に物語の終わり方が異なり、原本では霧賀弾正と対峙した七綱と九頭が世離の最後の力を振り絞った秘術『時流剥離』に因って何処へかと飛ばされる所で終わっている。そして、警告しているのだ。いつか二人が現れた時、二振りの刀を狙う霧賀弾正も現れるだろう。これを目にした者はどうか二人の力になってやってほしいと……。

 もっとも、その警告を受け取るべき人物は今現在酒かっくらって管捲いている訳なのだが。

 それをキリコが悔やむ事になるのはもう少し後になりそうである。

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