「……」
「……」
窓の外から誰かの声がする。
年少の藩士たちがまだ遊んでいるのだろうか。
「……」
窓の外から誰かの声がする。
年少の藩士たちがまだ遊んでいるのだろうか。
そんなことを頭の隅でぼんやりと考えながら、黒埼は帳簿の数字をにらみ続けていた。
「……」
「……」
窓の外からまた誰かの声がする。
もう暗いのに、困ったものだ。
「……」
窓の外からまた誰かの声がする。
もう暗いのに、困ったものだ。
黒埼は再び帳簿に目を落とす。
「にゃん…」
「…ちゅう」
言葉の断片だけが聞き取れる。
おいおい、ここはわんわん帝国だぞ。
「…ちゅう」
言葉の断片だけが聞き取れる。
おいおい、ここはわんわん帝国だぞ。
つい、心の中で突っ込みを入れてしまい、ブドウ糖を口に放り込んでまた帳簿に筆を走らせる。
「にゃんにゃん…」
「…ちゅう~」
言葉の断片が、さっきよりも近いところから流れてくる。
「こら、もう暗いんだぞ。それにここはわんわん帝国…だ……?」
思わず窓を開けてしまったが、目の前には誰もいない。
「…ちゅう~」
言葉の断片が、さっきよりも近いところから流れてくる。
「こら、もう暗いんだぞ。それにここはわんわん帝国…だ……?」
思わず窓を開けてしまったが、目の前には誰もいない。
当然だ。
自分の仕事部屋は二階なのだから。
自分の仕事部屋は二階なのだから。
「あ、摂政さまー」
窓の下から、少女の声がする。
落ちない程度に身を乗り出してみれば、七海と年少組の藩士たちとが中庭に集まっている。
「来て来て~。キレイだよ~」
声をかけてきた少女、閑羽が手招きする。
窓の下から、少女の声がする。
落ちない程度に身を乗り出してみれば、七海と年少組の藩士たちとが中庭に集まっている。
「来て来て~。キレイだよ~」
声をかけてきた少女、閑羽が手招きする。
空を見上げてみるが、彼女が言うのは厚い雲の向こうに隠れてしまった月のことではないようだ。
やれやれと帳簿を閉じると、子供たちの集まる中庭へと足を向ける。
彼らが取り囲んだ中央には、淡く明滅するいくつかの光点があった。
彼らが取り囲んだ中央には、淡く明滅するいくつかの光点があった。
「ホタルか。珍しいな」
黒埼の言葉を聞きながら、閑羽がおそるおそるホタルに指を伸ばした。
「そっとしておいてあげなさい」
言われて閑羽は素直に指を引っ込める。
黒埼の言葉を聞きながら、閑羽がおそるおそるホタルに指を伸ばした。
「そっとしておいてあげなさい」
言われて閑羽は素直に指を引っ込める。
静かに、ゆっくりと、館の者たちが集まり始め、はからずも催されたホタル狩りは、光の主がみな飛び去ってしまうまで続いた。
ゆったりと気分を落ち着けた黒埼の耳に
「にゃんにゃんちゅー」
と聞こえてきた。
周りを見回すが、誰もが静かにホタルを眺めているだけで、話し声などしない。
「にゃんにゃんちゅー」
と聞こえてきた。
周りを見回すが、誰もが静かにホタルを眺めているだけで、話し声などしない。
黒埼が不思議に思っていると、今、声が聞こえた場所より、ずっとずっと遠くから、また
「にゃんにゃんちゅー」
と声がした。
「ネコリス?」
「遠くだねー」
今度は他のものたちにも聞こえたらしい。
「にゃんにゃんちゅー」
と声がした。
「ネコリス?」
「遠くだねー」
今度は他のものたちにも聞こえたらしい。
たまには、こんな時間も悪くないかもしれないな。
もう一度だけ、遠くからかすかに
「にゃんにゃんちゅー」
の声が聞こえた。
「にゃんにゃんちゅー」
の声が聞こえた。
【文責:椚木閑羽@越前藩国】