シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

常世と夢幻の境目

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  常世と夢幻の境目 @ 作者 : 望月 霞

 

 

 

 またしてもアタシはよくわからん世界へと迷い込んじまったらしい。 最近我が身に何が起こっているのやら。 ケンカ以外は至って平凡に暮らしているというのに、まったく。
 よくわからん世界というのは、近ごろよく赴く ―― というよりは誰かに連行されているといったほうがよいのかもしれない。 その辺はともかくとして、アタシは少し前から異次元世界らしきところに飛ばされている。 そこは妖怪のみが住んでいる、いわゆる妖怪界のようなものらしい。 つまり、人間たちが地に足をつけている場所ではないのだ。
 だが、ここはそこともまた違う。 あちらには一応、木々や川、家といった風景があるが、こちらには一切ない。 しいて言うなら、前後左右360度すべて真っ白な光に包まれている、と表現しておこうか。 まるで、そこらじゅうに優しい感じのする蛍光灯があるかのようなのだ。
 とはいえ、どう対処したらよいのかもわからないので、とりあえず適当に歩いてみることにした。 すると、とある少年が目にはいる。 見たところ、アタシと同じぐらいの年頃だ。
 こいつぁラッキー! どうせ迷うなら誰か道連れにしたほうが心強いし楽しいしなっ。
 というわけで、アタシは何故か黒い紐を持っている彼に話しかけることにした。
 「すんませ~ん」
 「……はい? つうかどちらさま?」
 「いや、それを聞こうと話しかけたんだけど……」
 と、ねむいのかやる気がないのかわからないが、少しボンヤリとしている彼。 どうしようもなく重いらしいまぶたをこすりながら、再びアタシのほうをうかがう。 すると、今度はゲテモノを発見したかのように後ずさった。
 「なな!? あんただれ!? 何でこんなところにいるんだよ!?」
 「こっちが知りてぇよ! お前こそ誰なんだ」
 「俺? 俺は守谷 夢人、あんたは?」
 「アタシは藜御 楓ってんだ。 よろしく」
 「アカザミ カエデ……。 珍しい苗字だな、どうやって書くんだ?」
 という彼。 確かにこの人の言うとおり、珍しいかもしれない。 個人的にはよく聞かれることだったので特になんてことも思わなかった。
 とりあえず手の上に、草冠の下にのぎ偏と物の文字の右側のやつ書いてカサみたいなのをたしてこんなものもプラスして “アカザ”、“ミ” の部分は御用のゴの字、と説明する。 ちなみに、前半のこんなものとは水に似た部分のこと。 名称がわからないので適当に指で説明したのだ。
 数回同じ動作をした彼 ―― 守谷君は、頭に入れてくれたようで首を上下に同数の動きをする。
 お互いの自己紹介が終わったところで、ようやく本題へと移った。 議題は言わずもがな、ここにいる理由だ。
 「で? 藜御さんはなんでこんなところにいんの?」
 「呼びつけでいいよ、面倒くさいし。 それがわからないんだよ、以前行った場所とも違うみたいだし……」
 「あー、わかった。 ところで以前行った場所って?」
 「あいや、ごめん。 今の聞かなかったことにしてくれ。 どうにしてもわかんないわけ! この場所のことやいるワケもなぁんにも」
 と、アタシは大げさに両腕を投げ出してごまかす。 不自然な言動だったが、彼は彼であまり気にとめないことにしてくれたようである。
 ……まあ、口にしたって誰も信じやしねぇだろうけどな。 あいつらにだって話せないしよぉ……。
 そんなことを思いながらも、今度はこちらが同じことをくりかえした。 すると、意外な返答がやってくる。 何と、彼はこの場のことを何となくわかるというのだ。
 「確実じゃないけど、ここは誰かの夢の中だと思う。 この紐がどこにつながってるかわかれば答えが出せる……かな」
 「夢の中? 夢ってねてるときに見るあれのことだよな?」
 「そそ。 でもなぁ、俺はともかくなんであんたがいるんだろ」
 紐を眺めながら思案にふける彼だが、一部理解不能なところがある。 とはいえ、聞いてよいことなのかどうかもわからない。 この点ばかりは仕方がないので、一時保留ということにしておこう。
 何とも言いがたい沈黙が続いてしまった数分間後、とある童謡の替え歌のごとく白い壁が破られた。 そこからは、20代の女性とその妹さんだろうか。 前者の人は大股気味に殴りこみ、後者の子はおどおどとしながら入ってくる。 彼女たちの背後には、シャボン玉液体を黒い水に溶かしたかのようにうごめいていた……。
 ……明かりをつけましょ爆弾に~、ドカンと1発ハゲあたま~ ―― って違ぇ、歌ってる場合じゃねぇ。 つい現状に合わせちまった。
 そんな能天気な思考を追い出し、アタシは半ば近寄りがたい女性に声をかけようとした。 しかし、隣にいる守谷君に腕をつかまれ自分の頭をこれでもかと左右に振る。 どうやら、わけのわからない状況に脳みそが混乱しているようだ。
 「こんな現状下だ、味方は多いほうがいいじゃん?」
 「あのさぁ、せめて人を選んでくんない? どー考えたってここの壁をぶち壊すなんて人外じゃんか」
 「そんなこと言われたってなぁ。ここ自体そうなんだから別に驚きゃしねぇんだけど」
 うーん、彼の場合この環境にまいっているのではなく、あの女の人にそうなっているらしい。 謎の空間に多少なりとも理解のある彼は、アタシよりも落ち着いて判断ができるのだろう。
 ちなみに、アタシはこういった有様にはもう慣れっこになってしまって胆が座っているだけである。
 それはそうと、こちらが手をこまねいている間に、向こうのほうが気づいたようだ。壁らしきものを壊したのと同じ動作で、アタシたちに近づいてくる。
 「ちょうどいいところにいたわね! さあ、ここがどこなのか答えなさい!」
 「ちょ、いきなりだめですよぅ暮香さん。 すみません、暮香さんはいつもこうなので気にしないでください……」
 「ふっ、そういうことよ! わかったならとっとと答えなさい!!」
 いつもこうって……。 い、いや、ここはお利口さんになっておこう……。
 アタシたちは無意識に目を合わせるも、互いにくすんだ青い息しか出てこなかった。とはいえ、ここのことは誰であろうと知りたがると思い、知っている限りを話す。
 「夢の中ですって!? はっ、ということはあんたたち私の夢を盗み見しようとしているわけね!? そうはさせないわよ! 純情な乙女の心を持つ私の夢をのぞこうなんて、100万光年早いわっ!!」
 「それは距離の単位ですよぅ!」
 「知ったこっちゃないわ! さあ、もちろん覚悟はできてるわね!?」
 ジャキッ、と、どこから出したのかマシンガン ―― かっ!? 銃の知識はほとんど皆無なので名前があっているかはわからない。 がしかし、こんなわけのわからん場所で殺されるなんてまっぴらごめんである……!!
 「ちょちょ、ちょっと待ったぁぁぁっ!! 何でそんなモン持ってんだすか!?」
 「愚問ね! 私がアウトローライセンスを持ってるからに決まってんじゃないの!!」
 「んでこんな物騒な人物にあげんだよ日本政府はーっ!!」
 という守谷君の悲痛な叫びもむなしく、アタシたちはハチの巣の仲間入り寸前まで追い込まれた。
 ―― しょうがない、こうなったら女相手でも拳使うしかないか ――
 こう思ったのもつかの間、彼女たちの背後で別の悲鳴が聞こえた。 目の前にいる人の被害に巻き込まれたのかと視線を送ってみるが、どうも様子が違う。 何と、スーツ姿の男性がどういうわけかデスクトップ型パソコンの一式とその周辺器具、さらにはノート型のそれに追いかけられているではないか!
 そんな彼は、“いやだぁぁっ、カンベンしてー!”と、そのまま左横一直線に走り去ってしまう。
 ……よくわからない光景をアタシたち全員で見送っていると、今度は先ほどの男性を追うように馬が駆け抜けていくのが映った、の、だが ――― ……。
 「あら、おいしそうなキムチじゃないの!」
 「突っ込むとこそじゃないし!? 何で亀と漬物が馬なんかに乗ってんだよっ!?」
 「わ、私も知りませんよぅっ」
 「……あー、頭痛くなってきた。 っとと、そうだ」
 トントン、と、アタシの肩がなる。 振りむいてみると、守谷君が真剣なまなざしでうかがっていた。 その瞳は、一瞬だけ左に動くとまたすぐに戻り、それからお互いうなずきあう。
 そう、このおっかない人の注意がそれた今、逃げるチャンスが訪れたのである。
 足をしのばせながら、しかし早歩きで危険地帯から身を動かす。 だが、それはあっけなく失敗に終わってしまった。なぜかというと、どこから現れたのか巨大なUFOキャッチャークレーンがやってきてアタシたちを捕まえたのだ。
 「ふっ、この私から逃げようなんて1億兆年早いのよ!」
 「いったいどういう単位なんです!? 暮香さんだめですよぅ、かわいそうじゃないですかぁっ」
 「私に単位なんて関係ないわ!」
 成り立っているのかいないのかわからない会話を聞きながら、アタシたちは哀れなぬいぐるみのように彼女らの前に落とされる。 尻もちをついてしまったアタシは、部位をさすりながらも立ち上がる。 銃を何とかしなければならからだ。
 「ってあれ? 銃がない……」
 「弾切れだったのよ! 残念だったわね!」
 「もう何が何だか……。 何でUFOキャッチャーのアレが出てくんだよ……」
 「私の人徳に決まってるじゃないの! そういえばお腹すいたわね! 璃衣子、何か作りなさい!」
 「そそ、そんなぁ! 材料もないのにむちゃですよぅ」
 「しょうがないわね。 さっきおいしそうなキムチがいたじゃない! どこに行ったのよ!?」
 「そ、それなら向かって左側に行ったけど」
 「左ね! よし、そうと決まれば璃衣子行くわよっ!!」
 「ど、どこに行くんですかぁっ!?」
 「キムチを食べにいくに決まってるでしょ! ほらさっさとしなさいっ!!」
 「うわーん! 横暴ですよぉぉっ」
 と、璃衣子と呼ばれた女の子を引きずりながら、暮香さんという名らしい女性はものすごい足の回転で獲物を追いかけていった。 もしかしたら、ママチャリで走るのと同じぐらいかもしれない。
 「な、なんだったんだありゃあ……」
 「……アタシだって知らん。 ―― ん?」
 半分放心している各々だが、暮香さんに方向を教えた彼が目をぱちくりしていた。 同じ方角をうかがって見ると……。
 知りあいがいた。 しかも、この場に関係ありそうな、姿は年下の少年である。
 内容は次のようなもの。 セミロングの長さに水色の髪、今どき着ていない袖のない和服。 下は忍者が着るようなズボンにひざを覆っている重そうな金属製のブーツ。全体は細身だが、現代人より筋肉質であろう引き締まった腕。
 そう、遠目なので顔こそは見えないが、カヌス君だった。 目的地に向かっているのか、彼は走っては止まってを繰り返している。 まるで無根ループに迷い込んだかのような動きをしていた。
 「なんだろう、あの子。 和服なんて珍しいね」
 「だ、だね。 でも何してんだろ?」
 「さあ。 さすがにそこまではわからないけど。 でも息切れしてないみたいだからマラソンオタクなんじゃないの?」
 何だそのマラソンオタクって。 ニュアンスはわかるけど言葉おかしいだろーが。
 ま、まあ細かいことはこの際無視だ。 とりあえずアタシたちは、様子をうかがうことにする。
 時計の針をぐるぐる動かしている彼を見てから大体数10分がたったころだろうか。少年は突然ひらめいたように拳と開いた手を叩き合わせ、自分たちから見て奥の方角へと進んでいく。 その後、彼の姿は光と一体となり姿を消してしまった。
 「……もしかして迷ってたのか? カヌス君……」
 「えっ? 何君だって?」
 「あ、ごめん。 ちっと知りあいに似てたもんでさ」
 「さっきの子が?」
 「いややや! なんでもねぇってっ」
 バシン! と、ごまかすには少し痛そうな音を守谷君の背中にプレゼントした。 やはり強すぎたらしく、彼は体育座りをし背中を押さえている。 もちろん、アタシは素直に、悪ぃ悪ぃ、と謝った。
 このとき、彼が持つ黒い紐が出番を待っていたかのように産声を上げた。 何かに引っ張られたらしいそれは、徐々に鋭角の数字を上げていく。
 そのまま上昇していくのかと思いきや、黒紐は45度ぐらいの高さで止まった。 もう動かないことを確認した守谷君は、よっこいしょとばかりゆっくりと立ち上がる。
 「何で動いたんだ?」
 「さあ。 ただ、ようやく持ち主が現れたみたい」
 と、彼。 ふたつの線をたどっていくと、視力の弱い人には映りにくいだろうと思う距離 ―― 大体50m先に和服姿を拝見した。 だが、カヌス君らしき人物ではなく、純日本人と思われる女性である。
 彼女 ―― おそらくアタシと同じかそれより上の女の子は、ふとこちらを振り向いたが何事もなかったかのようにすぐ首を元に戻す。 しかし、その動作を何回も続けているので、誰かを探しているのかもしれない。
 とはいえ、それが彼とは限らないのだが。 それに、彼女は向かって右側にいる。 先ほど通りすぎたスーツ姿の男性や馬に乗った不明物体たちが向かった方向とはいるそれが違うし、カヌス君は奥のほうに走っていった。 そこを北とするなら彼女は東になるし、ほぼ逆方面である。
 「あのさ、話しかけて色々と聞いたほうがいいんじゃないか?」
 「―― いや、まだ様子を見ていよう。 たぶん誰かくると思う。 ……カンだけど」
 以前にも似たような境遇にあったのか、守谷君は慎重な考えを提示。 まだ首振りをやめていない女の子とみくらべ、アタシは彼に従うことにした。
 ……やがて、自分の足が休憩を求めてきた。 時間にしておそらく30分ほどだと思う。
 そこに、ひとりの男が例の女の子の前に現れた。 現れた、といっても幽霊のように全体が透けていて足元はほとんど見えない状態だし、彼女には背中を見せている。
 何かの意図でもあったのだろうか、男は徐々に姿に実線を伴う。 がたいがよすぎ、まるで長身の水泳選手みたいな広い背中。 髪は少し固めなのかはねていて、これまた長すぎるほど。 なびかなければゆうに地面を引きずりそうな緑色をしている。 しかもまた和物の装いだ。 あげくの果てに、左腰には武士の必需品らしきものまでぶら下がっている始末。
 まるで誰かさんとかぶる。 しかし本人かどうかはもちろんわからない。 とはいえ、姿形など当てにならないのは経験済みだし、普段と着ている服も違う。
 こちらの思考などいざ知らず、男は女の子に視線を送ろうと顔をずらす。 しかし、後ろめたいことでもあったのか、彼はこちらに顔をみせることなくそのまま位置を戻し歩きはじめてしまった。 そして、また点線の状態へと体を透かし視界から消えていく。
 女の子はというと、見てもらえなかったことが悲しかったのか、顔を両手で隠しそのまま崩れてしまう。
 おえつまでは聞こえなかったにせよ、どう考えても泣いているだろう彼女もまた、座りこんだまま存在しなかった状態に戻っていった。
 「あ、紐が消えた」
 「はい? さっきまで持ってた ―― ってマジでないし」
 ……雰囲気ぶち壊しの発言だが、この空間は存在すら怪しいもの。 いちいち周りの空気など読まないほうがよいのかもしれない。 それが彼の考えるひとつの知恵なのかどうかは知らないが。
 「ところで、いったいどうやったら戻れんの?」
 「起きれば自然と元に戻ってるよ。 夢なんだからさ」
 「はあ、そんなもん?」
 「そんなもんそんなもん。 ほら、そうこう言ってるうちに」
 と、彼はアタシ体を指差した。 何だろうと思い頭を下に向けると、さっきから起きている現象が身にしみているではないか!
 「そいやあさ、あんたどこに住んでんだ?」
 「えーなに、逆ナンですか?」
 「違うわ! ―― もしかして霧生ヶ谷、とか?」
 「さあ? もういい加減学習しようと思うから」
 ……何か目に物見せられたんだろーか。 微妙に顔が引きつってるぞ……。
 「まあ、言いたくないならいいけどよ。 んじゃ、今日は助かった! また会う機会があるかは知らねぇけど」
 「あー、またどこかで会ったら、ね」
 と、彼はあくびをしながら初めて見かけたときと同じ表情になる。 この中でも眠気を感じるのは、普段から不足しているのかなぁ。
 様子からアタシのほうが先にあがるらしい。 手のひらを左右に振りながら、アタシの意識は光とひとつになった。



 ――― 無機質な天井が視界に入ったとき、体が気持ち悪かった。 別に体調は悪くなかったはずなのだが、ベッドから出てカーテンを開けるとどしゃ降りの水が出迎えてくれたので、ただの汗のようだ。 きっと蒸し暑かったのだろう。
 しっかしまぁ、あの女の子気になるなー。 おせっかいをやくつもりはないが、人間的心理がはたらいてしまう。
 とはいえ、あれは夢の中だ。 冷たいがどうすることもできないのは確かである。

 後味の悪さを生クリーム入りココアで流し込みながら、アタシ ―― じゃない、私は今日も日常を生きるのだった。





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