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埠頭にて

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だれでも歓迎! 編集

埠頭の二人(~越前藩国の今までそして現状~)


(新しく入ってよく知らない人のために、独断と偏見による簡単な用語解説(笑)を文末に付記)


「お、ここにいたのか」
「なんだ、天道か」

なんだはご挨拶だな、とつぶやきながら天道は埠頭の方へ足をむけた。

午前の稽古を終えたところだった。
天気がいいのでふらりと海岸沿いに出ると、人気のない埠頭に腰かけて一人釣りにいそしむのは誰あろう、
この藩国の主セントラル越前その人であった。

岸壁にはさざ波の音が染み渡るように響き、空にはカモメがのんびりと舞っている。
どことなく弛緩した空気のただよう昼下がり。たしかに釣りでもやるにはもってこいの気候だった。

「なにやってんだ?」(注1)
「…見ればわかるだろう」
「釣りか」
「それ以外に見えるなら早く義眼に変えた方がいいな……いい工房を紹介してやるぞ?」
「よしてくれ。変なビームが出るようになったら叶わん」(注2)

今も宮廷で書類の山に埋もれているであろう仮面の男を思い出して、天道は苦笑した。

「ふむ。残念だ……今度は目から怪光線風味にしようと思ったのに」
「……なんか言ったか?」
「いや、なんにも」

沈黙。だが居心地の悪いものではなく、どことなく清々しい空気が流れる。

そういえば久しくこんな時間はなかったなと天道は不意に思った。
近頃は戦争戦争で、ろくすっぽ立ち止まって周りを見る暇もなかった。
そうこうする内、気がつけばすでに季節は春を迎えている。

「あー、なんだ。隣いいか?」
「……かなり気持ち悪いぞ?」

うるせーとぼやきながら、天道は越前の隣に腰をおろした。
二人して並んで海を眺める。

「こうしていると、なんだか昔を思いだすな」
「……ふむ」

あいかわらずマスクで表情がわからないが、どこか昔を懐かしむように越前は
うなづいた。

藩邸を抜け出しては街に出て、よく二人でやんちゃをしたことを思い出す。

あの日々が、ひどく遠く感じられた。

「まあ、なんだ。うちの国もかわったな」

抜けるような青空を眺めながら唐突に天道が言った。

「そうだな」
「開発も進んだし。ここ何か月くらいでまあ、陣容も増えたもんだ。
お前さんが、刀岐乃の嬢ちゃんやらクレージュの坊主やら拾ってきたりした時は
何考えてるんだと思ったがな」(注3)
「……そんなこともあったな」
「今じゃ、藩王付きとして立派にやってるし、
I=Dのコパイとしてもかなりの経験を積んだ」
「ふ。見る目があったということだ」
「…………」

天道は相変わらず一心不乱に釣り糸を垂らす藩王に半眼を呉れた。

「……見る目があったといやあ、Wish女史だろう」
「黒埼や佐倉のことか?」
「ああ。他国との折衝もそうだし、藩内も彼らのおかげで大分整備された。
お仲間も大分連れてきてもらったしな。それに例のあれ。
天領に相当いい値段で売れたそうじゃないか?」(注4)
「うむ。彼らには感謝している。……おかげで今日も釣りができるというものだ」
「……」

何かもの問いたげな表情で天道は藩王を睨んだが、
もとよりポーカーフェイスの権化ともいうべき人物、そんなものでは
ビクともしない。

だが、唐突に天道は気づく。ここ最近、藩王に釣りをするような余裕は全くなかったはずだ。
先日までの戦の後処理、戦費の負担や今後の動き方などを巡って連日藩王会議が開かれていて、
休む暇などほとんどなかったに違いない。してみればこの時間は、恐らくわずかに出来た
余白なのだろう。いつもならいるはずのクレージュや刀岐乃といったお付きが一人もいない
ことも、それを証明していると言えた。もっとも無断で抜け出したという可能性も否定できない所ではあったが。

しかし、と天道は苦笑する。
忙しいことをおくびにも出さず、むしろ家臣を呆れさせるのはこの藩王の個性だろう。
同時に、それにすぐ気付かなかった自分に自嘲混じりの苦笑を浮かべた。

一人の人物の顔を思い浮かべる。あの人ならすぐわかっただろうか。

「そういや、伏見の御大将は元気かねえ」

伏見の御大将というのは、冬の京の王、伏見卿のことである。
藩王越前と彼はともにわんわん帝国の元首ポチ王女の血縁に連なり、そのよしみで
色々と関係も深い、のだが。どうにもこの二人の関係は、幼馴染みの
天道にも読み切れないものがあった。(注5)

「ふ。……興味なし」
「あっそ。まあそう答えると思った」
「吏族の差し替えが多くて大変だったようだがあそこは人材豊富だ。
心配なんぞ三文の得にもならん」(注6)
「……興味ないわりによく知ってるな」
「……こほんっ。よくは知らん。人伝の話だ」

急にわざとらしく咳ばらいする自分の主君に、なんだかなと思う天道。

「まあお二人が仲がいいのはわかったが」
「仲良くない」
「はいはい。ま~でもうちの国も伏見さんとこよりは少ないとはいえ、
人、多くなったもんだよな」

「さっきも言ったな」
「うるさい。だが、SEIRYUなんてちょっとほっとしてたぞ?
これで少しは仕事減るって。どんだけ仕事させてたんだか」
「ふむ。そうか。では後で仕事増やしてやらんとな」
「増やすのかよ!?」

突っ込んでから思わずゲッゲッゲッと奇妙な笑いを洩らす。
そう言えば、こんな風に笑ったのも久しぶりな気がした。

「そういや、知ってるか?」
「なにを。……その顔を見ると碌なことじゃなさそうだな」
「いや、そうでもない。刀岐乃の嬢ちゃんのことなんだが」
「……RANKのことか?」

天道はつまらなそうに舌打ちした。とっておきのネタだったのだが。(注7)

「なんだ、知ってんのか。で、なんか灯萌の嬢ちゃんやら鴻屋の坊主なんかが
色々けしかけてるみたいだな」
「ふ。今から少し楽しみにしててな」
「なにを?」
「『むすめが欲しければわたしをたおしてっ…!』」

スパンっ!

間髪入れずにどこからか取り出したスリッパで
藩王をしばく。
越前広しといえどさすがにこんな真似をできるのは
天道くらいしかいない。

「……なかなか痛いぞ」
「黙れ。海に沈められなかっただけありがたいと思え」
「やれやれ。洒落のわからんやつだ」

やれやれはこっちだと天道は首を振った。

「……あ~そういや新しい国民が増えたらしいな。
空木さんと言ったか?大工やってんだってな。
ちょうどいいから、あれだ、藩王邸の改築でも頼んでみたらどうだ?」
「……む」

珍しくも藩王が何か苦いものでも口に含んだかのように言葉を言いよどむ。
天道は無論それを見逃す性質ではなかった。

「どうした?」
「実はもう頼んでみた。そしたらな…」
「ほお~。何があったんだよ?言ってみ?」

藩王は苦々しげな空気を纏わせたまま、横にいる天道をちらりと見てため息をついた。

「改築を頼んだのだがな…」
「それで?」
「こんな古い建築物を改築するなんてもったいない、このままにしておきましょう!って言われてな…」
「ふむふむ」
「それだけならまあいいんだが、挙句の果てに、これは重要保護文化財にして保存しましょう!
なんて言いだしてな…。危うく追い出されそうになった…」

「げっげっげっげっ!」
「笑うな!!」

それでもひとしきり天道は笑うと、ふと真面目な顔になった。

「……まあ冗談はこれくらいにして。仕事はいいのか?」
「ふむ。必要な処理は、黒埼がやっている」
「黒埼殿か……少し休みでもやったらどうだ?」
「天道」
「なんだよ…?」
「……一つ、教えてやる」

不意に藩王の風を吹かせながら越前が天道に向きなおった。
一瞬にして引き締まる空気にわずかに気圧される。

「……なんだ?」
「いいか。よく聞け。――――仕事の報酬は、仕事だ」
「―――っ」

思わず絶句する。

ということは。天道はふと考え込んだ。
あの同業に、仕事で手を抜くという発想はない。
ならば、頑張れば頑張るだけ仕事が増えていくということは、

――――合掌。

今後もどんどん仕事が増えていくだろうご同業のことを思い、
天道は知らず涙を流していた。

そんな天道の葛藤をよそに、藩王はそれだけ言うと
何事もなかったようにまた釣りに戻っていた。
思わず天道が空を見上げる。どこまでも青く、澄み渡った空が見えた。

「……なあ、この戦、いつまで続くと思う?」
「さて、な。星見司によれば、この前の後ほねっこ領奪還戦で敵の一部隊はこの世界を去って、小康状態という所のようだが……」

天道はため息をついた。

「あのボラーや、敵の指揮官らしきやつを叩いたとはいえ、あれで一部隊とはな……」
「だが、わかったこともある。やつらは化け物揃いではあるが、
一人一人の強さには差があるし、倒せない相手ではないということだ」


「ああ、まがりなりにも一部隊を退けたわけだしな」
「うむ。それにボラーというのは、どうも奴らの中でも強者に位置づけられるものだったと見える。」
「たしかに、奴を叩いてからいくらか戦は楽になったな」

無論実際は楽になったなどという話はない。ただ、こちらがしかるべき戦力を整え、
しかるべき戦術を構築しはじめた、という話である。

その結果、多大な犠牲を払いながらも小笠原では攻勢に転じ、念願のボラー打倒を成し遂げた。
後ほねっこ藩国では、占領していた敵を追い払うことに成功し、
過程はどうあれ敵の一部隊を撤退に追い込んだ。(注8)
猫も犬も、単独では成し得なかったであろう、大戦果である。

「しばらくは平和ってことか…」
「束の間の、だがな」
「なあ……」
「なんだ?」
「当たり来てるぞ」

その言葉に越前が視線を戻すと、釣り竿が激しく
引っ張られていた。めんどいので義体腕をオートにして
固定していたのが仇になった。しかもいつもの癖で省エネのため
振動センサーを切っていたのもミスであった。これだけ激しく
引いているのに全く気付かなかったのだ。まさに貧乏根性が仇になったという他はない。

「なあ、釣る気あったのか?」
「うるさい、今それどころじゃない」

思わぬ当たりに越前が魚と格闘しているのを横目でみつつ、天道は大あくびを一つ。なんか悲鳴らしき声が聞こえたので横を見ると、巨大な越前真鯛に引っ張られて越前が海に投げ出される、まさにその瞬間だった。

盛大にしぶきを立てて海に消える越前藩王を横目で見て、ありゃあ錆取り大変だろうな、と思いつつ天道はまた空に視線を移す。

曇りのない越前晴れがどこまでも広がっていた。

「……あ~。今日もいい天気だねえ」


時に、広島にリンクゲートが開き、SEIRYUやRANK、刀岐乃、夜薙や新たに加わった空木 虚介と言った面々が土場藩国と共に夜明けの船に乗って旅立つ、数日前のできごとであった。


●特別付録:独断と偏見による語句解説

(1)PC天道さんはセントラル越前王の幼馴染&剣術道場での兄弟子にあたり、二人きりの時は
割とぞんざいな口調。ちなみにこの設定は後から追加。余談だが越前ではこのように設定がいきなりSSで追加されることがよくある。(必ず本人に許可はとりましょう(笑))

(2)目からビームの顛末については越前wiki「罰SS」参照。むしろ必見。

(3)二人は元から越前にいたのではなく、越前王によって拾われてきている。

(4)ドメイン関連サービスが100億で売れた件。藩国でも有数の快事として記憶に新しい。
ぐっばい貧乏!そしてビバ100億!この件に関しては黒埼さんをどれだけ褒めたたえても
足りないであろう。……しかし、この内の80億をかけたゲートはEV81で盛大に吹っ飛んだ…orz

(5)越前王と冬の京の伏見王は設定上の縁戚同士。詳しくは「ふたりはなかよし ~激闘編~」(セントラル越前)?など参照。なお、極まれに藩国チャットでお二人が揃った場合、生で藩王漫才が見られることがある。必見。

(6)Ver7からVer7.5へのルール変更に伴い、今まで必須だった吏族が差し替えになった。
このため、吏族を含んだ職業アイドレスを二つ以上とっていた国などは差し替え作業で複数アイドレス
を差し替える必要があった。伏見藩国(冬の京)は吏族を含んだアイドレスを二つ取っていたためその差し替えはかなりきつかった模様。だがそれでもあのクオリティはさすがの一言。

(7)「恋模様薄紅桜ーイベント70終了後の一コマ」 参照。説明が恥ずかしいので省略。あまり見ないでいただけると嬉しい。

(8)テンダイス「小笠原決戦」、「後ほねっこ領奪還戦」参照
この戦いで、これまで戦ってきた白オーマのアラダ達は世界移動して撤退。
ボラーやG日向といった敵の重鎮らしきアラダを討ちとることに成功した。
(ただしボラーは復活の恐れあり)




大分前に書いたSS。これまでを振り返る目的で書いたが、色々展開が早くてお蔵入りしていたのを発掘して加筆。

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